「まあ座れ。」

 クロは片手でもう一方の椅子を指し示しながら、新しい煙草に火を点けた。

 遅刻の事はお咎め無しだ。雰囲気によると、大事の前の小事らしい。

 「ああ。」

 雷太は座った。

 「・・・・・・すぐに氷雨が飯を持ってくる。話はその後だ。」

 雷太は考えた。

 「・・・・・・・・・。(なんか今日のクロはいつもと雰囲気違うな・・・。
  ・・・なんていうか、いつもより・・・・・・さらに暗い。・・・・・・そんなに重要な話なのか?)」

 彼は更に気を引き締めた。

 しばらくの静寂が訪れる。クロは落ち着いて煙草を吸っているいるが、雷太はどうも落ち着かない。

 と、突然クロが吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると同時に、氷雨が部屋の扉を開け料理を運んできた。

 流石の彼も、食事をする時には吸わないようだ。

 今日の昼食は洋風らしい。

 自家製の、焼きたてのロールパン2つにきれいなレモンイエローのオムレツ、
 瑞々しいグリーンサラダ、そしてケチャップやマーガリンなどの様々な調味料。
 更にクロにはブラックコーヒー、雷太にはバナナミルクセーキが添えてある。

 「・・・・・・。(うまそうだな。さすが氷雨さん!)」

 料理を並べると氷雨は、一礼して下がっていった。

 クロは椅子を引く。

 「相変わらず美味そうだ・・・。・・・・・・さて・・・。」

 「・・・!!(来たか!?)!」

 雷太はどんな重要な話でも驚かないように、―――もちろん組織解雇などは別だが―――心の中で身構えた。

 「まあ食え、味は勝手に保障する。」

 「・・・!えっ!?」

 雷太は驚いて声を上げた。心の構えのベクトルが違う。
 まさか話より先に食べるとは思っていなかったようだ。

 それをクロは見逃さない。

 「・・・・・・。・・・俺は飯を食いながら話す為にここを指定したんだ。
  ・・・・・・でなければここは使わん。他の部屋で事足りる。
  ・・・まあ食え、流石に出来立ての方が美味い。」

 「あ、ああ・・・・・・。」

 雷太はフォークとナイフを手に取った。・・・・・・だが、一向に手が進まない。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロは微笑した。

 「さっきから緊張しているな、見え見えだ。・・・・・・が、まあそう焦るな。
  確かに重要な用件だが、お前になら安心して任せられる。・・・・・・そう、俺は思っているんだがな、副総長。」

 雷太は、クロの微笑とその言葉に安心した。これまでの緊張が嘘のように解ける。

 「・・・・・・ああ!」

 彼らは料理に手をつけた。