いつかの日の夜。

 グラスを拭く音だけが響く中、
 殆ど無音の空間でクロは酒を飲んでいる。

 「・・・・・・どうなんですか?組織の具合は?
  ・・・・・・・・・レイン・ルーラーになれそうですか?」

 早苗が話しかけたがクロは答えない。

 こういう空間でそう急ぐものではない。

 「・・・・・・・・・無理だな。」

 「?」

 早苗は目を丸くした。
 この人が無理というのも珍しい。

 「・・・今は無理だ。
  家はあくまで“強大組織”、世界政府の位置づけは正しい。
  今上のやつらと戦争しても無駄な犠牲者が出るだけだ。」

 「・・・・・・・・・でも・・・。」

 グラスを持つ早苗の手は止まっている。

 「ただ、心配はしていない。
  むしろ俺は安心している。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 いつ落として割るやもしれないグラスを、早苗はカウンターに置いた。

 「例えば副隊長、雷太や新太郎はまだまだ成長期だ。
  まだ相当に強くなる、だからこそ副隊長の座に付かせた。
  今は無理だが、成長したあいつらとならやれるだろう。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は仲間に恵まれているよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」



 「クロが・・・そんな事を・・・・・・。」

 もちろん、雷太達の前では決して言わないだろう。
 しかし信頼されている事は確かだ。

 「貴方は強いわ。しかも、まだまだ強くなる。
  それは何よりクロさんに保障されている。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうかしら?」

 「・・・・・・・・・ああ、ありがとう・・・。」