女は涙を流しながら訴える。

 「殺さないで!殺さないで!!
  な、何でもするから!!
  お、お金なら少しあるわ!ふ、服もあげる!!
  だから殺さないで!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 男は踵を返し歩きだした。

 「え・・・?ちょ、ちょっと――――――

 「五月蝿え!」

 「ひっ・・・!」

 「とっとと消えろ。」

 そう言うと男は夜の闇に消えた。
 5分後、パトカーと救急車のサイレンが鳴り響く。

 「つまんねえ。」

 男は歩きながら呟いた。

 既に持ち前のハンカチの一つで拭いた手は綺麗になっている。

 夜は闇を生む。
 光度ではない、心の闇だ。

 故郷程荒れてはいない、只それは何処でも一緒。
 何処でも犯罪が置き、生物が食物連鎖で無しに他生物を苦しめる。

 何という無益。

 「きゃー!」

 再び叫び声、次は何か、強襲か強盗か殺人か。

 彼は溜息をついた。

 意味が無い。

 己が何をし様が無意味。
 十分それは分かっていた。
 何故なら、彼は同じ生物なのだから。

 彼は叫び声と逆の方向へ歩き始めた。