雷太はその場を立ち去ろうとした。

 ・・・が、――――――

 「・・・ガハッ・・・ゴホゴホッ・・・・・・。」

 ラドクリフが激しくせきこんだ。

 「・・・ゲッ・・・!こいつもう起きやがった!やばっ!」

 「・・・て、・・・てめえ・・・!・・・手加減しやがったな!?」

 「・・・(ギクッ)・・・。いや・・・してませんよ。」

 雷太は目をそらした。敬語といい、バレバレだ。

 「・・・ちっ・・・・・・お前は世界中の魔法使いの中でも相当な上位に入っている。
  ただの人間の俺を殺す事など、赤子の手を捻りまくるよりも簡単なはずだ。」

 「・・・・・・・・・。(なんつー嫌な例えだ・・・。)」

 「・・・・・・殺せ。・・・・・・悪に適わず滅ぶも、また“正義”だ。」

 ラドクリフは空を一点に見つめたまま、静かに言った。雷太は片眉を上げる。

 「・・・・・・やだね。だいたい俺、人殺した事ねーし。」

 「な・・・!?」

 驚きの余りか、ラドクリフは肘を支えに上体を起こした。

 「お前、それでも“強大組織”の副総長か!?」

 「まあな。・・・それに俺、戦う事自体があまり好きじゃないんだ。
  それとも何か?俺が人を傷つけるのを全くためらわない、戦好きの悪党だとでも?」

 「・・・・・・それが組織ってもんだろう。」

 「・・・・・・・・・。・・・ああ、そうだ。・・・・・・でも、例え人を殺さなくても、世界は奪れると思うぜ。」

 雷太はそう言いながら笑った。裏表のない笑みだ。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 ラドクリフは雷太から目をそらした。

 「・・・さっさと行け。・・・・・・次こそは、捕まえるからな・・・。」

 「・・・・・・・・・ああ。」

 そう言うと、雷太は歩き出した。

 「・・・さて、まずは『あいつ』のところへ行かなきゃな。」