約30分後、彼らはついに書斎No.3にたどり着いた。

 《・・・・・・ほんとに30分かかってる・・・。》

 「・・・・・・・・・・・・。」

 雷太はさっきから黙ったままだ。いつになく顔は真面目である。

 氷雨は雷太に向き直った。

 「ここが書斎No.3です。・・・どうぞお入り下さい。」

 「・・・うん、ありがとう・・・。」

 しかし、雷太は一度扉の取っ手に手をかけるも、それを離した。

 「?・・・どうしたんですか?」

 氷雨が不思議そうに聞く。

 雷太は後ろを向き、氷雨を正面に見た。

 「・・・・・・氷雨さん。・・・・・・俺達、前に会った事ないかな?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 しばらくの間沈黙が続く。

 やがて、氷雨はにっこりと笑った。

 「・・・・・・いいえ。」

 「ありませんよ。・・・・・・一度も。」

 「そ、そう・・・。・・・そうだよね。あはは、何言ってるんだろ俺。ごめん変な事言って。」

 「いえいえ、では、私はここで失礼しますね。」

 氷雨は一礼して去っていった。それを雷太は黙って見つめる。

 「・・・・・・・・・。」

 《・・・・・・縄文式なんぱか・・・。》

 「いや、うっさいなー!なんぱちゃうわ!!」

 雷太は見えなかった。・・・・・・いや、見せてもらえなかった。
 足早に去っていく氷雨の表情を、そしてユウに突っ込むおかげで見逃した廊下上の雫を。
 雷太は見る事ができなかった。



 やがて、氷雨の姿が見えなくなると、雷太はまた書斎No.3の扉の取っ手に手をかけた。

 きれいな装飾が施された、白い両開きの扉だ。

 彼は扉を開いた。



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