第20話 “古の城−その名不明−”


 ・・・ここは『IFP空軍部第5支部基地』。
 先程のクロとギンの電話で出た場所だ。
 その数ある部屋の一室に、一人の男が座っていた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 無言で背を椅子にもたれて足を組み、上を向いて煙草を吸っている。

 その机には殆ど何も無いが、何故か少量の『燃えカス』が落ちている。煙草のではない。

 ふいに、部屋のドアが激しくノックされる。

 「失礼いたします!」

 威勢の良い声だ。
 どうやら、『この部屋の男』をまだ良く知らない新兵らしい。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 部屋の男は答えない。

 「・・・・・・?失礼いたします!!」

 部屋の男はだらりと下げていた腕を上げ、煙草を取った。

 「・・・・・・・・・・・・うるせえ、さっさと入りやがれ。」

 「!?は、はい!」

 新兵は入って敬礼した。
 部屋の男はそれを無視して敬礼は返さず、上を向いたまま見もしない。

 「お手紙をお持ちいたしました!」

 「・・・・・・・・・・・・ああ・・・。」

 部屋の男は始めて新兵に顔を向けた。
 目の下に、色濃い『くま』があり、髪はボサボサだ。よく見るとIFP専用の羽織も少々違う。
 新兵の羽織はいつかの『ラドクリフ』と同じだが、部屋の男の羽織はもっといい生地で、いくつかの勲章や飾りがある。
 どうやら、部屋の男の階級は、新兵やラドクリフよりもずっと上らしい。
 彼が、ギンの言っていた『鉄人』・・・・・・・・・・・・なのか?

 手紙を受け取り、目を通した部屋の男は、新兵を死んだ魚のような目で見た。

 「・・・・・・・・・・・・お前、先日入ってきたやつか?」

 「はい!先日入隊いたしました!!名前は――――――

 部屋の男は、うるさそうに手で空中をはらった。

 「・・・・・・・・・・・・いい、いい。どうせ覚えられねえ。
  ・・・・・・・・・・・・先日ってこたあ俺のことも知らねえって事か・・・・・・。・・・・・・・・・・・・ちっ・・・。
  ・・・・・・・・・・・・いいか、俺は低血圧なんだ。俺の周りでうるさくすんじゃねえ・・・。」

 「あ、・・・・・・すみません。」

 物分りのいい新兵は、急に声を落とす。

 部屋の男は椅子を立ち上がり、手紙を広げた状態で持ったまま新兵に背を向け、後ろの窓から下を見た。
 そのまま言葉を続ける。

 「・・・・・・・・・・・・まあ、いいがな・・・。どうせいずれ知る事になる。
  今日も俺名義の臨時集会だ。・・・・・・面倒くせえ。」

 部屋の男は、自らの名で集会を起こせるほどの大物らしい。・・・・・・不本意らしいが。

 男は広げた手紙を肩の高さらへんにまで持ってきた。
 新兵は不思議そうに見る。



 ボオゥ・・・!



 突然、彼が手にしていた手紙が、炎を上げて燃えた。
 魔法ではない。

 「・・・!!?」

 新兵は声こそ出さないが驚愕している。

 「・・・ま、適当に勉強しろ。知ることと、火には罪はねえ。」

 そういった部屋の男の『くま』は薄れ、目には生気が溢れている。

 「は・・・はい!」

 新兵は敬礼し、出て行った。