「彼・・・・・・、何であんなに怒ってるの?」

 言われた通り酒を飲みながらアシロが聞く。

 「うちの店の看板を蹴ったから、
  そしてうちの友人のあんたが標的だから。」

 「・・・・・・・・・おかしいよ、其れ。」

 「おかしいだろ?でもそんな男なんだよあいつは。」

 零子が笑った。
 零子の笑みはアシロも殆ど見た事が無い。
 笑うべき場面でも作り笑いばかりだった。

 「自分の事じゃ絶対怒らない。
  どんだけ馬鹿にされても攻撃されても、ましてや殺され掛けても怒らない。
  名前読み間違えられるとぶすっとするけどね。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「でも自分の知り合いや友人に何か有れば相手は絶対許さない。
  昔は手焼いたもんさ、大人でも構わず向かって行くんだから。」

 「・・・・・・馬鹿だね。」

 「馬鹿だろ?でも其処が良いんだよ。
  少ないけど友人は、あいつがそういう信頼出来る奴ってのを知ってる。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「興味が湧いた?」

 アシロはグラスを傾け微笑した。

 「・・・・・・少しね。」

 「そいつは良い、あいつ程味方にすると頼もしい奴もいないしね。
  ・・・・・・・・・!
  何より頼み事聞いてくれるんで便利さ。」

 「誰が便利だ誰が。
  終わったと分かった途端滅茶苦茶言いやがって。」

 柊が暖簾を上げ入って来た。
 既に拭いた後か血は全く付いていない。

 「君・・・、終わったの?」

 出されたまま酒を飲み直している柊に聞く。