「うおおおおおおお!!」

 雷太は走っていた。
 事もあろうに、敵であるIFPの基地内をだ。

 《なんて腕白なお子様なんでしょう。》

 「やかましい!!好きで来たんじゃねーよ!!」

 ・・・その雷太の後ろには・・・、

 「待てコラああああああ!!!!!」

 大勢のIFPの兵士が抜刀し追いかけてくる。

 ワープの魔法の詠唱失敗でとんでもないところに来てしまった。
 ・・・・・・しかも――――――

 「ちくしょう!
  移動魔法『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!!」



 ・・・・・・。



 《シ〜ン・・・・・・。》

 ――――――この基地内では何らかの原因でワープが出来ないらしい。

 「何でだあああああ!!?
  『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!」

 発動しない。魔力消費もしない。

 雷太は更に加速して逃げ、負けじとIFP兵達も懸命に加速する。

 先程武器倉庫から出た途端兵二人にばったり会い、それからずっとこの調子だ。

 今や随分と後ろの兵も増えてしまった。

 《まさに人間お掃除ワイパー。》

 「もっといい例えがあるだろ!?
  ちくしょう!IFP基地に間違ってワープとか、なんてついてないんだ!??」

 しかし、雷太は腐っても組織所属者。
 相手がIFP兵とはいえ、このままだといつかは逃げ切れるだろう。

 《既に腐っているけどな。》

 「てめっ!!・・・・・・・・・!?」

 「銃撃部隊・・・・・・・・・構え!!」

 長い廊下の前のほうで、銃撃舞台が待ち構えていた。
 殺傷能力十分なライフルが、雷太に一斉に向けられる。
 流石連携は取れているようで、雷太を追う兵たちは既に後ろの壁の向こうに隠れている。

 「やべ・・・・・・!!」

 雷太はとっさに横の狭いわき道に飛び込んだ。

 「・・・・・・てっ!!(撃て)」

 激しい銃声が響く。目標を失った銃弾が、先の壁を細かくえぐる。

 銃撃を示唆した、恐らく二等兵であろう上官はすぐさま連絡を全体に取った。

 「こちら銃撃部隊。残念至極ながら射撃瞬間に目標を消失。
  これより我々はライフルを捨て、抜刀隊と共に拳銃で追跡する。以上!」

 すぐさま、銃撃部隊と抜刀隊は合流し、相手に足りない武器を渡しあって『銃剣部隊』となった。
 二等兵の号で一斉にわき道に入っていく。

 ・・・・・・・・・が――――――

 「・・・・・・こちら銃剣部隊、目標を完全に見失った。
  ただ今よりこちらの全兵により捜索を開始する。以上!」

 銃剣部隊はある程度ばらばらに散った。

 やがてそこには誰もいなくなる。

 と、そこへ突然煙と共に雷太が現れた。

 「危なかった・・・。潰されるかと思った・・・・・・。」

 なるほど、
 容積魔法『極小小人(タイニー・マン(tiny man))』だ。

 《体をめちゃくちゃ小さくしたわけね。・・・潰れされればよかったのに。》

 「・・・・・・。なんか一か八かだったけど、移動魔法以外は使えるみたいだな・・・・・・。
  とはいえ、もうこの魔法は使えないな。」

 確かに。いつ潰されるか分からないし、何より移動が大変すぎる。
 移動距離が何十何百倍にも増えるのだ。

 「しかし、またいつ見つかるかも分からないし・・・・・・。
  ここはやはり透明化かな――――――



 ズッ・・・!!



 突然、雷太の後ろの壁から光り輝く剣が突き出てきた。

 「・・・・・・・・・えっ・・・?」

 突然の事に、雷太は声が出ない。

 その光の剣は四角に動き、壁を斬った。
 四角に切られた壁が、壁の向こう側に重い音を立てて落ちる。
 当然だが、向こうには人が立っている。

 その者は、素早く手を伸ばし、雷太の服をつかんだ。

 「う、うわっ!!?」

 雷太は部屋の中に引きずり込まれた。