第31話 “空を飛ぶ鉄拳”


 深々緑の髪。高めの背。
 薄青の着物に、襠有袴ではなく戦用の白い馬乗袴。
 そして鉄壁に大穴を空けた包帯が巻かれた拳。

 その眼光はしかと雷太に注がれている。

 「秋葉軍曹がやられたか・・・。御苦労だった。」

 神谷は秋葉に深く会釈をした。
 秋葉は意表を突かれ、思わず静かに首を振った。
 会ったこともなく厳しい人だと聞いていたが、礼儀節理が通った人らしい。

 大穴が開いた鉄壁をとおり、神谷は一歩入ってきた。

 「ここからは俺が受け持つ。」

 雷太は一歩引いた。
 威圧感が半端ではない。

 「マジかよ・・・・・・・・・。」

 そこへ、ヴィースが急いでやってきた。

 「待ってください、大佐!」

 神谷はヴィースをまっすぐに見る。

 「ヴィース中佐・・・。・・・そうか、お前は龍 雷太と同じ『ブラックメン』の一員・・・。
  どちらにも手を出すことは出来ないか・・・・・・。
  まあいい、今は俺がいる。」

 ヴィースの顔に汗が伝う。

 「お言葉ですが大佐。龍 雷太は何もしていません。
  秋葉軍曹を倒したのも、正当防衛かと・・・・・・。」

 「なるほど、『IFP規約第32条』。
  “IFPに属する者はその敵対する者が悪行を行っていない限り、捕縛または危害を加えてはならない。”か・・・・・・。」

 流石に、ヴィースも危険だと思っているらしい。
 秋葉の時とは違い、慌てて説得する。

 確かに、理論上雷太は何もしていない。
 本来なら攻撃を加えてはならないはず。

 ・・・・・・が――――――

 「・・・・・・関係ないな。」

 神谷は言い放った。