第20話 “古の城−その名不明−”


 ・・・ここは『IFP空軍部第5支部基地』。
 先程のクロとギンの電話で出た場所だ。
 その数ある部屋の一室に、一人の男が座っていた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 無言で背を椅子にもたれて足を組み、上を向いて煙草を吸っている。

 その机には殆ど何も無いが、何故か少量の『燃えカス』が落ちている。煙草のではない。

 ふいに、部屋のドアが激しくノックされる。

 「失礼いたします!」

 威勢の良い声だ。
 どうやら、『この部屋の男』をまだ良く知らない新兵らしい。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 部屋の男は答えない。

 「・・・・・・?失礼いたします!!」

 部屋の男はだらりと下げていた腕を上げ、煙草を取った。

 「・・・・・・・・・・・・うるせえ、さっさと入りやがれ。」

 「!?は、はい!」

 新兵は入って敬礼した。
 部屋の男はそれを無視して敬礼は返さず、上を向いたまま見もしない。

 「お手紙をお持ちいたしました!」

 「・・・・・・・・・・・・ああ・・・。」

 部屋の男は始めて新兵に顔を向けた。
 目の下に、色濃い『くま』があり、髪はボサボサだ。よく見るとIFP専用の羽織も少々違う。
 新兵の羽織はいつかの『ラドクリフ』と同じだが、部屋の男の羽織はもっといい生地で、いくつかの勲章や飾りがある。
 どうやら、部屋の男の階級は、新兵やラドクリフよりもずっと上らしい。
 彼が、ギンの言っていた『鉄人』・・・・・・・・・・・・なのか?

 手紙を受け取り、目を通した部屋の男は、新兵を死んだ魚のような目で見た。

 「・・・・・・・・・・・・お前、先日入ってきたやつか?」

 「はい!先日入隊いたしました!!名前は――――――

 部屋の男は、うるさそうに手で空中をはらった。

 「・・・・・・・・・・・・いい、いい。どうせ覚えられねえ。
  ・・・・・・・・・・・・先日ってこたあ俺のことも知らねえって事か・・・・・・。・・・・・・・・・・・・ちっ・・・。
  ・・・・・・・・・・・・いいか、俺は低血圧なんだ。俺の周りでうるさくすんじゃねえ・・・。」

 「あ、・・・・・・すみません。」

 物分りのいい新兵は、急に声を落とす。

 部屋の男は椅子を立ち上がり、手紙を広げた状態で持ったまま新兵に背を向け、後ろの窓から下を見た。
 そのまま言葉を続ける。

 「・・・・・・・・・・・・まあ、いいがな・・・。どうせいずれ知る事になる。
  今日も俺名義の臨時集会だ。・・・・・・面倒くせえ。」

 部屋の男は、自らの名で集会を起こせるほどの大物らしい。・・・・・・不本意らしいが。

 男は広げた手紙を肩の高さらへんにまで持ってきた。
 新兵は不思議そうに見る。



 ボオゥ・・・!



 突然、彼が手にしていた手紙が、炎を上げて燃えた。
 魔法ではない。

 「・・・!!?」

 新兵は声こそ出さないが驚愕している。

 「・・・ま、適当に勉強しろ。知ることと、火には罪はねえ。」

 そういった部屋の男の『くま』は薄れ、目には生気が溢れている。

 「は・・・はい!」

 新兵は敬礼し、出て行った。



 ―――――― 場は変わりジェライス山の山頂。



 雷太は歩いていた。

 「まだ着かないのかよ・・・。ここ本当に山頂か?」

 《雷太の歩幅は3cm、移動速度は秒速1mです。》

 「俺はハムスターか!?ここ本当に広いんだぞ!
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

 雷太の目の前に妙な白線が現れた。
 その白線の向こう側には雪など一切降っておらず、薄緑の草原が広がっている。
 どうやら、何かの境界線のようだ。

 「この線って・・・・・・・・・?
  ・・・・・・・・・なんで向こう側雪ねーんだ?」

 雷太は、恐る恐るゆっくりと白線を踏み越えた。・・・・・・すると・・・。

 「・・・・・・ん?なんだ・・・・・・あったかい・・・。この線の中あったかいぞ!!
  え〜と気温は・・・・・・・・・24℃!?・・・やった、もう魔法いらねーや。」

 雷太は魔法を解除した。
 どうやら、この白線の中はある意味世界が違うらしい。
 デュークは科学者らしいが、これも科学の力なのだろうか?

 《・・・・・・流石に、それは凄すぎないか・・・?》

 「だよな・・・。まあ、とにかく行こう。たぶんそろそろのはずだ。」

 雷太は再び歩き出した。



 ―――――― 少したって。



 雷太は気候がいいので機嫌よく、鼻歌まで歌っている。

 《ちなみに歌っているのは『しらけ鳥音頭』です。》

 「・・・・・・・・・・・・・ん?」

 雷太は歩みを止めた。
 前方から誰かが、草原を歩いてくる。

 「・・・・・・・・・。(誰だ?)」

 視力のいい雷太でも、これだけ離れていては見えない。
 身構えまではしないものの、用心しとりあえず魔力をねる。

 やがて、そのものは雷太の目の前まで来ると止まった。
 2mぐらいしか離れていないので、今度は余裕で顔がはっきりと見える。

 相手の体格は良く身長も高い。
 アーミー柄の服を着、緑髪。
 鼻の頭から両頬にかけて大きな一文字の傷がある。斬り傷のようだ。

 「やあ、こんにちは。」

 緑髪のものは、微笑して挨拶した。



 「あ、こんにちは。」

 雷太も慌てて挨拶を返す。

 「こんなところに人が来るなんて、久し振りだなあ・・・。
  どうしたの?迷ってここに来たとは思えないけど・・・・・・。」

 「『デューク』って人に会いに来ました。クロの使いで。」

 緑髪のものは目を丸くする。

 「もしかして、君って・・・、『龍 雷太』君?」

 「・・・・・・そうですけど・・・?」

 「それなら話は早い。君が来ることはデュークから聞いてるよ。
  俺の名は『D・J』。この山頂の番人みたいなもんさ。」

 「・・・は・・・はあ・・・。」

 D・J。恐らく、本名ではないが、それでも珍しい名だ。

 「とりあえず、デュークはこの先の城に住んでる。行こうか。」

 「は・・・はい。」

 二人は歩き出した。



 しばらくすると、目の前に巨大な城が現れた。
 かなり前に建てられたものらしく一部が崩れ、他の部分も老朽化が激しく、いたるところにつたが巻いている。
 が、腐っても城。雄大な事に変わりは無い。

 「すげえ・・・・・・、・・・汚いけど・・・。」

 雷太は圧倒されると同時に、正直な感想を漏らした。

 「手入れしていないからボロボロなんだよね。一階の一部と地下しか使ってないし。」

 D・Jが答える。
 デュークは城の地下に住んでいるらしい。

 「へえ〜〜・・・。」

 「ここには俺とデュークを含めて、6人が住んでるんだ。
  ・・・・・・最も、俺を『人』と数えていいのかは知らないけど。」

 雷太はこの言葉に疑問を持った。

 「なんで?どうみても人だけど・・・。」

 「・・・・・・・・・?・・・。」

 D・Jは不思議そうな顔を返した後、納得したようにうなずき微笑した。

 「そうか、見た目じゃわからないか・・・。
  実は俺、人間でも魔族でもないんだ。」

 「・・・えっ!!?」

 雷太は驚愕した。
 人間でも魔族でもない。そんな生物は聞いた事が無い。

 「・・・・・・でも、・・・どう見ても人間か人間型の魔族だけど・・・・・・。」

 「まあ、見た目には分からないさ。
  俺は・・・・・・『ロボット』だからね。」

 「・・・・・・・・・・・・ロボット!??」






第21話 “古の城の面々−D・Jと健−”


 「・・・・・・・・・・・・ロボット!??」

 雷太は驚愕した。

 「そう、・・・・・・個人的にはロボットじゃなくて、機械って呼んでほしいんだけどね。」

 しかし、D・Jはどう見ても人間か人間型魔族だ。ロボットなんて信じられない。

 雷太の疑う顔にD・Jは気付いたらしい。

 「・・・まあ、見た目には分からないか、・・・・・・ほら。」

 D・Jはいとも簡単に腕を外した。
 中に配線は無いが、全てが機械で出来ている。

 「うわっ!ほんとだ・・・。・・・見た目には分からないな〜。」

 「まあ、触った感じも人肌と殆ど変わらないしね。」

 そうこう言っているうちに城の入り口に着いた。

 《ちゃんと歩きながら話してました。》

 真っ黒な、重量感のある巨大な扉だ。
 これも使い古されているらしく、ボロボロだ。

 「・・・・・・・・・・・・。(これ、開くのか?)」

 少なくとも何tかはありそうな扉だ。
 しかし、スイッチや紐などは見当たらない。あるのは取っ手だけだ。

 「じゃあ、開けるよ。」

 D・Jはそう言うと取っ手をつかんだ。

 激しい音と共に、ゆっくりと扉が動く。

 「・・・・・・・・・凄えな・・・。」

 雷太は正直に感想を言う。

 「まあ、機械だからね。
  ・・・・・・ようこそ、『古の城』へ。」

 「『古の城』?」

 「ここの名前だよ。・・・・・・本当は正式な名前があったらしいけどね。
  今では、誰もその名を知らないんだ。」

 「へぇ〜・・・・・・・・・・・・、うわ・・・。」

 扉の向こうは、ひどいありさまだ。
 一階なのだが殆どの部分が崩れ、上へと続く階段は岩でふさがれている。

 「だから一階は一部なのさ。・・・・・・こっちこっち」

 D・Jは右に曲がった。よく見ると、地下に続く階段がある。



 その階段もボロボロだ。
 雷太は少し不安になった。

 しばらく進むと再び重厚な扉があり、D・Jが開けた。



 再び白の世界・・・・・・・・・?



 雷太は一瞬目を疑った。

 目の前には余りにも巨大な、そして白で統一された廊下が現れた。
 いや、大きさ的にはもう『広間』と呼んだほうが正しいか。
 その余りの大きさに、左右奥は霞んでいる。
 整然と横に並んだ茶色の扉が目立って見える。
 ここと一階より上は、まるで違う世界のようだ。

 「・・・・・・・・・・・・すげえ・・・。」

 雷太は正直な感想を漏らした。

 D・Jは嬉しそうに笑う。

 「そうでしょ。ここは結構気に入ってるんだ。」

 2人は右に曲がり、白の広間を歩く。

 と、雷太が思い出したように言った。

 「そういえば俺、クロから預かった『手紙』持ってるんだけど、見なくていいんですか?」

 D・Jは不思議そうな顔をする。

 「・・・?・・・・・・それは、デュークあてじゃ・・・?」

 「いや、そうなじゃくて・・・・・・身分証明みたいな・・・。」

 D・Jは笑った。

 「ああ、いいのいいのそんなもん。・・・そんなの気にするのうちの『健さん』ぐらい・・・・・・。」

 ふいに彼らの右斜め前の扉が開き、人が出てきた。

 きれいな金髪の青年だ。
 左腰に柄の先端が三つに分かれた剣を差し、手には書類を持っている。

 「聞きましたよ、D・Jさん・・・。」

 笑顔を作りながらも、青年は怒っているようだ。

 「・・・・・・げ・・・・・・・・・、健さん・・・。」

 「駄目じゃないですか!念のためにちゃんと確認しないと!!」

 D・Jはたじろいだ。
 雷太はぽか〜んと見ている。



 「で、でも・・・めんどくさいし・・・・・・。」

 「めんどくさいじゃないですよ、全く・・・・・・。」

 青年は雷太へ向き直った。

 「どうも初めまして、僕の名前は『暁 健』(あかつき けん)です。よろしくお願いします。」

 「あ、いえ、こちらこそ。龍 雷太です。」

 「失礼ですが、その『手紙』を見せていただけますか?」

 「あ、はい。どうぞ。」

 雷太は健に手紙を手渡した。
 流石に中は開けないが、健は手紙を丁寧に見る。

 「確かに確認しました。・・・改めてようこそ、『古の城』へ。歓迎します。・・・・・・ねえ、D・Jさん。」

 「うぅ・・・、しつこいなぁ・・・。」

 D・Jはげんなりした。

 「全く・・・・・・。ところで、デュークさんのいる部屋に行ってるんですか?」

 「そうだけど・・・・・・・・・。」

 「それなら僕も行きますよ。デュークさんに用があるものでね。」

 「げぇ〜〜〜〜〜・・・・・・。」

 「『げぇ〜』じゃないです。お客様の前なんだからもっとしゃんとして下さい。」

 「はいはい。」

 「それじゃあ行きましょうか、雷太さん。」

 「あ、はい。」

 3人は再び巨大な広間を歩き出した。



 ―――――― 一方その頃。



 クロは一人で考えている。

 手にしたペンは動いていない。
 ギンとの電話前に氷雨が入れてくれていたコーヒーは既に冷めてしまった。

 「・・・・・・・・・・・・勝てるやつか・・・。」

 ・・・どうやら、冷静に分析してみるらしい。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロは無言で携帯を手に取った。

 番号を高速で押すと同時に、新しい煙草に火をつける。

 「・・・・・・・・・・・・・・・ヴァンか?」






第22話 “古の城の面々−啓太とデューク−”




 (前略)・・・さて、ここでは現在世界中に確認されている

 『能力』と『特殊能力』についてお話いたしましょう。

 両方とも、『人知を超えた不思議な力』というのは間違いありませんが、

 この二つは名前は似るとも全く別のものであり、入手方法も違います。

 それでは、二つの違いを御覧下さい。



 ―――能力―――

 能力とは、元々その者には無い、特殊で人知を超えた力を思いのままに使う事のできるものである。

 それぞれ違った名前を持ち、その名前通りの力が発揮される。

 また能力には様々なタイプと階級があり、

 基本的には階級が上の能力ほどその力も強く、用途も広い。
 (階級は能力を持った本人しか分からないのが難点ではあるが。)

 ちなみに数ある能力だが、同じ能力は決して存在しない。

 どうやら、手に入れた本人の『才能』にもよるらしい。

 しかし、『能力をどうやって手に入れるのか』。

 これは未だに知られていない。

 能力者たちは、一切情報を漏らそうとしないか、自身も知らないのだ。

 いずれ解明した暁には、本に記そうと思う。



 ―――特殊能力―――

 特殊能力とは言わば、『種族専用の能力』の事である。

 つまり、ここの一族に元から備わっている当たり前の力のことであり、

 例えて言うならば、

 ・龍人族(青竜族)が火を吹く。(体内に炎を生成する器官なんて在るはずが無い。)

 ・天使族が背の翼で空を飛ぶ。(人間の体系では如何に筋肉があっても不可能。)

 などである。

 つまり、その種族が当たり前のように使ってはいるが、

 体の構造などでは全く説明しようが無いもの。

 それが特殊能力である。

 また、特殊能力において最も特筆すべき点はその入手方法であり、

 なんと才能さえあれば、誰にでも習得できるものなのである。

 ただし、それは極めて異例であり、他種族の特殊能力を会得できる事は、

 甚だ珍しいという事を、ここに記しておく。






 『ジョー・ディヴィルの本:能力と特殊能力』より一部ずつ抜粋





 「・・・・・・・・・と、いうわけだ。・・・どう思う?」

 クロは煙草を吸いながら携帯に話しかけた。
 携帯の向こうからは、いつもの軽口ではなく、トーンは変わらずとも真面目な答えが返ってくる。

 『もの凄くまずいね。』

 「・・・・・・・・・お前、いまどこだ?」

 クロは聞いた。

 『もう言われた事は済ませたからね、家に帰ってるよ。』

 ヴァンが言う『家』とは組織のことだ。
 これでも彼は『ブラックメン』ではなく、『メタルガーディアンズ』という組織のリーダー。
 クロとは友人で恩義がある為、度々協力してくれているに過ぎない。
 本来は別の組織、『敵同士』の分類だ。
 まあ、彼が敵になるとは考えがたいが・・・・・・。

 「そうか、なら会うことはないな。」

 クロは少々安心すると共に続ける。

 「お前、あの『鉄人』に勝てるか?」

 しばらく無言のうち、返答が帰ってきた。

 『可能性はあるけど、分かりづらいよ。
  『鉄人』は相当の『格闘家』と聞くけど、他の組織と同じく情報自体が少ない・・・・・・。
  僕と同じ格闘家だからあとは実力次第だ。僕は『格闘王』の一人だから負ける気はないけど・・・。
  『鉄人』は過去に『元・格闘王』の一人を逮捕した事があるほどの強者らしいし。』

 『鉄人』は相当に強い格闘家らしい。

 「・・・・・・格闘家同士じゃ相性もへったくれもないか・・・・・・・・・、となると。」

 ヴァンにもクロが言いたい事が伝わったらしい。

 『そう、新(太朗)は同じ格闘家だから問題外。
  だから僕達で相性が良く勝てるとなると・・・・・・。』

 多少の沈黙の後――――――

 「・・・・・・雷太だ。」
 『・・・・・・雷ぷ〜だね。』

 ――――――二人は同時に言った。

 『『鉄人』の事は連絡してるの?」』

 「していない。してもどうにもならないだろう。・・・混乱させるだけだ。」

 『それもそうだね。』

 ヴァンは続ける。

 『でも、そんなに心配する事かな?
  チャンポンチャンとナレクトは余りにも離れすぎてる。
  ほぼ100%会うことはないよ。』

 「・・・・・・それはそうなんだが・・・。」

 『・・・?』

 「・・・何か、嫌な予感がしてな・・・・・・。俺の勘は当たるんだ。」

 『・・・・・・・・・・・・。』

 やがて、二人は通話を終えた。

 クロは再び書類にペンを走らせる。
 少々後、その手が一瞬止まった。

 「確かに、剣士、格闘家両方に相性が良い魔法使いなら勝てる可能性はある・・・。
  ・・・・・・・・・・・・残る問題は・・・・・・『鉄人』の『能力』が一切不明な事だ・・・・・・。」



 ―――――― 所変わって、ここは古の城。



 三人は歩いている。

 長い。とにかく長い。
 どうやら、さっきのだだっ広いジェライス山の山頂ほぼ全ての面積を地下として使っているらしい。

 「このまま進んで、一番奥にある扉の向こうがデュークさんの部屋ですよ。」

 不安そうな雷太に、健が説明した。

 「へぇ〜、・・・・・・・・・・・・?・・・・・・あれ?誰かいる・・・。」

 まだ小さくしか見えないが、広間の真ん中を人が歩いている。
 白髪と思えるほど超薄青髪の、子供ぐらいの背の者で、料理の乗った銀色の手押し車を押しているようだ。
 進行方向は雷太達と同じである。

 「・・・あ、『啓太』だ。お〜い、啓太〜。」

 D・Jがその者に呼びかけた。

 呼びかけられた子供は立ち止まり、無表情で振り返った。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 何もしゃべらない。

 その内雷太達が啓太に追いついた。

 「雷太さん、彼もここの住人『銀 啓太』(しろがね けいた)さんです。
  啓太さん、こちらがお客様の龍 雷太さんですよ。」

 健が二人をお互いに紹介する。

 啓太は何も言わず、相変わらず無表情で頭を下げた。愛想の欠片もない。
 完全な白に近い長青髪に低い背、つぎが肩袖部分に入った和服に、袴を着ている。
 ちなみに和服と袴も殆ど白に近い青だ。

 「ど、どうも・・・・・・。」

 雷太は少々引きながら挨拶を返した。

 D・Jが啓太に質問する。

 「啓太ぁ、それ何を運んでるの?」

 啓太はゆっくりとデュークの部屋の方角を指差した。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・食事。」

 ぼそりと、無愛想に答える。

 「へぇ〜、じゃあ俺たちも同じ方向だし一緒に行こうか。」

 啓太は無言だ。同意と見なして良いらしい。

 4人は再び歩き出した。



 4人は歩いている。

 D・Jは啓太に話しかけた。

 「ねぇ啓太ぁ。『霞ちゃん』と『建太朗君』がいないけどどっかいったの?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私事。」

 啓太は無愛想に返事をした。

 その様子を見ていた雷太は、健にこっそり話しかけた。

 「・・・・・・ねえ、健さん。」

 「ん?なんですか?」

 健も空気を読み声を落とした。

 「なんか俺、啓太君に相当嫌われたみたいですね・・・。(汗)」

 健は既にその問いを予想していたらしい。

 「いや、そんな事はありませんよ。啓太さんはいつもあのような感じですし、
  むしろ今日は機嫌がいいくらいですよ。」

 雷太は、声に出さずに驚愕した。

 「そ、そんなもんなんですか・・・?(汗)」

 「はい。」

 そうこう話しているうちに、ようやく向こうに扉が見えた。
 他の扉と違い、鉄で出来ている頑丈な扉だ。

 「あれがデュークさんの部屋ですよ。」

 健が言う。

 扉の前まで着くと健がノックした。
 厚い鉄を叩く音が、静かに響く。

 「デュークさん、入りますよ。」

 健が言った。
 すぐに声がする。

 「は〜〜〜〜〜〜い。」

 男にしては結構高めの声だ。少しヴァンに似ている。

 健は声を確認すると、鉄の扉を難なく開けた。

 部屋の中は多くの実験道具や化学薬品、剣や銃、ミサイルまで様々なものが置いてある。
 その中で緑髪の小柄な人物が鉄のマスクを被り、バーナーで何かを焼いていた。
 どうやら、新型ミサイルの開発中らしい。

 やがてその男は雷太たちが入ってきたことに気が付くと、鉄のマスクを外し向き直った。
 写真どおりに小さな鼻眼鏡をかけ、長い髪をポニーテールにし白衣を着ている。
 唯一違う点といえば、首にかけたゴーグルぐらいだ。

 「あらら、みんなおそろいで・・・。」

 彼は皆の顔を見回した。

 「え〜っと、まずは・・・・・・雷ぷ〜からかな。」

 「・・・ら、雷ぷ〜???」

 雷太は驚いた。
 なれなれしいというか、無邪気というか・・・。

 「初めまして雷ぷ〜、僕の名前は『デューク・ウォルフガング・ジャーメイン・ハンター』、よろしく〜♪」

 デュークは右手を差し出した。
 雷太は握手と挨拶を返す。

 「初めましてデュークさん。龍 雷太です。よろしく御願いします。」

 デュークは明るく笑った。

 「呼び捨てか『ちゃん』でいいよ。
  まあ、僕の方が年上なんだけどね。・・・てへへへ。」

 「・・・・・・・・・。(てへへ・・・?・・・デュークさんって普通の大人なのに、
  言動や行動が子供っぽいな・・・。・・・・・・・・・・・・誰かに似てるような気がする・・・。)」

 雷太は心の中で突っ込んだ。

 《・・・・・・・・・ヴァンだな・・・。》



 当然デュークは心を読む力などないので、そのまま話を続ける。

 「で、D・Jは雷ぷ〜を案内してくれたとして、健ちゃんは何の用?」

 健は笑顔で紙を差し出した。

 「今月の家計簿のコピーです。」

 「げっ!!お前マジでつけてたのか!!?」

 「うわ〜、そりゃまたいらないなぁ・・・。」

 D・Jとデュークは引く。

 「お客様の前なのであまり言いませんが、啓太さん以外皆さんお金使いすぎです。自重して下さい。」

 「は〜い。」

 「はいはい。」

 緑髪の二人はそれぞれ返事をする。

 《どっちが誰か、分かるかな?》

 雷太はこっそりD・Jに聞いた。

 「D・Jさん、ここってそんなにお金に困ってるの?」

 D・Jは健を横目で見ながら小声で返す。

 「いーや、健さんがお金にがめついだけさ。」

 「何か言いましたか?」

 健は振り向かずに、既に聞こえたという声で言った。

 「い、いえ!!なんでもないです!!」

 デュークが続ける。

 「あらら・・・・・・・・・、啓太は?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・食事。」

 どうやら彼は、誰にも彼にも無愛想な性分らしい。

 「へぇ〜、ありがとう。
  ・・・・・・それにしてもしゃべるなんて、今日の啓太は機嫌がいいねぇ〜。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・!?(あ、・・・あれでいいのか!???)」

 雷太は心の中で驚愕した。

 と、デュークが雷太に向き直った。

 「そういえば雷ぷ〜、何かクロから手紙とか預かってないかな?」

 「あ!あります。それと『合言葉』も。」

 「?合言葉?それは聞いてないよ?」

 デュークは手紙を受け取りながら聞いた。

 「いやなんでも疑われた時に言えとか・・・。・・・分け分かんない言葉なんですけど・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・?」

 「なんでも、・・・・・・『JYCD→0=PEACE(ジッド・ゼロ・ピース)』だとか・・・・・・。」

 「!!!!!!!!」

 デュークの目が大きく見開かれた。
 くだけはしないものの、膝が震える。
 健の支えの申し出を断って皆に背を向け、手紙を光にすかすように持ち上をみる。



 水が伝う。



 「・・・・・・?」

 雷太を含め、デューク以外の全員その意味が分からない。
 しかし、一人の人間を泣かせる力を持つ言葉のようだ。

 彼は皆に向き直った。

 「やあ、なんでもないよ。ちょっと疲れてるだけさ。
  ・・・・・・手紙読むね〜。」

 いつもと変わらぬ明るい声だ。

 雷太は、追及するのを止めた。
 隠す者に追求するのは、鬼の所業だ。
 他の者も同じらしい。



 「・・・・・・ふむふむ・・・・・・。」

 「なんて書いてあるんです?」

 読むねと言ったものの黙読するデュークに、健が聞いた。

 「ん〜なんでも、『そろそろ俺の家に来ないか』だって。」

 「とうとうですか・・・。雷太さんが来られた時点で予想していましたが・・・。
  私は構いませんよ。」

 「クロぷ〜には逆らえないもんね〜。」

 「・・・・・・。(く、クロぷ〜!??・・・怒られるぞ・・・。)
  ・・・・・・逆らえない?どうして?」

 雷太の問いに健が答える。

 「この城はもともとクロさんの所有物なんですよ。
  僕達はそれを借りているわけです。」

 「へぇ〜。」

 「俺はいいぜ。あそこは気候がいいしな。・・・・・・部屋はもらえるのか?」

 D・Jが聞いた。

 「うん、一人ずつ個室もらえるんだって。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「じゃあ決まりだね。・・・とりあえずこの新型ミサイル作り終わったらいこうか。」

 「そうですね。引越し準備もありますし。」

 《・・・・・・・・・・・・軽いな・・・。》

 どうやら、直接は言わずともその様な事をクロは事前から連絡していたらしい。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 啓太は、静かにため息を漏らした。

 「どうしたの啓太?」

 デュークが聞く。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・火。」

 啓太は例のミサイルを指さした。

 なんと、先程までデュークが使っていたバーナーが付けっぱなしで、ミサイルを焼き続けている。



 「げ・・・・・・。」
 「ありゃ・・・。」
 「マジかよ。」
 「・・・・・・・・・。」
 「何でスイッチ切らなかったんですか!?」

 彼らはそれぞれ驚きの言葉を漏らす。

 「いや〜、話しすぐにすむと思って・・・。あちゃ〜。」

 どうやら、軽く置いただけなので転がりこういう状態になったらしい。



 ♪ビー、ビー!緊急事態発生!ミサイルに高温の熱が加わりました!このままでは爆発します!!♪



 皆の反応を待ったようにアナウンスが上から流れた。
 そういう機械が、このボロ城にも稼働していたらしい。ちなみにデューク作。

 「・・・・・・困りましたね・・・。・・・・・・雷太さん!」

 「え・・・・・・?」

 「雷太さんは相当高位な魔法使いと聞きます。
  とりあえず、今すぐ『ワープ』で脱出しませんか?」

 とりあえず雷太は有名だ。

 「え・・・?それよりも魔法で冷却した方がいいんじゃあ・・・?」

 デュークが残念そうに言う。

 「ごめんね雷ぷ〜。このミサイル最新式で、魔法効かないようになってるんだ〜。」

 「げっ!何それ!!」

 雷太はまた驚愕する。

 「やっと開発できたんだけど・・・・・・。まさかそれがあだになるとはね〜・・・。」

 「そういうわけだ。『ワープ』、頼めるか?」

 D・Jは口をはさんだ。

 「それなら仕方ないな・・・。分かりました。」

 雷太は瞬時に5人分ワープできる魔力を体内で集めた。
 並みの魔法使いには出来ない芸当だ。
 下手な者では時間がかかる。その間に逃げた方が早いくらいだ。



 ♪ビー、ビー!残り、3秒です。♪



 「またいきなりだな!・・・みんな、俺に捕まって!!」

 健とD・Jは雷太の袖をつかんだ。

 「あ、忘れ物。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「移動魔法『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!!」



 シュッ・・・・・・



 ドガ――――ン!!!





 長い爆発がようやく終わった。
 中にある他のミサイルや機械に火が回り、連鎖爆発が起こったのだ。

 いまや古の城は完全に崩壊して地下の空間に大分沈みんだ。
 雷太と健、そしてD・Jの目の前にあるのはただの瓦礫の山だ。

 《・・・・・・・・・・・・?・・・健とD・J・・・?・・・・・・それだけ?》

 「・・・・・・・・・困りましたね・・・。」

 「・・・・・・むぅ・・・・・・。」

 と、健とD・J。

 粉が舞う。

 「・・・・・・ははははは・・・。」

 当のこいつは壊れている。

 なんとここにいないデュークと啓太は、ワープの直前で手を離したのだ。
 デュークは忘れ物らしいが、啓太の理由は不明だ。

 《く、下らねえ・・・。・・・・・・忘れ物の為に命を落としやがった。》

 「え゙え゙〜〜〜!!?なんなんだこの状況は!!!?
  なんかわけわからんうちにデュークさんと啓太君が死んだぞ!!!
  ってか初めて出た回で死ぬってないだろ!!!!」

 《雷太さんはお壊れになられた。》

 少なくとも、クロに怒られるのは間違いない。

 妙な粉が舞っている

 「そうだ―――!!
  ってかこの任務失敗したら『世界が滅びる』んじゃなかったのか!!?
  ありえないだろこの状況!!読者も多分キレてるって!!」

 「ら、雷太さん・・・落ち着いて下さい。」

 健が引きながら言った。

 「落ち着いている場合じゃないでしょーが!!
  世界が滅びるんだよ!!そっちこそなんでそんなに落ち着いてるのさ!??」



 粉が舞う。灰塵だろうか?


 間違いなく、デュークは死んだ。


 世界は一瞬、ほんの一瞬だが救われた。


 しかし、今は元の破滅の道をたどる。


 粉が舞う。


 数が次第に増えているようだ。


 粉が舞う。


 それは、人の手の形を創った。






第23話 “不死身の男”





 ・・・・・・・・・また、



 ・・・・・・・・・死ねなかった。







 by.デューク・ウォルフガング・ジャーメイン・ハンター





 ここはジェライス山。
 天候は一部以外雪。ただし、時々爆発なのでご注意を。

 「あ゙〜・・・!どうすればいいんだ!!?」

 雷太は頭を抱えていた。
 無理はない。クロに連れて来いと言われた人物が爆死したのだ。
 しかも連れて来れなければ『世界が滅ぶ』ときたものだ。

 一方、健とD・Jは冷静だ。
 何も言わずに、城の跡形を見ている。
 見方によっては驚き呆けているようにも見えるが、何かを待っているようにも見える。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 粉が舞う。

 「・・・・・・あ、やっと来たぜ。・・・おーい雷太君、そこそこ。」

 D・Jが雷太に呼びかけた。

 雷太はD・Jが指さした先を虚ろな目で見ていたが、
 そのうち目はかっと見開き、口があんぐりと開いた。



 腕が浮いている。



 正確には白衣を着た右腕だ。
 手と腕のみが空中に静かに浮いている。

 と、そのうち粉のような、煙のようなものがその場に集まってきた。
 次第にそれは集まり、人の形を創る。

 やがて、デュークは復活した。
 爆発前と何も変わらない様子、笑顔で頭をかいている。

 同時に、近くで激しい音がした。

 城の、爆発で壊れ崩れかけた門が無理やり開かれ、啓太が出てきた。
 無傷だ。服に焦げすらついていない。

 雷太はますます、開いた口がふさがらない。

 しかし、健とD・Jは見慣れているらしく、普通に彼らに話しかけている。

 驚きの一方で妙な疎外感を感じる・・・。

 その内耐え切れなくなった雷太は、とうとう話しかけた。

 「あ、・・・・・・・・・あの・・・。」

 「ん、な〜に雷ぷ〜。」

 「何ですか?」

 「何?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 4人はそれぞれに返す。



 「あの・・・・・・、デュークさんと啓太君って何者なんですか?
  ・・・・・・特にデュークさんは・・・・・・?」

 一瞬の静寂の内、デュークは静かに答えた。

 「・・・僕は人間だよ雷ぷ〜。
  ・・・・・・ただ、・・・呪われてるんだ・・・・・・。」

 「え・・・・・・、呪われて?」

 「そう、今のを見てもう分かると思うけど、僕は絶対に死なないんだ。
  例え、腕をもがれようが再生するし、脳が砕け散ろうが、全身が消滅しようが必ず復活する。
  そういう呪いなんだ。
  寿命もないから、今まで何年生きているのかも数えてない。
  今まで何度も解こうと試みたけど、成功していない。
  それはもう、このおもちゃみたいな体の自分自身に嫌気が差すほどさ。」

 「は、はぁ・・・・・・。」

 いきなりの突飛な答えに声が出ない。
 そもそも、『呪い』自体聞いたことが無いのだ。
 しかも、かけた相手を不死にする呪いなど・・・・・・。

 デュークは続ける。

 「・・・でも、いくら死なないし再生するといっても攻撃されるのは嫌いなんだ。
  だから僕は機械科学者の道を歩んだ。
  一番性に合っていたし、銃撃には自信があるからね。」

 デュークの腕の白衣の下から、瞬時に小さな銃が飛び出てきた。
 そうかと思えば自動的に引っ込む。
 どうやら、全身に目立たないように武器をつけているらしい。

 「いつか僕は、自分自身で必ずこの呪いを解いてみせる。
  大抵の人には、怒られるかもしれないけどね。」

 デュークの意味する『呪いを解く』とはつまり――――――

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は、声が出なかった。
 体験は出来ないが、ある程度の想像をする事はできる。



 普通の生命とは逆の悩み。
 それは『永遠の命』。
 欲しくもないものが与えられると、どんな感情なのか。
 もしかすると、死に対する拒絶の悩みよりも――――――



 約一名以外皆、うつむき黙りこくってしまった。
 爆破跡の残り火が燃える音が、大きい気がする。



 デュークは慌てたように明るく言った。

 「あ、ごめ〜ん。暗くなっちゃったね。」

 すぐさま健が続ける。

 「まあまあ、暗い話はそれぐらいにして、これからどうするか考えましょう。
  どうします?もう家もなくなりましたし、直接行きますか?」

 「そうだな・・・。もう荷物とか取りに戻れないし、行くか?」

 D・Jが答えた。

 「うん。・・・・・・でも、余り街中とかを歩きたくないな〜、僕は。」

 「・・・?なんでですか?」

 雷太が聞いた。

 「実は僕には元々賞金がついててね。なんでついてんのか分かんないんだけど。
  この前世界政府に文句言って取り消させたんだよ・・・・・・。
  でも、それをまだ知らない賞金稼ぎとかがまれに狙ってくるんだよね〜。」

 「はぁ・・・、いくらなんですか?」

 「ん〜・・・、いくらだったけ?健ちゃん?」

 「元8600万Rです。」

 健は即答した。

 「は、8600万!!?」

 《雷太君の28倍+200万Rだ!!》

 そしてクロとヴァンの約二倍。

 賞金稼ぎが狙ってくるのも無理はない。
 デュークは見た目には弱そうだし、その男に8600万もついているのだ。
 クロやヴァンを狙うよりはよっぽどリスクが低いと思うだろう。
 まあただ、彼が不死なのともう賞金がかかっていない事、そして最強の護衛の存在を知らないわけだが。

 「そういうわけで街を通らずにクロぷ〜の家に行きたいんだ。」

 「はぁ・・・、でもどうやって・・・。」

 「たぶんですが、クロさんはこのために、貴方をこちらへ向かわせたんだと思いますよ。」

 健が微笑して言った。

 「俺をこのために?・・・・・・・・・・・・あ!なるほど・・・。」

 そう、雷太ならできる。そしてブラックメンでは雷太しかできない。

 『ワープ』だ。

 これなら、一瞬でクロの家にいける。誰とも会わない。

 「そういうわけだ。『ワープ』、頼めるか?」

 D・Jが言った。

 「そういうことなら、分かりました。
  あ、でも俺は一緒には行きませんので。」

 雷太は言った。



 「どういうことです?」

 健が聞く。

 「クロの家に行く前に俺の家でしておきたい事があるんですよ。
  だから皆さんをクロの家にワープで送った後、一人で先に自分の家にワープします。
  後からクロの家に行きますんで。」

 「なるほど〜、分かったよ。
  行き先が違うから、別々って事だね。」

 「そうです。」

 そういうと雷太は、木片の一つを拾い、直径1mぐらいの円を書いた。

 「皆さん、この中に入って下さい。」

 「あれ?さっきのと違うんだ?」

 D・Jが不思議そうに聞いた。

 「はい、基本的にワープは『個人かその使用者に触れているもの専用』なので。
  今回は別の移動魔法を使います。」

 「なるほど、流石第一級魔導士ですね。」

 そう言いながら、健は円の中に入った。
 他の皆も、円に入る。

 雷太は円の外に出ると、手に瞬時に魔力をこめた。

 「じゃあ、もう行きますよ。」

 「は〜い。忘れ物ないで〜す。」

 デュークが明るく返事をした。

 「移動魔法『円転(ムーヴメント・サークル(movement circle))』!!」



 シュッ・・・・・・



 4人は一瞬で消えた。当然だが、成功だ。

 「ふぅ・・・、流石にちょっと疲れたかな・・・。・・・・・・腹減った。」

 雷太は一人つぶやいた。

 魔法とは体内のエネルギーを魔力に変換してそれを更に変換するもの。
 連続使用していれば流石に疲労が出る。
 魔力が0になれば死ぬのだから、冗談ごとではない。

 それに、移動魔法は実はかなり高等な種類だ。
 一瞬にして他空間を侵し、現空間に空きを作るのだから。

 「まあいいや、まだ魔力はあるし。
  帰って、少しデュークさんの資料見とかないとな・・・。
  過去の『ジョー・ディヴィルの本:高額賞金首』なら載ってるはずだし・・・。
  ・・・・・・・・・あ、啓太君の事とジョー・ディヴィルの事聞き忘れた・・・・・・。」

 《啓太は無傷で出てきたからな・・・・・・。》

 「まあ、いいか。どうせクロの家に行けば会えるんだし。」



 ――――――と、その時。



 ボンッ!



 火も消えていた城が再び爆発した。
 不発の爆弾が時間差で爆発したらしい。
 雷太に直接の影響は無いが・・・・・・。

 「・・・・・・うわ!・・・は、はくしょん!はくしょん!!」

 爆発で舞った灰が、鼻に入ったらしい。

 「はくしょん!!・・・・・・あーもうたまらん!ここにはもう用はないし、さっさと行こう!はくしょん!」

 再び魔力を集める。

 「移動魔法『空間わ・・・・・・(ワ・・・・・・(w・・・・・・))』・・・・・・は、・・・・・・は・・・、」

 これはまずい。  魔法の名前の名前詠唱中にまたくしゃみが・・・・・・。

 「・・・・・・は、・・・・・・は・・・・・・、『?????(ワーぴゃ(war?????))』!!」

 《・・・!??ワーぴゃ!??》



 ジュッ・・・・・・



 《ジュッ!??》

 雷太は消えた。
 そこには誰もいなくなった。



 どがしゃぁっ!!

 雷太は雑に積み上げられた何かの上に落ちた。
 元から崩れていたので、大した被害ではない。
 ただ――――――

 「痛てて・・・・・・。あれ?どこだここ?」

 雷太の家ではない。うっすらと電灯が光っている。

 「何これ?・・・・・・・・・・・・銃?」

 雷太は拳銃の山の上に落ちたらしい。相当な数の拳銃が山積みに鳴っている。
 どうやら、どこかの武器倉庫のようだ・・・。
 当然、雷太の家にはない。そもそも、雷太は銃を使わない。

 「・・・・・・・・・まさか・・・・・・、うわ・・・。」

 先程の詠唱失敗で、滅茶苦茶な場所に飛んだらしい。

 「初めてだよ魔法失敗したの・・・・・・。・・・・・・で、ここどこだ?」

 当然、倉庫内に場所が書いてあるはずも無い。

 外に人が歩く音が聞こえる。

 雷太はとりあえず起き上がり、拳銃の山を降りた。

 「とりあえず、こんなところさっさと出なきゃな。」

 彼は出口を捜す。

 雷太はまだ知らないが、出口の向こう側には入り組んだ廊下があり、
 その所々にはこう書かれている。

 最悪の文字。



 『IFP空軍部第5支部基地』。







第24話 “おいでませIFP空軍部第5支部基地
       −組織者&犯罪者大歓迎!
              死ぬほど歓迎致します。−”


 ここはIFP空軍部第5支部基地内の講堂。

 激しい拍手に見送られ、今一人の人物が出てきた。

 先程の『部屋内の男』とは違う人物のようだ。

 目には『くま』もないし、なによりさっぱりしている美形顔だ。

 「お疲れ様です!中佐!!」

 元気の良い挨拶と共に、IFP兵の一人が飲み物を差し出した。

 「ありがとう。」

 男は明るく答えると、それを受け取り飲んだ。

 どうやら彼は中佐という高位の上官らしい。
 もちろん強さは一般兵とは比べ物にならない。
 ただ、彼は例の『鉄人大佐』とは違い、
 『見回り警備強化&付近悪討伐』などではなく、講演をして回っているだけのようだ。

 IFPの活動自体は停止していても、兵の士気を失わない為に
 定期的に上官が講演などを行っている。

 そして講堂の垂れ幕にはこのような題が書かれている。

 『組織所属とIFP所属の両立について。』

 「・・・・・・・・・。(ここの基地への滞在も今日で終わりか・・・。)」

 そう考えながらも中佐は、兵の敬礼を会釈で返している。

 「・・・・・・。(最後に、あの人に挨拶をしておかないとな・・・。)」

 どうやら、『あの人』というのは例の『部屋内の男』らしい。
 中佐は、たまたま通路を通っていた女性兵士に声をかけた。

 「君、ちょっといいかな?」

 「!!?・・・は、はい!」

 驚いた女性兵士は、敬礼も忘れ返事をした。

 光り輝かんばかりの金髪を持つイケメン上官に声をかけられ、目がハートだ。

 「『あの人』のところへ行きたいんだが、少し案内してくれないか?
  何分、道を覚えるのが下手でね。」

 「・・・は、はい!喜ん――――――

 突然、基地全体に警報が鳴り響いた。
 人が大勢で移動する音が聞こえる。
 女性兵士は基地専用無線ですぐさま内容を確認したようだ。
 あいにく、中佐は持っていない。

 「・・・・・・内容はなんだい?」

 中佐が聞いた。
 女性兵士が先程とは全く違い真面目に答える。流石は鍛えられた兵士というところか。

 「侵入者です!突然現れ、基地内を現在も逃走中との事です。」

 「・・・・・・。(このご時勢にIFPの基地内に侵入するとは・・・。どんな命知らずなんだ?)
  その侵入者の名は?」

 女性兵士は無線に耳を向ける。

 「確認しました!
  名前は『龍 雷太』、“強大組織”『ブラックメン』の副総長です。
  いかがいたしましょう?『ヴィース中佐』!?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・な、なんだって???」



 「うおおおおおおお!!」

 雷太は走っていた。
 事もあろうに、敵であるIFPの基地内をだ。

 《なんて腕白なお子様なんでしょう。》

 「やかましい!!好きで来たんじゃねーよ!!」

 ・・・その雷太の後ろには・・・、

 「待てコラああああああ!!!!!」

 大勢のIFPの兵士が抜刀し追いかけてくる。

 ワープの魔法の詠唱失敗でとんでもないところに来てしまった。
 ・・・・・・しかも――――――

 「ちくしょう!
  移動魔法『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!!」



 ・・・・・・。



 《シ〜ン・・・・・・。》

 ――――――この基地内では何らかの原因でワープが出来ないらしい。

 「何でだあああああ!!?
  『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!『空間歪曲転位(ワープ(warp))』!」

 発動しない。魔力消費もしない。

 雷太は更に加速して逃げ、負けじとIFP兵達も懸命に加速する。

 先程武器倉庫から出た途端兵二人にばったり会い、それからずっとこの調子だ。

 今や随分と後ろの兵も増えてしまった。

 《まさに人間お掃除ワイパー。》

 「もっといい例えがあるだろ!?
  ちくしょう!IFP基地に間違ってワープとか、なんてついてないんだ!??」

 しかし、雷太は腐っても組織所属者。
 相手がIFP兵とはいえ、このままだといつかは逃げ切れるだろう。

 《既に腐っているけどな。》

 「てめっ!!・・・・・・・・・!?」

 「銃撃部隊・・・・・・・・・構え!!」

 長い廊下の前のほうで、銃撃舞台が待ち構えていた。
 殺傷能力十分なライフルが、雷太に一斉に向けられる。
 流石連携は取れているようで、雷太を追う兵たちは既に後ろの壁の向こうに隠れている。

 「やべ・・・・・・!!」

 雷太はとっさに横の狭いわき道に飛び込んだ。

 「・・・・・・てっ!!(撃て)」

 激しい銃声が響く。目標を失った銃弾が、先の壁を細かくえぐる。

 銃撃を示唆した、恐らく二等兵であろう上官はすぐさま連絡を全体に取った。

 「こちら銃撃部隊。残念至極ながら射撃瞬間に目標を消失。
  これより我々はライフルを捨て、抜刀隊と共に拳銃で追跡する。以上!」

 すぐさま、銃撃部隊と抜刀隊は合流し、相手に足りない武器を渡しあって『銃剣部隊』となった。
 二等兵の号で一斉にわき道に入っていく。

 ・・・・・・・・・が――――――

 「・・・・・・こちら銃剣部隊、目標を完全に見失った。
  ただ今よりこちらの全兵により捜索を開始する。以上!」

 銃剣部隊はある程度ばらばらに散った。

 やがてそこには誰もいなくなる。

 と、そこへ突然煙と共に雷太が現れた。

 「危なかった・・・。潰されるかと思った・・・・・・。」

 なるほど、
 容積魔法『極小小人(タイニー・マン(tiny man))』だ。

 《体をめちゃくちゃ小さくしたわけね。・・・潰れされればよかったのに。》

 「・・・・・・。なんか一か八かだったけど、移動魔法以外は使えるみたいだな・・・・・・。
  とはいえ、もうこの魔法は使えないな。」

 確かに。いつ潰されるか分からないし、何より移動が大変すぎる。
 移動距離が何十何百倍にも増えるのだ。

 「しかし、またいつ見つかるかも分からないし・・・・・・。
  ここはやはり透明化かな――――――



 ズッ・・・!!



 突然、雷太の後ろの壁から光り輝く剣が突き出てきた。

 「・・・・・・・・・えっ・・・?」

 突然の事に、雷太は声が出ない。

 その光の剣は四角に動き、壁を斬った。
 四角に切られた壁が、壁の向こう側に重い音を立てて落ちる。
 当然だが、向こうには人が立っている。

 その者は、素早く手を伸ばし、雷太の服をつかんだ。

 「う、うわっ!!?」

 雷太は部屋の中に引きずり込まれた。





 ―――――― 一方その頃。




 ここはクロの家内。
 雷太と違って無事に着いたデューク達が、氷雨に案内されクロがいる部屋へと向かっていた。

 やがて、ようやく着いたようだ。

 「着きました。ここです。」

 「ありがとう、氷雨ちゃん。」

 氷雨は、扉を優しくノックした。

 「クロさん、デュークさん達をお連れしました。入りますよ。」

 すぐに、扉の向こうから返事が帰ってくる。

 「ああ。」

 氷雨は扉を開けた。

 「・・・久し振りだな、デューク、健、啓太、D・J。」

 「ひさしぶり〜クロぷ〜♪」

 「お久し振りです。氷上=P・クロさん。お世話になります。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「お久しです。クロさん。」

 5人はそれぞれ挨拶を交わす。

 「・・・・・・?・・・『霞』に『建太朗』、あと雷太はどうした?」

 クロが聞と、健が答えた。

 「二人は私事で外出しています。
  雷太さんは自分の家によってから来るそうです。」

 「そうか。・・・しかし、来るのが意外に早かったな。
  こちらとしては、あと2〜3日かかると踏んでいたんだが。」

 「それがね〜、城がミサイルで爆発しちゃったんだよ〜。あはははは。」

 笑い事ではない。

 「何?・・・・・・・・・・・・またか。」

 どうやら、あれが初めてではないらしい。
 最も、規模は今回が最大のようだが。

 「・・・まあいい。少し早かったが、既に部屋は一人一部屋ずつ用意している。
  氷雨にそれぞれ案内してもらってくれ。
  ・・・・・・・・・・・・ただしデューク、お前は残れ。」

 健達はそれぞれ挨拶をし、氷雨について各々の部屋に歩いていった。

 大きな書斎にクロとデュークが二人。

 暫くの沈黙が続く。

 クロは新しい煙草に火をつけた。

 「まだ・・・・・・煙草吸ってるんだ?」

 デュークが言った。
 二人とも、先程までとは打って変わって真面目な表情だ。

 「・・・ああ。・・・・・・・・・『あの事件』以来か・・・。
  あれから厖大なときがたったが、一度も止めてないな。」

 「体に悪いよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロはため息をついた。
 自分の手を目の前にもって来、しばらく見つめる。

 「・・・・・・・・・・・・関係ねーよ。・・・・・・この体にはな。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだね。」

 デュークは目を伏せた。

 またもや静寂が部屋を包む。
 時計の針音が、妙に大きい。

 「で、どうなんだ?」

 クロが静寂を破った。
 デュークが顔を上げる。

 「ああ、『それ』ならまだ大丈夫だよ。」

 「・・・・・・そうか。」

 また少々の静寂の後、デュークが言った。

 「クロ・・・。・・・・・・もしも、どうしても駄目だった時には・・・僕を――――――

 その言葉を途中でさえぎり、クロは言う。

 「安心しろ・・・・・・。俺は・・・・・・必ずお前を殺してやる。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 デュークはクロを見た。

 「・・・ありがとう。」

 彼は笑った。






第25話 “BM第六番隊隊長”


 「む゙〜〜〜!!」

 ここは雷太が何者かに引きずり込まれた部屋。
 雷太は口を手で塞がれ、暴れている。

 逃げられなければ死刑。そういう世界だ。

 「静かにして下さい、雷太さん・・・!」

 雷太を引きずり込んだ者は慌てて言った。
 実は、名前を呼ばなくとも使える魔法が少数だがある。
 しかも強力なものばかりなので、それを放たれたのではたまらない。

 「ゔ〜〜〜〜・・・?・・・・・・???」

 雷太さん?・・・確かに彼はそういった。
 そういえばこの声は聞いたことがある・・・・・・、そして謎の光り輝く剣・・・。

 雷太が黙ったので、その者は手を離した。

 雷太は後ろを向き、言う。

 「お前・・・・・・ヴィースか!??」

 名前を問われたものは静かに微笑んだ。

 「お久し振りです。雷太さん。」

 彼の名は『ヴィース・ジャスティライト』。
 雷太より背が高く、年は18歳。
 光り輝くような色の金髪に、整った顔をし、背が高いので女性には特に人気がある。
 IFP陸軍部中佐であるが、なんと“強大組織”『ブラックメン』の第六番隊長でもある。
 その能力の名は『ライトニングソード』。
 何も無いところから光の剣を作り出す能力だ。
 その斬れ味は凄まじく、今のように厚い壁を斬る事も出来る。
 IFPにもブラックメンにも、必要とされている存在だ。

 ちなみに、IFPには組織所属者も入ることが出来る。
 IFPにとっては組織を相手に出来る強者が欲しい。
 組織にとっては他の組織とIFPは邪魔だ。
 この二つの利害関係が一致しているのだ。
 もちろん、『自分が所属する組織関係には関わらない。』
 『IFPにいる時は、IFPの事のみを考える。』という制約はあるが。

 雷太は、知り合いがいた事で少々安心したようだ。

 「しかし危なかったぜ・・・。お前がいてくれて助かったよ。」

 壁に斬った壁をパズルのようにはめ込みながらヴィースが言う。

 「雷太さん・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・ん?」

 「何やってんですか!?ここはIFP基地内ですよ!」

 「うお・・・!だってワープが・・・・・・。」

 雷太は驚きながら説明した。
 ヴィースは普段非常に冷静な男だ。このように大声を出すのは実に珍しい。



 「なるほど・・・。話は分かりました。・・・・・・・・・まずいですね・・・。」

 ヴィースは顔を曇らせ、考える。

 「そんなにか?」

 雷太のあほは、そこまで重大だと思っていないらしい。

 「当たり前ですよ。・・・・・・雷太さん、今の状況よく分かってないでしょ・・・。」

 《あほの子なんです!!》

 「やかましっ!・・・・・・ワープの失敗で、IFPに追いかけられているけど?」

 ヴィースは頭を抱えた。

 「確かにそうですが・・・・・・。
  まず、この基地は広くて兵も多いです。
  そして僕は貴方を表向きには助ける事ができません。」

 「げっ!なんで!?」

 雷太は驚愕した。
 てっきりもう安全、大手を振って逃げられるものと思い込んでいたらしい。

 「僕はIFP陸軍部中佐ですからね。
  同じ組織の者だからって、ひいきするわけにはいかないんですよ。立場上。」

 「マジかよ・・・。」

 「仕方ないので、僕は影で貴方をサポートします。
  そしてこの基地内では移動形魔法を使用する事はできません。」

 「それはもう分かってる。・・・なんでだ?」

 「理由は設立初期に移動魔法で楽をするものがいたからです。
  原理は分かりませんが、なんでも『デューク』という科学者の力だとか。」

 「うわ・・・・・・。なるほど・・・。」

 どうやら、先刻の魔法が効かないミサイルと同じ原理らしい。

 それを知るはずもないヴィースは、そのまま続ける。

 「ちなみにこの基地内で僕を除いて一番強いのは『秋葉』という人です。」

 「『秋葉』?」

 「ええ、通称『レッド・スネーク』。目に濃いくまがあるのですぐ分かります。
  しかも、なんと『大佐』――――――

 大勢の人が走る音が聞こえ、二人は口を閉じた。

 足音は素早く去ってゆく。

 「だらだら話している時間はありませんね・・・・・・。
  この部屋の扉から真っすぐに進むと唯一の出口に出れます。」

 「そうか。・・・まあ、行くしかないか。」

 雷太は気合を入れた。

 「ええ、僕はとりあえずクロさんに電話しておきます。」

 雷太は気合が抜けた。

 「ああ・・・・・・。(絶対怒られるよ・・・。)」



 ここは書斎。クロとデュークが話をしている。

 先程とはうって変わり、談笑しているようだ。

 余談だが、クロの談笑というのは実に珍しい。
 微笑こそするものの、彼は余り笑わないのだ。

 と、クロの携帯のバイブレーションが作動した。

 「悪いな。」

 「いや、いいよ〜♪」

 クロは携帯を取る。

 「俺だ。・・・ああ、ヴィースか久し振りだな。IFPとの両立ごくろうさん。
  ・・・・・・?緊急?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロの顔がみるみる険しくなっていく。



 バキ・・・バキバキ・・・



 クロの携帯は粉々に砕かれた。






第26話 “鉄壁と秋葉”


 「秋葉さん!!!」

 激しい声とともに、部屋の扉が開かれた。

 先程の、『目に濃いくまがある、手紙を燃やした男』の部屋だ。

 兵は相当慌てているらしく、この部屋では声を落とす事も忘れている。

 ――――――が、

 「・・・い・・・・・・いない?」

 秋葉という上官はいない。
 机の上に燃えかすが多少あるだけで、人の気配が無い。

 「・・・・・・!・・・・・・・・・羽織が・・・。」

 常に着ることを面倒臭がり、ほとんど袖も通さず壁にかけられていた、

 羽織が・・・・・・消えている。



 ―――――― 一方その頃。



 雷太は隙を見て部屋を飛び出し、全速力で駆け出した。

 それを見た兵が仲間を呼び、一斉に追いかけ、または道を塞いでくる。

 肉体強化などの魔法を使えばいいものを、
 慌てているおかげでそれも忘れているようだ。

 《こいつ本当に第一級魔導士か?》

 名目上はそうなっている。しかもリーダーだ。

 一方、ヴィースは兵に指示しながらも携帯でクロと声を落として話している。

 会話さえ聞かなければ、誰もが上層部、もしくは他の兵と連絡を取っていると思うだろう。

 IFP基地内にいるときの自組織との連絡は禁じられているからだ。

 「・・・・・・・・・今のところはこういう状況です。」

 携帯の向こうから、呆れながらも、いらいらした返事が返ってくる。

 『例の『鉄人大佐』の件は、あいつは知っているのか?』

 ヴィースは、場違いながらもほっとした。
 驚かれると面倒だが、相手が知っているとなると話は早い。

 「あれは機密情報ですからね。雷太さんはまだ知りません。
  話しても、無駄に混乱するだけだと思いまして。」

 『よし、その方がいい。
  とりあえず、俺は雷太と連絡する。またかけなおす。』

 ヴィースが返事をした後、携帯は切られた。

 「・・・・・・クロさん・・・怖いなあ・・・・・・。
  でも、雷太さんはまだ分かっていない。
  下手するとこれが、『とんでもないきっかけ』になるかもしれないことに・・・・・・。」



 一方その頃、雷太はまた別の部屋に隠れていた。

 こうして姿を隠し追ってくる兵を散らし散らし逃げねば、いずれは身がもたない。

 と、そこへ携帯のバイブが作動した。

 自分にしては珍しくバイブにしていたことに喜ぶも、
 クロからの着信と分かり、青くなる。

 「・・・・・・は、・・・はい・・・。」

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』

 「・・・・・・・・・・・・あの・・・。」

 『・・・・・・貴様・・・・・・。』

 電話の向こうで、鯉口を切った音がした。

 「ご、ごめんなさいっ!!!」

 『・・・・・・・・・・・・とりあえず、生きて帰って来い。
  たっぷりと斬っ・・・・・・しぼってやる。』

 「は、はい!(今絶対『斬る』って言おうとしたぞ!!)」

 携帯は切られた。
 短い会話だが、これほど怖いものもない。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は再び部屋を出、逃げ出した。



 ヴィースの携帯に、着信が入った。

 『俺だ。雷太にかけた。』

 「はい。」

 『話したのはわずかだ。一応牽制はしておいた。』

 「はい。(・・・凄い牽制だったんだろうなあ・・・・・・。(汗))」

 クロはさらに声を落とす。

 『余り言いたくない話だが・・・・・・。今回の件、下手をすると・・・・・・。』

 ヴィースははっとして自分も声を落とした。
 やはりクロさんは気付いていたのだ。

 「ええ、IFPの僕なら良く分かります。
  下手をすると、非常にまずいですね。」

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼むぞ。』

 ヴィースは限りなく落ち着いて言った。

 「全力を・・・・・・尽くしますよ。」

 二人は同時に携帯を切った。



 炎魔法で威嚇し、防御魔法で攻撃をかわし跳ね返し、幻影魔法で混乱させ、雷太はようやくたどり着いた。

 「・・・・・・・・・あれか。」

 眼前に広がるは、天井まで吹き抜けのかなり大きい広間。
 その下、雷太の視線の先には、大き目の門がある。
 ただ、その前には今までより多くのIFP兵が守りを固めているが。

 「なに、お前らを無理やりどかせばいいこった。」

 出口が見えたことで、自信が湧いたらしい。
 逃げるのと攻めるのでは、モチベーションが全く違う。

 雷太は入り口に向かってダッシュした。



 ――――――が、



 「今だ!落とせえっ!!!」

 「はいっ!!」

 謎の号令が響く――――――



 ズドオオオォォォン!!!



 突然入り口に、轟音と共に巨大な鉄壁が下りてきた。

 「なっ・・・!」

 完全に入り口は塞がれる。

 「フハハハハ!!」

 恐らく二等兵と思われる者の一人が、一歩前へ進み出、雷太を指さした。
 その口調から、先程の冷静な二等兵とは違う者ということが分かる。

 「残念だったな!龍 雷太!!
  入り口は完全に塞がせてもらった。あの鉄壁は厚さ1m!
  例えお前でも破壊する事はできまい!!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 いや、実は雷太にはできる。
 ただ、魔力をためるのに時間がかかる為こういう状況では少々難しいが。

 「そして、現在ここにはこの基地全ての兵が集まった!
  観念しろ!!もう終わりだ!!」

 見たところ鉄壁は機械操作で、どこかの部屋で操作できるらしい。
 そして二等兵の言うとおり、雷太は大勢のIFP兵にみるみる囲まれ、
 二階からそれ以上の、吹き抜けゆえの回り廊下にも、兵がひしめき合っている。
 最も、三階より上にいるもの達が飛びかかる事はないだろうが。

 「確かに、逃げられそうにはないな・・・・・・。」

 雷太は言った。
 兵が勝ったと言わんばかりに笑う。

 「じゃあ・・・・・・。
  お前ら全員ぶっ倒して出るしかねえな!」

 雷太はにやっと笑った。

 一瞬の沈黙の後、兵から次々と
 「ふざけんな!」、「出来るものか!」、「状況を見ろ!」などの罵声が飛ぶ。

 が、彼らはチンピラではない。鍛えられた兵士だ。
 上官の号にすぐさま反応し、戦闘態勢へと入った。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太も、両手に魔力を集中する。

 お互いに本気。

 空気が・・・・・・・・・張り詰める。

 ――――――が、





 「・・・・・・・・・・・・どけ。」



 静寂に、声が響いた。

 赤髪の、くまが目立つやる気のなさそうな男が、兵をかきわけ前に出てくる。

 「秋葉さん!」「秋葉上官殿!」という声が、ざわつく兵から発せられた。

 「秋葉・・・・・・?」

 その名前は確かヴィースから聞いた。

 確か、この基地で一番強い者の名前だ。

 「・・・・・・。(確か階級は・・・・・・・・・大佐だったか?)」

 ヴィースが最後にそういう言葉を口にしたような気がする。

 「・・・・・・・・・・・・お前ら、下がってろ。
  ・・・・・・・・・・・・第一級魔導士に、いくら束でかかろうが・・・・・・・・・・・・無駄だ。」

 兵たちは言われたとおりに後ろへ下がる。

 ぽっかりと大きな広間の真ん中に、雷太と秋葉が対峙する。

 秋葉は、だるそうに懐から紙を一枚取り出した。
 何の変哲もない紙だ。



 ボオゥ・・・!



 紙がいきなり、激しく燃えた。

 雷太は顔には出さないものの、驚き構える。

 「!・・・・・・。(・・・能力者!?)」

 「・・・流石場数を踏んでるな、龍 雷太。」

 そう言った秋葉の目のくまは薄れて生気が溢れ、
 言動も先程までのだるそうな声とはうって変わっている。

 「・・・俺の名は秋葉。ここの最高責任者だ。
  ・・・お前を・・・逮捕する。」

 懐から今度は手袋を取り出し、その手で指さしながら彼は言った。

 「逮捕?・・・処刑の間違いだろ?」

 雷太は、シルヴァトゥースに手をかけた。






第27話 “雷太VS.秋葉”


 雷太はシルヴァトゥースを抜いた。

 「・・・銀色の大剣か・・・。お前は剣術も達者と聞く・・・・・・。」

 そう言いながら秋葉は手袋をはめた。

 「・・・・・・・・・・・・。(ただの手袋じゃねえな・・・。)」

 ガキィン・・・!

 秋葉が拳と拳を打ちつけ、金属的な音が響いた。

 「・・・・・・。(やはり、金属入りか・・・。)」

 そう思いながら、雷太は構えた。

 秋葉も、構えこそ取らないが、準備はいいらしい。

 「・・・・・・・・・いくぜ。」

 「・・・来い。」



 雷太は地を蹴った。
 勢いそのままに右上に斬り上げる。

 それを後ろにのけぞりかわした秋葉は、雷太へと手を伸ばす。

 ――――――が、

 「・・・!!」

 秋葉は地を蹴り後ろへ飛んだ。
 その髪を、大剣がかすめる。

 距離を少し開けて秋葉は言った。

 「・・・速いな。」

 「お互い様だ!」

 二人は、今度は同時に地を蹴った。



 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 周りの兵たちは声が出ない。

 本来なら秋葉を応援するべきところだ。
 いや、確かに彼らは最初秋葉を応援し、雷太に罵声を浴びせていた。
 が、今は二人の見事な攻防に息をのんでいる。

 こんなにも高速の攻防が、こんなにも長く続くものなのか?

 皆その思いを胸に、戦況を見つめている。



 秋葉は剣をかわし、雷太は拳をかわす。

 お互いに一撃も入らない。

 「・・・・・・。(こいつはさっき紙を燃やした・・・。・・・それ以来何もしてこないが・・・。
  紙を燃やす能力か・・・・・・?)」

 まずは相手の能力を知らなければ余りにうかつな事はできない。

 雷太は拳をかわす勢いそのまま突きを繰り出した。

 「・・・それを待っていた。」

 「・・・・・・・・・なっ!?」

 剣は秋葉の左わき腹を薄く裂き、空を突いた。

 血が舞うのも構わず、秋葉は剣を上からつかみ、地へと押し落とす。

 「ぐっ・・・!」

 雷太は力を入れるも、自重と秋葉の力体重がかかった剣は思うように上がらない。

 そのまま秋葉は拳を出した。

 雷太は首を横に曲げて交わす。
 『運よく、どこにもあたって』いない。

 が、彼の真の狙いはここだ。

 「・・・・・・・・・・・・。(・・・残念だったな。・・・俺はお前に触れさえすれば・・・。)」

 秋葉は引き手に見せかけ、死角から雷太の首をつかん――――――

 「炎魔法『火球(ファイア・ボール(fire ball))』!!」

 「・・・!!!」

 雷太の首に触れようとした矢先、それよりも早く雷太の手から火の塊が飛び出した。

 以前ラドクリフにくらわせた『ヤイバ』よりも大きい。

 直撃。
 これで秋葉は気絶すると同時に吹っ飛――――――

 「・・・・・・・・・・・・。」

 ――――――ばない!!

 薄い煙が晴れた先には、秋葉が既に拳を構えている。

 衝撃で少々下がっただけだ。

 「!!」

 ガキィン!!

 寸前で剣を上げガードした雷太は衝撃で後ろに下がる。

 「・・・・・・・・・ぐ・・・。(馬鹿な・・・。炎が効かない?)」

 しかも・・・・・・・・・、



 ボオゥ・・・!!



 シルヴァトゥースがいきなり炎をあげて燃えた。

 「な・・・・・・・・・!」

 しかし、炎はすぐに消える。
 シルヴァトゥース自体には、なにも影響はない。

 「・・・・・・・・・。(また燃えた・・・。剣が?・・・・・・・・・・・・まさか!)」



 秋葉は服をはたきながら一歩前に出た。

 「・・・ようやく魔法を出したか・・・。
  ・・・しかし、分かっただろう。・・・俺には魔法が――――――

 「ああ、よく分かったぜ。」

 雷太が秋葉の言葉をさえぎり言う。

 「お前の能力は・・・・・・、『触れたものを燃やす』能力だ!!」

 一瞬、兵がざわつく。
 当然だが、兵は秋葉上官の能力を詳しくは知らない。
 それを、あの男はもう分かったというのか?合っているのか?

 そんな兵達を横目で見た後、秋葉は小さくため息をついて言った。

 「・・・正解だ・・・。」

 兵が再びざわつくが、秋葉はそれを無視する。

 「俺の能力の名は『フレアブレイカー』。
  触れたものを燃やす事ができる能力だ。限度はあるがな。」

 「つまり、炎魔法は効かないって事か・・・・・・。」

 雷太はつぶやいた。

 「・・・理解が早い。・・・そう、『触れて燃える』という事は、
  常に触れている状態の俺の体には火は殆ど効果をもたない。」

 「・・・・・・・・・・・・。(・・・・・・殆ど?)」

 よく見ると、秋葉の皮膚が少々焼けている。
 ただ、余りにもわずかなので、あと何回同じような攻撃をしようが、倒せないだろう。

 「なるほど・・・・・・。」

 雷太は笑った。

 「じゃあ、水でいくしかないな。」

 「・・・弱点を突くか・・・・・・面白い。」

 二人は再び構えた。







第28話 “雷太VS.秋葉 Ver.2”



 ・・・・・・・・・・・・火はいい・・・。

 ・・・・・・・・・・・・全てを燃やし、消し去ることが出来る・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・そして、俺のテンションも上げてくれる・・・。

 ・・・・・・・・・・・・このように・・・・・・。




 ・・・火は水に弱いとよく言うが・・・。

 ・・・水はたった100℃で蒸発する・・・。

 ・・・それに引き換え、炎は最も温度が低い『冷火』でも400℃・・・。

 ・・・同じ量の火と同じ量の水・・・・・・。

 ・・・火が負けるわけねえだろ・・・・・・!






 by.秋葉 大輔





 ここはチャンポンチャン大陸のどこか。

 草原の長い一本道を、黒い車が一台走っている。

 乗っているのは二人。
 一人は運転手で、もう一人は後ろの座席に乗っている。

 静寂。

 話の一つもない。
 それは後ろの男の性格のようだ。

 その静寂を自ら切り裂き、後ろの男が言った。

 「・・・・・・少々済まない・・・。」

 「は、はい!!」

 運転手は、心臓が飛び上がったような声を出して返事をする。

 「いや、そこまで恐縮しなくても良い。
  ・・・・・・ただ、・・・・・・空気が、揺れている・・・。」

 「・・・・・・・・・はい?」

 全く分からないというように、拍子抜けた返事を運転手は返す。

 「少し、急いでくれないか?」

 「しょ、承知いたしました!!」

 車は加速する。
 制限時速ギリギリで。



 ここは『IFP空軍部第5支部基地』。

 雷太と秋葉は構えたままだ。

 雷太は左手にシルヴァトゥースを持って右手は下げ、姿勢は低い。

 秋葉は、姿勢はそのままだが、右手を羽織の懐に入れている。

 二人とも動かない。まるで時が止まったようだ。

 何かきっかけがない限り動かないだろう。・・・・・・動けないのだ。



 静寂を見つめる中、兵の一人がくしゃみをした。

 二人は同時に動く。

 「水魔法『水流放出(スパート・H2O(spout hydrogen2oxygen))』!!」

 雷太の手から、水が噴出した。

 とっさに秋葉は、左手で水流を止める。

 ただ、相手は水。大部分は地に落ちるが、
 しぶきなどで秋葉やその右手に持った紙は濡れる。



 雷太が水の放出を止める様子はない。

 「・・・なるほど・・・。・・・相手が燃えると分かれば濡らすか・・・・・・。」

 秋葉はつぶやいた。
 確かに、普通は濡れれば燃えない。

 「・・・正論だ・・・。・・・だが・・・、ハアアアアアア・・・!!」

 ジ・・・ジジ・・・ジウウウウ・・・!

 「・・・・・・?(なんだ・・・?)」

 秋葉の手から妙な音が聞こえる。
 そしてそれは、次第に大きくなるようだ。



 ・・・ボオゥ!



 「・・・・・・なっ!?」

 秋葉の手から炎が噴出し、水を押し返した。
 いや、違う。炎が噴出したのではない。
 まるで水が・・・・・・・・・・・・。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は水の噴出を止めた。
 水は完全に炎に包まれる。

 「・・・マジかよ・・・。まさか水まで・・・・・・・・・。」

 雷太の言葉に、秋葉は冷静に返す。

 「・・・その通り、俺の能力は触れるものを燃やす能力。
  ・・・それが例え水だろうが燃やす事が出来る・・・。
  ・・・その気なら、足に触れているこの建物全てを燃やす事も・・・・・・・・・可能だ・・・!」

 兵が一瞬ざわつく。

 「・・・最も、部下の命を守るのも上官の責務。そのような事はしない。
  ・・・俺の体を濡らそうとしていたようだが・・・・・・。・・・・・・ハッ・・・!」



 ボオオウッ!



 秋葉の体が、一瞬火に包まれた。

 「・・・!?」

 全身が燃えたためわずかなダメージはあるが、
 当然、水は一瞬で蒸発する。

 「・・・俺にとって水は弱点ではない。何をしてこようが、全て燃やす・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太の頬に一筋汗が流れた。



 「・・・少々おしゃべりが過ぎたな・・・。」

 秋葉は懐に手を入れて紙を取り出し、目の前にまいた。
 その紙に順に触れ、燃やしていく・・・。

 「・・・俺のあだ名を知ってるか・・・?」

 「・・・・・・!?(こいつのあだ名は・・・確か・・・・・・。)」

 秋葉の前に、次第に炎が渦巻いていく・・・。

 「・・・行け・・・!」

 渦巻いた炎が、雷太へと向かってきた。
 ・・・それはまるで・・・・・・・・・。

 「!!(・・・レッド・スネーク!!)」

 炎の蛇だ。

 雷太はとっさに横に飛んでかわした。

 行き場を失った炎の蛇はそのまま壁に激突し、近くの兵が悲鳴を上げた。

 雷太はすぐさま体制を整えるが、秋葉は既に新たな紙に火をつけている。

 「・・・行け・・・!!」

 再び炎の蛇が向かってくる。

 「・・・・・・くっ・・・!」

 雷太は急いで炎の蛇に手をかざした。

 「水魔法『水流――――――

 「・・・いいのか?・・・前ばかりに気を取られて・・・?」

 「・・・!!?」

 雷太ははっとした。
 後ろが・・・・・・、熱い!!?

 先ほどかわしたはずの炎の蛇が、戻ってきている・・・!

 「・・・悪いな。・・・俺の『火蛇蜥蜴』(ひへびとかげ)はしつこいんだ・・・。」

 雷太は舌打ちし横に飛んだ。
 そのまま両手をそれぞれの火蛇蜥蜴に向ける。

 「水魔法『水流放出(スパート・H2O(spout hydrogen2oxygen))』!!」



 ジュウウウウウウウウ・・・!!



 しつこいとはいえ流石に火。
 質量以上の水をかければかけた先から消えていく。

 「・・・マジでなかなか消えないな・・・!しつけえ!
  ・・・・・・・・・・・・・・・!!?あいつは!?」

 秋葉が・・・・・・・・・いない・・・?



 横に飛んだ勢いと、火蛇蜥蜴に気を取られているおかげで見失ってしまった。

 「・・・・・・・・・。(しまった・・・、これが狙いだったか・・・。
  ・・・・・・どこに行った・・・!?)」

 雷太は水の放射を続けながらも、辺りを見回す。

 「・・・こっちだ・・・・・・・・・。」

 「!!くっ!」

 雷太は、声が聞こえた方向と逆にとっさに地を蹴った。

 ・・・チッ!・・・。

 わずかに、秋葉の手が肩にかすっただけで済んだようだ。
 ・・・・・・・・・しかし・・・。

 「・・・しまっ・・・!!」



 ボオゥッ・・・!!



 雷太の肩を中心に、炎が噴き出した。

 「・・・ぐっ・・・!」

 雷太は転がり、上着を脱いで叩き火を消す。

 しかし、ダメージはありありだ。
 火は見た目と予想以上のダメージを与える。
 ひざをついたまま立ち上がらない。

 「・・・燃えたな・・・かなりダメージがあるはずだ・・・。
  ・・・・・・・・・・・・しかも・・・。」

 水流を途中で止めたためかすかに残っていた火蛇蜥蜴2匹が、
 秋葉の手へと戻ってくる。



 ボオウッ!



 秋葉の手に触れた瞬間、火蛇蜥蜴は完全に復活した。
 紙は既に完全に燃えつきているにもかかわらず、残っている火蛇蜥蜴。
 どうやら、『フレアブレイカー』は操作系能力らしい。

 「・・・ますます俺の火蛇蜥蜴は増える。
  ・・・俺の有利はこのまま変わらん・・・。」

 接近戦は危険、そして相手は遠距離も可能。
 その上、『水をかけても発火して蒸発(け)し飛ばす。』

 雷太は、ひざをついたままだ・・・。
 よくよく考えてみると、この戦闘で殆どしゃべっていない・・・。

 「・・・・・・・・・・・・・・・あと少し・・・・・・。」

 彼は静かにつぶやいた。







第28話 “雷太VS.秋葉 Ver.3”



 この世の魔法は全て既存。

 その気と才能さえあれば、全ての魔法を使うことが出来る。

 そして新たな魔法を作ることは出来ず、

 偉そうな言い方だが、私が記した魔法が全てである。

 もう一度言うが、魔法は共通のものだ。





 ただ・・・・・・、実はあるのだ・・・。

 たった一つ。現在確認出来たのはたった一つだけ・・・・・・。

 この世で一人しか使うことの出来ない魔法が、

 実は存在するのだ・・・・・・。

 その名は、『ヤイバ』。

 読みが存在しない魔法・・・・・・。

 そう、それを使える者の名は――――――






 『ジョー・ディヴィルの本:魔法』の文中より一部抜粋





 雷太はゆっくりと立ち上がった。

 傷ついてはいるが、まだ大丈夫だ。
 目の焦点は秋葉にしっかりと合っているし、ふらついても震えてもいない。

 「・・・やはりまだ来るか・・・・・・。」

 秋葉は静かに言う。

 「・・・まあ、そうだろうな・・・。・・・組織者はしつこいと聞く・・・。
  ・・・だがな・・・・・・、時は既に満ちている・・・。」

 そういう秋葉の手には、既に4匹の火蛇蜥蜴が牙をむいている。
 新たに2匹追加し、しかも、更に大きくなっている・・・・・・。

 見た目には、雷太の大ピンチだ・・・・・・・・・。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は何も言わない。
 ただ、ぶつぶつと何かをつぶやいている。

 「・・・まあいい・・・・・・。
  ・・・・・・・・・行け・・・!!」

 4匹の火蛇蜥蜴が雷太へ向かう。
 流石は操作系能力。ばらばらではなく、十字方向から襲ってくる。

 「くっ・・・・・・!!」

 雷太は斜め後ろに飛び、前方に手を向ける。

 「炎魔法『ヤイバ』!!」

 雷太の手から炎の塊が飛び出した。
 火蛇蜥蜴の先の秋葉へ直接向かっている。

 秋葉は眉を上げ、顔をしかめる。

 「・・・炎の能力に炎魔法だと・・・・・・!?
  ・・・血迷ったか・・・?むしろ吸収――――――



 ボフッ!!



 ヤイバが火蛇蜥蜴を突き破った。

 「・・・・・・な・・・?!!!」

 秋葉は驚きの余り一瞬固まり、避けるのも忘れガードした。

 ヤイバが、秋葉の体を包む。
 しかし、炎は秋葉には『余り』効かないはず・・・・・・・・・。

 ――――――が、

 「ぐっ・・・!おおおぉぉ!!???」

 秋葉は目を見開きながらも羽織で払い、炎を必死で消す。



 火蛇蜥蜴は消えた。
 操作系なので、本体が他のことに気を取られると滅茶苦茶になるのだ。

 「・・・貴様・・・!・・・何をした!??」

 秋葉は冷静さを全く欠いた様子で、雷太に激しく問う。
 先程とはうって変わり、今度は秋葉がひざをついている。

 「・・・俺には炎は効かないはず・・・!・・・何だその魔法は・・・!?」

 「・・・俺も知らねえよ・・・・・・。」

 雷太は冷静に答えた。

 「ただ、『ヤイバ』は特別なんだ。
  炎なのに炎じゃない・・・。なんて言ったらいいか分からないけどな・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ・・・『ヤイバ』・・・。
 ・・・いつか『ジョー・ディヴィル』の本で読んだことがある・・・。
 ・・・確か、この世で一人しか使えない謎の魔法・・・。
 ・・・魔法には興味が無いので読み飛ばしたが、まさかこいつが・・・・・・。

 「・・・あなどったか・・・・・・。」

 秋葉は立ち上がった。

 その秋葉に、雷太は一歩距離を詰める。

 「そろそろ決着をつけようぜ・・・。お互いにそろそろ厳しいはずだ。
  それに俺も、『準備完了』だしな。」

 「・・・準備・・・・・・完了・・・?」

 どうやら、何かを相手はしていたらしい。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 秋葉は答えずに、全ての紙を取り出した。
 一気に火がつき、1匹の巨大な火蛇蜥蜴が現れる。

 「・・・お前が何をしていたのかは、俺は知らない・・・・・・。
  ・・・ただ、俺は全てを燃やすだけ・・・。」

 雷太はゆっくりと目の前に手をかざした。
 先程の『水流放射』の姿勢に似ている。

 「俺は負けるわけにはいかないんだ。
  そうじゃないと、『あの人』には決して追いつけない・・・。」

 ・・・二人の間にしばしの静寂が訪れる。
 聞こえるのはわずかな兵のざわめき、そして炎が猛る音だけ――――――



 ――――――静寂――――――



 二人は同時に動いた。



 秋葉は巨大な火蛇蜥蜴を放つ。
 少々動きは遅いが、どうみても一撃必殺だ。

 雷太はかすりながらも、なんとか避ける。

 「ぐっ・・・!」

 服と腹部がかすかに燃えた。

 秋葉はすぐさま追撃のため火蛇蜥蜴をバックさせる。

 火蛇蜥蜴が、再び雷太へ向かおうと急停止する。

 雷太は後ろを見ていない。
 見ているのは・・・・・・・・・秋葉のみだ!

 雷太の手が一瞬光る。
 魔力が集中した証拠だ。

 「水魔法『爆破水放出(スパート・CH3NO2(spout carbon hydrogen3 nitrogen oxygen2))』!!」

 雷太の手からまた水流が放出した。

 秋葉は再び、手で止める。

 しかし、先程より水流ははるかに弱い。
 幼児がやる水掛遊び並だ。
 秋葉はガードすら止めた。

 雷太はかすかに微笑する。

 「・・・なんだこれは・・・。・・・これがお前が『準備』していたものか・・・?」

 秋葉は失望の色が隠せない。
 相手は第一級魔導士。少しは恐怖していたのだが・・・。

 出たのは、『少々変な臭いのする弱い水鉄砲。』

 杞憂だった。

 それが怒りへとつながる。

 「・・・失望した・・・。
  ・・・これ以上は付き合わん・・・・・・。
  ・・・俺はこの臭水を蒸発(け)し飛ばし、お前は火蛇蜥蜴に焼き食われる・・・・・・!
  ・・・・・・・・・・・・・・・終わりだ・・・!!」

 雷太は臭水の放射を止めた。
 ・・・そして・・・・・・笑う。

 「ああ・・・、俺の勝ちだ。」

 秋葉は驚くとともに更に火がついた。

 「ふざけるな・・・・・・!
  行け、火蛇蜥蜴・・・!!
  ・・・・・・・・・ハッ!!」

 火蛇蜥蜴が動く。大口を開け雷太に突進する。

 雷太は動かない。

 秋葉の体から火が噴出――――――



 ドォオン!!!



 秋葉の体が・・・・・・爆発した。



 「・・・がっ・・・・・・・・・。」

 秋葉はその場に、何がなんだか分からないという様子で立ちつくしている。
 全身が焼け焦げ、煙が噴き出る。
 ダメージは既に見る必要が無い・・・。

 雷太は戦闘態勢を解く。
 火蛇蜥蜴は既に消滅した。

 「・・・・・・・・・・・・な、・・・何故・・・・・・?」

 雷太は静かに答える。

 「お前にかけたあの水流。・・・あれは『ニトロメタン水溶液』だ・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・!!」

 「知ってのとおり、爆発危険物。
  お前が水をかけたら自ら発火して蒸発させるのは見たからな・・・。
  それを利用させてもらった。
  流石にかなり複雑だから、相当時間がかかったけどな・・・。」

 秋葉は既に精神力のみで立っている。
 ふらつく彼に、兵の泣きそうな声がかけられる。

 しかし、秋葉はまだ納得していないらしい。

 「・・・・・・・・・・・・だが・・・、俺に火は効かないはず・・・。
  ・・・・・・・・・・・・それに何故・・・・・・?」

 「火と爆発の威力はけた違いなんだよ。
  もっとも、お前に火が全く効かなけりゃやらなかったけどな・・・・・・。
  それに俺は、大の負けず嫌いなんだ。自分でも笑っちゃうほどに。」

 雷太は笑った。
 ラドクリフの時と同じ笑みだ。

 「・・・・・・・・・・・・流石は第一級魔導士・・・と言ったところか・・・・・・。」

 秋葉は大きくため息をついた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・俺の負けだ・・・。」

 秋葉は静かに仰向けに倒れた。

 一瞬遅れ、兵たちが叫ぶ。


 「秋葉軍曹!!」






第30話 “大佐と中佐と軍曹と”




 (前略)・・・さて、世界全ての組織を潰し、平和を取り戻そうとしているIFPですが、

 軍隊なので当然『実務能力』、『強さ』に応じた階級というものがあり、

 一応階級が高いほどそれらの力が高いようになっています。

 では、その階級をご紹介しましょう。

元帥
大将
中将
少将
大佐
中佐
少佐
大尉
中尉
少尉
見習士官(少尉候補生)
准将校
准尉
曹長
軍曹
伍長
伍長勤務上等兵
上等兵
一等兵
二等兵
三等兵(新兵)




 ・上に行くほど階級が高く、基本的に強い。


 ・『少尉』以上の階級のみ、
  上の階級に加え、それぞれ『陸軍部』、『海軍部』、『空軍部』それぞれの部に一人ずつとなる。


 ・ただし、『元帥』はIFPを統括するものであり、一人しかいない。


 ・階級は、その功績やその者の心、強さなどを総合して審査され上がってゆく。
  当然、上がらない者もいる。


 ・基本的に現在は停滞期の為、『曹長』以上は動いていない。
  自分らが動いたおかげでの停滞期解除、組織大戦復活は防ぎたいからだ。
  しかし、正義の心は絶やしていない。






 『ジョー・ディヴィルの本:IFP』より所々抜粋(図表含む)





 ここは例の鉄壁の機械操作室。
 実は2階にあり、大広間をガラス越しに見下ろせるという、
 雷太に非常に近い場所に位置している。

 その部屋の椅子に座り、さっきまで戦況を嬉々として見ていた兵達。
 今は開いた口がふさがらない状態だ。

 「・・・・・・秋葉軍曹が・・・・・・・・・負けた・・・?」
 「あの人の実力は折り紙付きだろ・・・・・・?馬鹿な・・・。」
 「・・・・・・あの『秋葉中将』の弟殿だぜ・・・・・・・・・?」
 「だが・・・・・・・・・・・・。」

 兵達が口々につぶやく中扉が開き、ヴィースが入ってきた。

 「君達!戦況はどうなっている?」

 兵達は驚くとともに慌てて敬礼し、その中の1名が答えた。

 「秋葉軍曹が・・・・・・・・・負けました・・・。」

 「何だって!??」

 ヴィースはガラス越しに大広間を見下ろした。
 部屋の中央に倒れた秋葉、それに雷太もいる。

 もちろんこれは彼の芝居だ。
 戦闘中、彼は隠れてこっそり見ていた。
 雷太が勝ったので、急いでこの部屋に来たのだ。

 「馬鹿な・・・・・・・・・。」

 しかし、上官がやられたというのに兵は一人も動かない。
 ・・・・・・・・・・・・これは・・・。

 ヴィースは口を開いた。

 「・・・君達、今すぐ秋葉軍曹の救護に向かってくれ・・・。」

 「・・・え!?」

 兵たちはざわめいた。自分達は救護兵ではない。
 治される事しか出来ないし、医療器具には触ったことすらない。

 「軍曹がやられたショックで、兵一人、医療班ですら動かない。
  皆で言って、呼びかけをし、仲間を動かして欲しいんだ。」

 「・・・し、しかし。我々は鉄壁を操作する者。
  それに皆で行く必要は・・・・・・・・。」

 「鉄壁なら僕にも操作できる。任せてくれ。
  それに、一人より大勢の方が良い。影響が違う。
  秋葉軍曹は命に別状がなさそうとはいえ、安心とも言いがたい。
  ・・・・・・・・・・・・・・・頼む・・・。僕も、すぐに救援に向かおう。」

 兵達は静まり動かない。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ヴィースは机を激しく叩いた。

 「早くしろ!中佐命令だ!・・・人の命が懸かっているんだぞ!!」

 「は、はい!!」

 兵達は敬礼も忘れ、慌てて出ていった。
 残ったのはヴィースだけとなる。

 「・・・ふう、やっぱり怒るふりも性に合わないな・・・・・・。
  雷太さんが勝ってくれてよかった・・・。
  自組織の副総長を疑ってはいないけど、
  秋葉さんは本来軍曹より上の実力を持ってるからね。」

 ヴィースは、鉄壁の昇降装置に目を向けた。



 一方大広間、秋葉は倒れ、雷太は立っている。

 「回復魔法『外傷小治癒(ヒール(heal))』。」

 雷太の体が少々光り、同時に傷ややけどが次第に治っていく。

 「・・・・・・・・・・・・ちっ・・・。そんなもんまで使えんのかよ・・・・・・。」

 兵に起こされ、肩を貸された秋葉が吐き捨てるように言った。
 ヴィースに怒鳴られた兵達が、到着したらしい。
 兵の統率が元に戻っていく。

 「ああ、当然。俺は第一級魔導士だぜ。
  卑怯だって言われるから、余り戦闘中は使わないがな。」

 「・・・・・・・・・・・・それでも、滅茶苦茶だがな・・・・・・。」

 「能力者に言われたくねえよ。ほいほい謎の力使えるくせして。」

 雷太の言葉に、秋葉はため息をついた。
 兵に言って下ろしてもらい、その場にあぐらをかく。

 「ところで、お前『大佐』じゃねえのか?ヴィースに聞いたんだけど。」

 雷太は言った。

 《・・・・・・・・・あほめ・・・・・・。》

 ヴィースが雷太に協力したのはIFP規約に違反する。
 ばれたら少なくとも懲罰ものだ。・・・・・・・・・あほだなお前は・・・。

 「・・・・・・・・・・・・ヴィース中佐か・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・そういえばお前と同じ『ブラックメン』だったな。
  ・・・・・・・・・・・・報告はしないでおこう。・・・・・・・・・・・・あの人は嫌いじゃない・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・俺は軍曹だ。
  ・・・・・・・・・・・・大佐なんて実力じゃねえよ・・・。」

 秋葉は目をそらしていった。

 「・・・・・・そうか・・・。
  まあ、俺はさっさと出て行かせてもらうぜ。
  お前らももう挑んでこないだろ?」

 兵は統率は取れているが、襲ってくる気配は無い。
 全員合わせたよりも強い秋葉がやられたのを見て、戦意が消えかかっているようだ。

 確認すると雷太は魔力をためはじめた。
 厚さ1mの鉄板をぶっ壊す魔法を放つ。
 並みの魔法使いには何年使っても出来ないが、雷太は並ではない。

 《・・・生意気なあほめ。》

 「・・・・・・・・・。(うるさいな・・・。しばらく静かだったのに・・・。)」

 雷太がそう思っていると、秋葉がぽつりとつぶやいた。



 「・・・・・・・・・・・・逃げろ・・・・・・。」



 車は止まっている。

 運転手は運転席に入ったままだ。

 一緒に乗ってきた男にそう命令された。

 男は冷たい色を放つ扉の前に立っている。

 「空気が・・・止まった。
  炎が魔法にかき消された・・・・・・・・・。」

 目の前は鉄の扉、厚さ1m。

 男は拳を握る。骨がなる。

 そして拳を振りかぶる。



 「逃げる?・・・何から?」

 雷太は聞いた。
 この組織では秋葉が最強のはずだ。
 ヴィースが襲ってくるはずも無し、あとはゆうゆうと基地から出てワープすればいいはず・・・。

 「軍曹!それは機密事項です!!」

 兵の一人が叫んだ。
 秋葉は落ち着いて応える。

 「・・・・・・・・・・・・俺は負けたんだ。
  ・・・・・・・・・・・・敗者が勝者に情報を与えるのは当然の事・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・いかに後で罰されようが、俺は構わない。
  ・・・・・・・・・・・・お前らは『何も聞いていない』らしいがな・・・。」

 兵は黙った。
 男の覚悟を、崩すことは非常に難しい。

 「・・・・・・機密事項?なんじゃそら?」

 雷太は聞いた。当然、何も知らない。

 「・・・・・・・・・・・・ヴィース中佐から聞いていないのか?
  ・・・・・・・・・・・・今日この基地に、あの『鉄人大佐』が来る事になっている。」

 「・・・・・・『鉄人大佐』・・・・・・・・・。」

 聞いたことがある。有名だ。ジョー・ディヴィルの本にも載っている。

 「・・・そいつは・・・まずいな。」

 ヴィースが『大佐』と言いかけたのは秋葉ではなく、そいつの事だったのだ。

 詳しくは知らない。だが大佐。強いことは間違いない。

 「・・・・・・・・・・・・さっさとぶっ壊してどこへでも行っちまえ・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・こっちは全員ここにいるから鉄壁動かせねーんだよ・・・。
  ・・・・・・・・・・・・ヴィース中佐は無線もってねえしな。」

 「ああ、魔力もたまった。遠慮なくぶっ壊させてもらうぜ。」

 雷太は扉を見据え構えた。



 一方、ヴィースは、ようやく鉄壁の開け方が分かったらしい。

 「まさかスイッチではなくコードとは・・・。
  予想外で遅くなりましたが、雷太さん、今開けますよ。」

 ヴィースはコードを入力する。

 「・・・11153・・・入力・・・!」

 鉄壁が静かに、誰も気付かないほどゆっくりに上昇し始める。



 雷太は拳を振りかぶる。

 「炎魔法『火火炎破――――――



 ドゴォオン!!!



 「・・・・・・・・・え?」



 全員があっけに取られた。

 鉄壁が・・・内側に深くへこんだ・・・・・・。

 当然、雷太は何もしていない。
 機械の誤作動でもない。逆に衝撃で上昇が止まってしまった。

 雷太は頬に汗を伝わせつぶやいた。

 「・・・・・・まさか・・・・・・・・・嘘だろ?」

 秋葉もため息を漏らし、つぶやく。

 「・・・・・・・・・・・・遅かったか・・・・・・終わったな。」



 ドゴォオン!!!



 再び轟音が響いた。

 もう壁はへこむどころではない。
 へし捻じ曲げ伸ばされ、ひびが入りまくっている。

 ヴィースはがらになく青くなった。

 「・・・冗談だろ?・・・・・・早すぎですよ、大佐。」

 急いで部屋を出、大広間へ向かう。

 ジョー・ディヴィルの本は見たことがある。
 絶賛だった。ジョー・ディヴィルが。

 IFPの中でも有数の実力者。通称『鉄人』。



 ドゴォオオオオオン!!!



 鉄壁に大きな穴が開いた。


 壁の向こうには、人が一人立っている。


 武器は無い。


 通称『鉄人』。


 その由来の一つ――――――


 『鋼鉄を素手で破壊する男。』


 IFP空軍部大佐:神谷 新右衛門。






第31話 “空を飛ぶ鉄拳”


 深々緑の髪。高めの背。
 薄青の着物に、襠有袴ではなく戦用の白い馬乗袴。
 そして鉄壁に大穴を空けた包帯が巻かれた拳。

 その眼光はしかと雷太に注がれている。

 「秋葉軍曹がやられたか・・・。御苦労だった。」

 神谷は秋葉に深く会釈をした。
 秋葉は意表を突かれ、思わず静かに首を振った。
 会ったこともなく厳しい人だと聞いていたが、礼儀節理が通った人らしい。

 大穴が開いた鉄壁をとおり、神谷は一歩入ってきた。

 「ここからは俺が受け持つ。」

 雷太は一歩引いた。
 威圧感が半端ではない。

 「マジかよ・・・・・・・・・。」

 そこへ、ヴィースが急いでやってきた。

 「待ってください、大佐!」

 神谷はヴィースをまっすぐに見る。

 「ヴィース中佐・・・。・・・そうか、お前は龍 雷太と同じ『ブラックメン』の一員・・・。
  どちらにも手を出すことは出来ないか・・・・・・。
  まあいい、今は俺がいる。」

 ヴィースの顔に汗が伝う。

 「お言葉ですが大佐。龍 雷太は何もしていません。
  秋葉軍曹を倒したのも、正当防衛かと・・・・・・。」

 「なるほど、『IFP規約第32条』。
  “IFPに属する者はその敵対する者が悪行を行っていない限り、捕縛または危害を加えてはならない。”か・・・・・・。」

 流石に、ヴィースも危険だと思っているらしい。
 秋葉の時とは違い、慌てて説得する。

 確かに、理論上雷太は何もしていない。
 本来なら攻撃を加えてはならないはず。

 ・・・・・・が――――――

 「・・・・・・関係ないな。」

 神谷は言い放った。



 「本来、敵基地に侵入した時点で悪行。
  それに、悪を見て見ぬ振りをするものは正義とは言えない。
  民の平和を守る為、正義の規約を破ってでも目の前の悪を討つ。
  それが俺の正義だ。」

 「・・・・・・し、しかし・・・・・・。」

 神谷はヴィースをにらんだ。

 「退がれ、ヴィース中佐。
  それ以上言うと、お前が組織加担のIFP規約で罰されるぞ。」

 「・・・・・・・・・う・・・。」

 ヴィースは言葉に詰まった。
 恐ろしいほどの威圧感が、彼を包む。

 「・・・・・・いいよ、ヴィース。あんがとさん。」

 ヴィースは声がしたほうを向いた。

 雷太は笑っている。

 「お前が罰されちゃ悪いし、どうあがいてもそいつは逃がしてくれそうにねえ。
  それに、俺は世界を狙う組織の一員。
  いずれは戦うことになるし、勝てなければ世界なんてお笑い種だ。」

 「そういうことだな。」

 神谷は冷静に肯定する。

 「お前ら、今すぐ全員二階より上に上がれ。
  一階にいる者は、命の保障が出来ない。
  もちろん、秋葉軍曹とヴィース中佐もだ。」

 兵達はすぐさま言われたとおりに、
 秋葉は兵に抱えられ、ヴィースも無念そうに上に引き上げる

 大広間には、雷太と神谷だけになった。



 神谷は拳の骨を鳴らす。

 「改めて言おう。
  俺の名は神谷 新右衛門。IFP空軍部大佐だ。
  初めまして。」

 「どうも、はじめまして。
  俺は龍 雷太。“強大組織”『ブラックメン』副総長だ。」

 雷太はシルヴァトゥースに手をかけた。

 「ちなみに、格闘家。称号は今は持っていない。」

 神谷は少しだけ腕を引いた。
 どう見ても、軽いパンチを出すしぐさだ。

 「第一級魔導士。・・・・・・一応リーダーだ。」

 雷太と神谷の距離は遠い。
 そこで神谷が拳を出しても、絶対に届かない。

 「・・・・・・?(何をする気だ?)」

 神谷は無言で、そのまま拳を突き出した。
 当然届くはずもなく、空をきる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・???」



 ・・・ゴオッ!・・・ドォン!・・・ドォン・・・ドォン・・・



 雷太の横を凄い勢いの、『見えない何か』が飛び壁にそのままぶつかった。

 驚きの余り雷太が振り向くと、広間の向こうの奥の奥の部屋まで大穴が開いている。

 「・・・・・・・・・な・・・に・・・・・・?」

 驚愕する雷太に、神谷が静かに言う。

 「そして能力は、
  超上級能力・放出系(ララークス)・『空砲』。
  己の意図するままに、空気の砲弾を発射する能力だ。」

 雷太は瞬時に理解した。

 あの鉄壁をぶっ壊したパンチが・・・飛んでくる?・・・しかも見えない状態で?

 「これで情報によるハンデは無しだな。・・・・・・では行くぞ。」

 神谷は静かに構えた。

 「接近戦も遠距離戦もありかよ・・・。とんでもねえな、こりゃ。」

 雷太はシルヴァトゥースから手を離し、両手に魔力を集中する。


 魔法対空砲。


 異色の戦いが、今始まる。






第32話 “ワンダリングソウル”


 (前略)・・・さて、様々な種類と数を持つ能力ですが、

 その能力にも、それぞれの系統というものがあり、

 基本的には、8つの系統に別れています。

 では、その系統をご紹介しましょう。

超自然系(サーネイトラル)
超人系(エルバス)
動物系(エニエス)
操作系(リングリングラー)
放出系(ララークス)
変化系(アルテール)
具現化系(アルカネルラ)
特殊系(ヴァルティキリア)




 ・当然ですが、順不同である。


 ・最強種は想像出来るだろうが、『超自然系(サーネイトラル)』か、
  『特殊系(ヴァルティキリア)』である。
  最弱種はここでは記さない。


 ・能力は使い方や極め方次第で、いくらでも強くなる。
  いかに弱そうで、階級が低い能力でも、本当に鍛え方使い方次第だ。


 ・私は様々な人を調べ、こっそり研究したが、
  実際私でさえ『無敵』としか思えない能力も存在する。
  その能力をほんの少し、名前だけ下に掲載する。
  どうしても見たい者のみ、ドラッグしてくれ。
  ただし責任は持たないし、後悔しても私は一切知らない。
  『ALL』、『魔法−バハツ−』、『破壊−バハヴロス−』、『無敵』、『タイム・オブ・ダメージ』
  『NONE』、『無限』、『ウェアエバー』、『ノーウェアー』、『不死身』







 『ジョー・ディヴィルの本:能力』より所々抜粋(図表含む)





 二人は構えている。
 しかし、動かない。

 神谷はため息をついた。

 「埒が明かない。行くぞ。」

 「・・・!!」

 神谷は振りかぶり、浅く拳を出した。

 「・・・・・・!(見えない!)」

 普通なら、陽炎のようにゆらめきなどが見えるのだろうが、
 残念ながら相手は空気の砲弾。
 本当に一切が見えない。

 しかし、凄い圧を感じる。飛んでくる。

 「防御魔法『魔力鋼壁(フォース・シールド(force shield))』!!」

 雷太の目の前に、厚い壁が現れた。
 魔力で作った壁だ。
 空中に浮いており透明だが、光の屈折で分かる。



 ズンッ!!



 空砲は魔壁に直撃した。

 「・・・ぐ・・・う・・・おお!!」

 雷太は余りの圧に押され退がる。
 ・・・が、なんとかガード出来たようだ。鉄壁を破壊した拳を。

 「・・・・・・・・・。
  流石だな、第一級魔導士。」

 魔壁を出したまま、雷太は構えた。

 「水魔法『爆破水放出(スパート・CH3NO2(spout carbon hydrogen3 nitrogen oxygen2))』!!」

 上で見ていた秋葉ははっとした。
 やつが、最後に自分にかけた魔法だ。・・・・・・・・・・・・確かあれは・・・。

 水流は神谷に向かう。

 ――――――が、

 「・・・『空固盛衰』。」

 神谷が言うと同時に、水流が下に落ちた。

 「なっ!?」

 まるで、空気の壁に遮られたような――――――

 「察したか?
  俺の能力は『放出系(ララークス)』だが、多少の操作が出来るように鍛えてある。
  得体が知れないのでな、空気を固めて防がせてもらった。」

 「くっ・・・!」

 雷太は放出を止めた。



 「・・・・・・なるほど、ニトロメタン水溶液か・・・。」

 「げっ!」

 馬鹿な、・・・・・・臭いか?

 「俺は化学が好きでな。・・・・・・行くぞ。」

 神谷は拳を目の前に構えた。

 「酸素30%、水素60%、二酸化炭素&アルゴン&その他10%。」

 神谷の拳から火が噴き出した。

 「なっ・・・!」

 炎・・・・・・まさか!?

 「『空砲・焔』!」

 神谷の拳から、炎の塊が飛び出した。

 しかし、飛ぶ先は雷太ではない。
 下に落ちた・・・・・・ニトロメタン水溶液だ!



 ドォオン!



 爆発で煙が舞う。
 それも黒煙。まったく見えなくなる。

 「やべっ・・・!」

 雷太はきょろきょろと周りを見回す。
 魔力をためることは忘れていないが。

 「・・・・・・・・・こっちだ。」

 雷太はとっさにしゃがんだ。



 ドォン!



 空を切った神谷の拳が壁を貫通した。

 「あっっっぶね!!」

 と言いながらも、雷太は構える。

 「雷魔法『激震――――――

 「・・・『空砲・斜光』。」



 ズンッ!!



 「がっ・・・!」

 空砲が・・・・・・斜め後ろに飛んできた・・・。



 雷太はまだ消えていない魔壁で防げたものの、勢いで地をすべる。
 魔壁が無かったら、見えないので完全にやられていた。

 「・・・俺の空砲は全方向に飛ばすことが出来る。
  拳を出した先にしか飛ばせないと思ったか?
  しかし、その盾はやっかいだな・・・・・・。」

 雷太は起き上がりざま、神谷に手を向ける。

 「炎魔法『火球(ファイア・ボール(fire ball))』!!」

 秋葉に放ったのよりも、巨大な火球が神谷に向かう。

 ――――――が、

 「・・・『炭素収縮』。」

 神谷が言うと同時に、火球が突然消えた。

 「・・・・・・またかよ・・・。」

 「空気成分のうち二酸化炭素のみを集め火球にぶつけた。
  二酸化炭素の中では火は燃えられまい。   ・・・今度はこっちだ・・・・・・。」

 神谷は拳を突き出した。

 「『空砲・曲越』。」

 再び見えない空砲が雷太に向かう。

 雷太は魔壁盾に力をいれ構え――――――



 メキッ・・・・・・!!



 「・・・・・・・・・え・・・?」

 見えない空砲が、雷太の右わき腹に突き刺さった。

 勢いそのまま、雷太は壁に突っ込む。

 「俺の空砲の軌道は曲げられる。
  前にしかその壁を出さなかったのが、お前の運のつきだ。」



 「強え・・・・・・。」

 兵の一人がつぶやいた。

 大佐なので当たり前のことだ。
 しかし、皆がその圧倒的な強さに驚いている。

 そこにヴィースはいない。
 戦況をしばらく見ていたが、そのうちどこかへ行ってしまった。



 「・・・・・・・・・。(ちくしょう・・・、右の肋骨をやられた・・・。)」

 雷太は動かない。右腹に激痛がはしる。

 神谷は先程の空砲で燃えた包帯を巻きなおした。

 「・・・・・・そういえば、お前にあったら聞こうと思ってたことがある。」

 神谷は続ける。

 「・・・お前を頭とする第一級魔導士は、それぞれの『通称』が
  『得意魔法と関係する二文字』となっている・・・・・・・・・。
  『水君:ウォルフ・ハイドレート』、『雷嬢:シーバス・サザーランド』、
  『鉄姫:金城 姫子』、『憑剣:フロンディア・セレスティアル』、・・・その他5人・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「ただ、何故かお前にだけはそれが付いていない・・・。
  お前に付いている『通称』は、『第一級魔導士の王』のみ。
  ・・・・・・・・・お前は一体何が得意なんだ?」

 雷太は左手を神谷に向けた。

 「・・・!」

 「闇魔法『深淵の牙(ブラック・ファング(black fang))』!」

 巨大な黒い牙が雷太の手から飛び出す。

 神谷は地を蹴りなんとかかわした。
 相手は闇。空気で止まらないことぐらいは分かる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太はゆっくりと立ち上がり、言い放った。

 「全部だよ!」

 「そうか・・・・・・それも面白い。」

 神谷は拳を鳴らす。

 「炎魔法『ヤイバ』!」

 雷太の手から炎の塊が飛び出した。

 「・・・『炭素収縮』。(・・・ヤイバ?・・・・・・確かあれは・・・。)」

 神谷が言うと同時に、炎が消え・・・・・・、ない!!

 「!!」

 神谷は両腕を眼前に構えガードした。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ヤイバが直撃し、神谷は炎に包まれる。
 無言だが、ダメージが無いはずはない。

 「空間魔法『陽気すぎな道化師(ワンダリングソウル(wondering soul))』!」

 神谷の体が、一瞬ピンク色の光に包まれた。

 「・・・・・・何をした・・・?」

 既に火が消えた神谷が問う。

 雷太は笑った。

 「撃ってみろよ・・・・・・空砲。」



 神谷は無言で振りかぶった。

 「・・・・・・何!??」

 出たのは空砲。間違いない。・・・・・・・・・ただ、

 「・・・・・・水色・・・?」

 空砲が目に見える。水色の移動物体が、雷太に向かって飛んでいく。

 雷太は今度は余裕でかわした。
 実はまだ魔壁はあるのだが、かわせる時にかわさない手はない。

 「・・・・・・・・・まさか・・・。」

 「察しのとおり、お前の空砲に色を着けさせてもらった。
  『陽気すぎな道化師』は見えないものに色を着ける魔法だ。」

 「・・・・・・・・・・・・。」

 「ちなみに空気を分散させようったって無駄だぜ。
  その色は、俺の意思で着いているからな。
  ・・・・・・これでようやく本気でいけるぜ!」

 神谷は下を向き、ため息をついた。

 「・・・・・・済まないな・・・。」

 「・・・・・・・・・何?」

 神谷は顔を上げた。

 「まさかお前も本気を出していないとは思わなかった。」

 「お前・・・・・・も!?」

 雷太ははっとした。

 神谷が拳を振りかぶる。

 その拳から水色の空砲が飛び出した・・・・・・・・・が、

 「・・・・・・!(速い!!)」

 さっきまでよりもずっと速い。
 雷太はとっさに右に飛んだ。



 パキィイン・・・!



 一瞬遅れ直撃した魔壁が・・・・・・粉々に砕けた。

 「・・・なっ・・・・・・!」

 「俺も本気を出していなかった。
  今から、少々本気で行こう・・・・・・。」

 雷太の顔に、一筋の汗が流れた。






第33話 “第一級魔導士の王”


 (前略)・・・さて、様々な種類と数を持つ能力ですが、

 その能力にも、それぞれの階級というものがあり、

 基本的には、9つの階級に別れています。

 では、その階級をご紹介しましょう。

?????
?????
最上級能力
超上級能力
更上級能力
上級能力
普通能力
下級能力


無紋(ノー・オーディ)




 ・上に行くほど階級が高く、基本的に強い。


 ・上に行くほど数が少ない。


 ・『無紋(ノー・オーディ)』だけは特殊な階級で、
  所有者でさえ階級が分からないものである。
  ただし、かと言って弱いわけでもない。
  一番下に書いたとはいえ、それは勘違いしてはならない。


 ・ちなみに最も上は5つ。二番目は6つである。


 ・私は様々な能力を調べ、こっそり研究した故、
  殆どの者が知らない上の二つの名も知っている。
  それを特別に、階級の名前だけ下に掲載する。
  どうしても見たい者のみ、ドラッグしてくれ。
  ただし責任は持たないし、後悔しても私は一切知らない。


  二番目の階級名は『第六天魔能力』。
  一番上は『全ての元凶(アル・コース)』だ。





 『ジョー・ディヴィルの本:能力』より所々抜粋(図表含む)





 ヴィースは、誰もいない廊下で携帯をかけている。

 相手はもちろん・・・・・・・・・。

 『はあ・・・・・・。やはり始まったか・・・・・・。』

 クロはため息をついた。

 「ええ、大変まずい状況です。・・・どうしますか?」

 クロは電話の向こうで煙草を吸う。

 『・・・・・・・・・どうしようもないな。
  とりあえず、雷太に任せてお前は静観しろ。』

 ヴィースは耳を疑う。

 「そんな・・・!・・・・・・もし雷太さんが負けたら・・・。」

 『それでもだ。』

 クロは言い切った。

 『例え雷太が死んでも動くな。それが組織だ。
  それにお前は、自分の組織の副総長を信じていないのか?』

 「そ、それは・・・・・・・・・。」

 『とりあえず戻れ。中佐のお前がいなければ、他の統制もつかないだろう。』

 「・・・・・・・・・・・・・・・分かりました。」

 携帯は切られた。

 クロはため息をついて携帯をそこらへんに投げる。

 「・・・大変そうだね。」

 アールグレイを飲みながら、デュークは言った。

 「・・・ああ。全くろくな事じゃねえな。」

 しばしの静寂の後、デュークが口を開いた。

 「雷ぷ〜・・・・・・・・・負けて死ぬの?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロは煙を静かに吐いた。

 「さあな。・・・・・・ただもしかしたら・・・、
  ・・・・・・・・・・・・出すかもしれないな。」

 「?・・・出す?」



 ここはどこかの建物の中の部屋。

 どうやら、IFPの建物らしい。

 二人の男が座り、真剣に・・・・・・・・・・・・格闘ゲームをしている。

 一人はラドクリフ。もう一人は分からない。

 「げっ!エシさん強え!!」

 エシと呼ばれた男はニヤリと笑った。

 「ふっふっふ〜。俺の持ちキャラは改造しまくってるからね〜♪」

 その部屋に、もうひとり謎の人物が入ってきた。

 「あ、ポン!」

 「閣下!」

 覚えている人はいないかもしれないが、かつて第10話でラドクリフの携帯に電話をかけた人物だ。

 「・・・・・・その呼び名で呼ぶな。・・・ポンで良い。」

 ポンと呼ばれた男は静かに言った。

 「す、済みません・・・ポンさん・・・。」

 「まあいい。緊急の連絡が入った。」

 「なんですか?」

 ラドクリフは反応するが、エシは無視してコンボを決める。

 「神谷とあの『龍 雷太』が今戦っているらしい。」

 「・・・なっ・・・!!」

 「ん〜♪ポンのとこの・・・・・・確か『鉄人』だったっけ?」

 「ああ。」

 「あの鉄人大佐とあの野郎が・・・・・・。」

 ラドクリフは驚きを隠せない。
 頭がいいとは思っていなかったが、まさか大佐に喧嘩を売るほど馬鹿だったとは・・・。
 そんなやつに自分は一回負けた。恥ずかしい。

 「でも、それもう勝負決まってんじゃん。」

 「えっ・・・!」

 エシの言葉を、ラドクリフは一瞬疑った。

 「そうだな。勝者は既に決まっている。」

 なるほど、そういうことか。
 確かに、あの鉄人大佐が負けるはずはない。

 ラドクリフはエシに隙を見る。

 「くらえエシさん!空中絶対死コンボ!!」

 「それの返し技・・・っと。」

 「嘘、あるの!?・・・・・・エシさん・・・強すぎです・・・。」

 エシはからからと笑った。


 《ってかお前ら平和を守る気あんのか?》





 ドゴォオン・・・・・・。



 壁が大破する。

 「ぐっ・・・・・・・・・・・・。」

 雷太はひざをついた。

 「かすったな・・・。」

 言いつつも、神谷は拳を振った。

 「・・・『空砲・八重撫子』(やえなでしこ)。」

 「・・・・・・またか!」

 再び空砲が雷太に飛ぶ。
 ただし先程までとは違い・・・・・・砲撃は八発だ。

 雷太は横に飛ぶが・・・・・・・・・。

 「・・・ぐっ・・・・・・!」

 「・・・またかすったな。」

 一度に八発もの砲弾。しかもスピードもパワーも殆ど変わらない。

 「俺の空砲の砲門数は決まっていない。
  その気ならば、更に砲撃数を増やすことも可能だ。」

 雷太はひざをついたままだ。

 秋葉の時のも重なり、相当傷ついている。
 あと一発でも直撃すれば、やられるだろう。

 その様子を見て、神谷は再び包帯を巻きなおす。
 特に意味は無いが、彼にとっての暇つぶしらしい。

 「・・・・・・一つ教えてやろう・・・。
  ・・・『憑剣:フロンディア・セレスティアル』をしっているか?」

 雷太は肩で息をしながら答える。

 「・・・・・・ああ、よく知っている・・・。
  第一級魔導士のNo.2だ。」

 「そのフロンディア・セレスティアルと俺は戦った。」

 「なっ・・・!!」

 雷太は驚きが隠せない。

 あいつは懸賞金すら付いていない。
 IFPと戦う理由などないはず・・・・・・。

 「当然、俺と彼女には戦う理由が無い。
  戦ったのは俺が頼んだからだ。」

 「・・・・・・・・・頼んだ?」

 「正直、俺は魔法使いとの戦闘経験が少ない。
  故に、強力な魔導士と戦ってみたかった。
  そこで偶然あったのが彼女だ。・・・当然、御互い本気ではないがな。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「はっきり言う、強かった。
  俺の攻撃は全く当たらなかった。
  やられるとは思わないが、実際かなり押されていた。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「戦闘後に話を聞くと、彼女はお前をライバルだと言った。
  ・・・・・・はっきりと言おう、お前にその資格は無い。」

 「・・・・・・!!」

 「お前は彼女より弱い。
  何が『第一級魔導士の王』だ。
  弱い者に王の資格は無い。今やお前がNo.2だ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太はゆっくりと立ち上がった。



 「そうか・・・・・・、あいつは強くなっていたか・・・。」

 神谷は辛辣に返す。

 「ああ、お前よりもな。」

 「じゃあ、なおさらお前に勝たないとな。」

 とはいえ、雷太は回復したわけでもない。

 「その状態で何が出来る?
  ・・・・・・・・・!魔力か!??」

 「その通り!」

 秋葉の時と同じだ。
 出来るだけ相手にしゃべらせて時間を稼ぎ、魔力を構築し溜める。

 雷太は両手を重ねあわせ、前に構えた。

 「・・・!やらせるか!!」

 神谷は即行で空砲を発射した。
 流石の彼も、危険だと思ったらしい。

 「もう遅え!
  炎魔法『火火炎魔砲(ブレイブ・ハート(brave heart))!!』」

 雷太の両手から空砲と同じ形状の炎の塊が飛び出した。

 速度は空砲よりゆっくりだが、神谷の空砲を一瞬でかき消す。

 「なっ!!」

 神谷から初めて驚きの声が漏れた。

 炎砲はまっすぐ神谷に向かう。

 「いっっっけええええ!!!」

 雷太が叫ぶ。
 あの炎では耐性がある秋葉でも倒せるだろう。

 当たれば終わる。逃げ場は無い。

 「仕方が無い・・・!」

 神谷は拳を目の前に構えた。

 「青空に集いし空気よ、いざ我が拳に!!」

 「・・・・・・!?」

 なんだ?なにをしている・・・?
 神谷の拳を、水色の空気が包んでいく。
 ・・・・・・・・・・・・・・・まさか!??

 炎砲が神谷に迫る。
 やがて先端が神谷に当た――――――

 「・・・目指すは青空雲は無し・・・・・・・・・『蒼穹空砲』!!!」



 ドォオン!!!



 炎砲が・・・かきけされた・・・・・・。

 雷太は愕然とする。

 「ば・・・・・・馬鹿な――――――



 メキッ・・・・・・!!



 「がっ・・・・・・!」

 空砲が直撃し、雷太は壁に激突した。

 「・・・正直焦った・・・・・・。だが、残念だったな。
  魔法は無限にあるようだが実は思ったよりも限られている。
  もう、手もないだろう・・・?」

 神谷は拳を出す。

 直撃。雷太は動かない。

 「・・・『空砲・八重撫子』、『空砲・十二単』(じゅうにひとえ)!」

 合計22発。

 本来は一発でもくらえば駄目だった。
 それなのに22発。
 壁が崩れ落ち、雷太を埋めた。
 雷太は動かない。

 神谷からは見えないが、動く気配が全くしない。

 「終わったな。」

 神谷は一言静かに言った。



 瓦礫の中、雷太は埋まり倒れている。

 「・・・・・・・・・。(あ〜・・・ちくしょうあの野郎・・・とどめに20発も入れやがった・・・・・・。)」

 雷太は足に力を入れる。
 全く動かない。

 「・・・・・・・・・。
  (・・・駄目か・・・・・・。
   ・・・・・・体もバッキバキ・・・いや、滅茶苦茶だな・・・・・・。)」

 気を抜けば意識が飛びそうだ。
 むしろ、即死でないのが奇跡に近い。

 「・・・・・・・・・。
  (・・・ごめん、クロ。
   ・・・・・・ごめん、秋水さん。・・・・・・俺、約束破るわ。)」

 雷太は静かに眼を閉じた。



 ここは先程のIFPの部屋。

 テレビを消したエシが気持ちよさそうに背伸びをする。

 「ん〜〜〜♪・・・・・・ラドちゃん弱いねえ♪」

 ラドクリフはがっくりしている。

 「エシさんが強すぎるんですよ・・・・・・。(さ、最弱キャラにも勝てなかった・・・。)」

 ポンは既に準備万端だ。

 「さて、そろそろ基地の修復部隊を呼ぶか。」

 「そうだね。どうせだいぶ壊れてるよ。」

 ラドクリフは笑う。

 「これであの龍 雷太も終わりですね。」

 その言葉を聞いた、二人の動きがぴたりと止まった。

 「・・・・・・・・・何を言っているんだ?」

 静寂の後ポンがラドクリフに聞いた。

 ラドクリフは慌てて答える。

 「・・・え?だって、御二人には分かっているんでしょう?
  神谷大佐が勝つって・・・・・・。」

 「ああ〜、言ったねぇ。勝つのは決まってるって。」

 エシはそう言った後にラドクリフに顔を向けた。
 ただ、眼光は見えない。彼は機械性のアイマスクを被っている。

 「神谷っちが『あそこで』勝てるわけないじゃん。
  龍 雷太とかいうあの魔導士めっちゃ強いぜ〜。」

 「その通り、あいつに勝てるのは少なくとも少将以上だな。
  たった一階級しか違わないが、大佐より下では無理だろう。
  神谷は実際かなり強いが、何分場が悪すぎる。」

 「・・・え・・・・・・ええ!??」



 ここはIFP空軍部第5支部基地。

 神谷は静かに立っている。

 雷太が動く気配はない。

 「ら・・・・・・雷太さん・・・。」

 ヴィースはつぶやいた。

 動かない、いや動けないのか・・・。

 いくら信じろっていったってこれではもう・・・・・・。

 神谷は瓦礫を見つめている。

 「あと30秒・・・。
  動きが無ければ、救護隊を呼ぼう。
  ・・・・・・動けるとは思えないがな。」

 神谷はため息をついた。

 正直、期待していた。

 彼女、フロンディア・セレスティアルはこう言ったからだ。

 「たぶん、雷太さんはもっと強いわよ。
  きっと、びっくりすると思うわ。」

 それほどでもない。むしろお前の方が強かった。



 瓦礫の中、雷太は埋まり倒れている。

 「・・・・・・・・・。(あ〜・・・ちくしょうあの野郎・・・とどめに22発も入れやがった・・・・・・。)」

 雷太は足に力を入れる。
 全く動かない。

 「・・・・・・・・・。
  (・・・駄目か・・・・・・。
   ・・・・・・体もバッキバキ・・・いや、滅茶苦茶だな・・・・・・。)」

 雷太は手に力を入れる。
 今度は動いた。多少自由に動かせる。

 「・・・・・・・・・。(・・・お、・・・手は動くか・・・。)」

 雷太は手をゆっくりと動かす。

 「・・・・・・・・・。
  (・・・ごめん、クロ。
   ・・・・・・ごめん、秋水さん。・・・・・・俺、約束破るわ。)」

 雷太は静かに眼を閉じた。



 「いいか、雷太。
  君には膨大な魔力が眠っている・・・・・・。」


 あの人が言う。


 「それは既に人外だ。絶対に開放するな。」


 俺はあの人を尊敬する。


 「『それ』さえしていれば、決して開放されることはない。」


 あの人は俺に魔導士の道を開いてくれた。


 「いずれ、また会おう。
  その時は、一対一で戦う時だ。」


 その人の名は『氷室 秋水』。
 俺にとっては、ジョー・ディヴィル以上の魔導士。
 俺は彼に追いつくために、強くなり続けなければならない。


 「・・・・・・・・・。
  (ごめん、秋水さん。
   でもやっぱり俺は、こんなところで負けてはいられないんだ!)」

 雷太は手を伸ばす。

 彼のはちまきは、外したことがない。
 第8話の時も外さずに締めなおしただけだ。



 その赤いはちまきを、手で少しだけずらす。



 「・・・・・・・・・30秒、それ以上。・・・・・・。出してやろう。」

 神谷は一歩歩み出た。

 ・・・バチ・・・・・・バチバチ・・・。

 神谷は歩みを止めた。

 「・・・・・・?何だ?・・・最後の悪あがきか?」



 ・・・・・・バチバチ・・・バリバリ・・・



 「・・・・・・!?・・・・・・これは!??」

 瓦礫から、蛍光黄緑色の光が漏れる。

 瓦礫が勢いよく吹き飛んだ。



 バリッ・・・バチバチッ・・・・・・



 そこに現れたは・・・蛍光黄緑の光に包まれた雷太。

 「・・・・・・な・・・なんだそれは・・・?」

 神谷が聞く。

 「・・・魔力だ。」

 雷太は静かに答える。

 神谷は目と耳を疑った。

 「馬鹿な・・・!魔力だと!?
  魔力が体外に溢れ出るなど、聞いたことがないぞ!!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「確かに『魔力魔法』という魔法は聞いたことがある。
  だが、魔力を魔力のままで出すことは余りに難しく危険で、
  殆どの者は、魔力をわずかでも体外に出すと死に至るはず――――――

 「それが!・・・・・・・・・俺にはできる。」

 神谷の言葉を遮り雷太は言った。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 神谷は黙った。
 あの神谷が圧倒されている。

 雷太は左手を真横に構えた。

 「炎魔法『ヤイバ』。」



 ゴォオゥッ!!!



 余りにも巨大な炎が、左の壁に余りにも巨大な穴を開けた。

 巨大すぎて、下手をしてあと1m上だったら、
 かなり離れているはずの2階吹き抜け廊下の兵達も焼き尽くしていたところだ。

 「俺のヤイバは特殊な魔法。
  他の魔法とは違い、込める魔力の量によって威力が違う。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「決着をつけようぜ、IFP空軍部大佐:神谷 新右衛門。」

 「・・・・・・・・・。」



 ズ・・・ズズズズ・・・



 神谷の背後に同じく巨大で水色の空気が渦巻く。

 「・・・・・・面白い。相手にとって不覚無し。
  行くぞ。“強大組織”『ブラックメン』副総長:龍 雷太。」

 一瞬訪れかけた静寂を許さず、二人は言い放つ。

 「・・・・・・・・・勝負だ・・・!」







第34話 “不死鳥対後月”



 あの野郎が目覚めやがった。

 くだらねえ、そのまま死んじまえばいいものを。

 そうすれば、俺に殺されずにすむのに。

 まあいい。目覚めたなら目覚めただ。

 それ以上の力で、ぶっ殺してくれる。





 所詮あいつは、俺には敵わない。

 この世を見れば、一目瞭然。

 いずれ、やつは後悔するだろう。

 ああ、この世界じゃなかったらよかった・・・と。

 そうすれば、

 俺の殺されずにすむのに。

 そして俺はあの女を手にする。

 あの女の全ては俺のものだ。

 ・・・フフフ・・・ハハハ・・・、

 ハ――――ハッハッハッハッハ!!!!






 by.アーク





 一人の男と一人の女。

 狭い部屋に二人。

 息が荒い二人。

 「・・・どう・・・?感じる?」

 男が聞いた。

 「・・・・・・うん・・・。」

 女が答える。

 「予想以上だ。」

 その言葉を聞き、男は笑った。

 「全くだよ。彼が出てくるのは予想していたけどね。」

 女も笑う。

 「ボクも予想してたけど、ここまでとは・・・。」

 男は、一時的に得物を納めた。

 「彼は特殊な魔導士だからね。
  何たって、僕でさえ使えない魔法を持ってる。」

 女は少々顔をしかめる。

 「ヤイバか・・・。ボクも使えない。・・・『この能力』をもってしても解析不能だった。」

 「まあいいさ。僕たちには敵わない。」

 男と女は同時に、再び刀を抜いた。

 「そう、ボクたちには敵わない。」



 バリッ・・・バリバリッ・・・



 その刀を、魔力が覆う。

 一方の名は『3号』。もう一方の名は『神』。


 「「我ら、組織『天空地海轄』、そして『零魔導士』には。」」



 ズ・・・・・・ズズズズズ・・・


 神谷の後ろに、巨大な空気の渦が出来ている。

 その形はまるで――――――

 「・・・・・・準備完了だ・・・。」

 神谷は雷太を見据え言った。

 彼の後ろには多くの部屋、雷太の後ろには壊れた鉄壁。

 「こっちは、いつでもいい。」

 雷太は言った。


 バチ・・・バリッバリッ・・・


 彼の右手に蛍光黄緑の光が集まる。



 ――――――静寂。



 空気が渦巻く音、魔力が猛る音、そしてわずかな呼吸音。



 「行くぞ。」

 神谷は拳を握り、大きく振りかぶった。
 ピッチングマシーンのようにわずかに止まり、ゆっくりとした動きの後――――――

 「・・・『後月空砲』(しつきくうほう)!!」


 ゴオオオオオオオオ・・・


 巨大な球形の空砲。
 それはまるで迫る月。
 相手を飲み込まんと次第に迫る。



 バチッ・・・バリバリバリッ



 雷太の右手が激しく光る。



 後月が迫る。
 彼は静かに右手を前に構えた。

 そして叫ぶ。

 「高等炎魔法『貫通する大火炎(フェニックス・パネトレイト(phoenix penetrate))』!!!」

 一瞬のち、雷太の前に巨大な炎が現れた。
 その姿、正に・・・・・・・。

 「・・・・・・不死鳥・・・。」

 神谷がつぶやく、その神々しさに誰もが見惚れる。

 不死鳥は一度羽ばたくと、後月へ向かって突進した。

 一瞬後、後月はあっけなく崩れ消え去った。

 「馬鹿な・・・・・・一体どれだけの・・・!!」

 不死鳥の次の貫通先は・・・・・・神谷だ。

 一度鳴くと、不死鳥は神谷へ突進する。

 高速の炎塊が、神谷を包み貫通する。

 「う・・・おおおおおおおおおおおお!!!!!」



 ズドオォン!!!



 不死鳥は壁を数多貫通し、やがて消えた。

 神谷はいない。姿が見えない。

 「・・・俺の勝ち・・・・・・だな。」

 雷太は言い、はちまきを元に戻す。

 と、雷太はカクンとひざを突いた。

 「いっけね・・・・・・、流石に魔力使いすぎたか・・・。」

 雷太はシルヴァトゥースを地に突き刺し、なんとか立ち上がった。

 「・・・じゃあな!出て行かせてもらうぜ!!」

 二階以上の兵は、全て動かない。
 『鉄人:神谷』が負けた。
 そんな相手に自分達で敵う?冗談じゃあない。

 やがて、雷太は兵が動かないのを確認すると、走って基地を後にした。



 次第に、兵が一階へ降りてくる。

 凄惨なる現場、それに改めて驚くと共に、消えた神谷に涙を流す。

 「・・・・・・・・・・・・あの野郎、あんな力を隠しもってやがったのか・・・。」

 秋葉は静かにつぶやいた。
 自分には本気でなかった・・・・・・屈辱!
 しかし、心の中で安堵しているのも事実。
 彼は震える拳を深く握った。



 誰もいない廊下で、ヴィースは座り込んでいた。

 「はは・・・・・・強すぎですよ、雷太さん・・・。」

 震える手、携帯のボタンが上手く押せない。

 あれが『第一級魔導士の王』、そして我が組織の副総長。

 あの力で世界を奪る。そしてあのクロさんはもっと・・・・・・。

 「・・・・・・面白い・・・!」

 彼は立ち上がった。



 ヴィースが大広間一階へ戻る。

 兵に指示し、統率を取る秋葉へ声を掛ける。

 「早急に本部へ連絡し、修復の措置を取ろう。」

 秋葉は会釈した。ヴィースが戦わなかったのは当然のこと。
 責めるのは見当違いだ。

 「・・・・・・・・・・・・ありがとうございます。
  ・・・・・・・・・・・・ついでに、本部へ『龍 雷太』の情報を。」

 「ああ、分かった。全て僕が報告――――――

 「その必要は無い。」

 ヴィースと秋葉ははっとして声がした方を見た。

 いまだ炎がちらつく瓦礫を崩しかきわけ現れたのは・・・・・・、

 「神谷・・・大佐・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・ご存命でしたか・・・。」

 いや、存命どころではない、
 上半身の服は跡形も無いが、その体は――――――

 「・・・・・・!?(・・・馬鹿な・・・・・・無傷だと・・・!??)」

 ヴィースは信じられない。
 あれだけの炎を受けて無傷。
 付いているのはあの特殊な魔法『ヤイバ』に焼かれた傷のみ。
 少なくとも、能力『空砲』のおかげではない。
 彼は一体何者なのだろうか?



 「連絡は俺がしておこう。直接戦ったものの方が分かる。」

 神谷の言葉に、ヴィースは頷いた。

 「失礼だが、その必要も無いな。」

 どこからか、声が響いた。

 神谷でもヴィースでも、秋葉でもない。

 3人は各々に辺りを見回す。

 ガチャリ・・・

 突如、空間に扉が現れた。
 その扉を開け、現れたのは・・・・・・。

 「・・・!!」

 3人は一斉に敬礼する。

 「その必要は無い。・・・・・・大体は全て聞き感じていた。」

 男が言った。

 「何故ここに・・・?『陣内 宇宙閣下』。」

 神谷が聞くが、陣内は無視して言う。

 「・・・その名で呼ぶな。・・・・・・『ポン』でいい。」

 「・・・済みません。」

 神谷は目を伏せた。
 まあ、多少不満疑問があるのも無理は無い。
 彼の名前の読みは『じんない そら』。『ポン』の一文字も入っていないのだ。

 陣内は続ける。

 「今も言った通り、全て聞き感じていた。
  御苦労だったな、秋葉軍曹、神谷大佐。
  特に神谷大佐は『本気を出せない』とはいえ、よくやった。」

 「いえ・・・。」

 二人は敬礼で返す。

 「・・・・・・!?(あの強さで『本気を出せない』・・・・・・のか?)」

 ヴィースは信じられない。

 「ヴィース中佐も、よくどちらにも手を出さなかった。
  どちらに手を出しても、問題になっていただろう。」

 「いえ、当然のことです。」

 ヴィースは冷静を装って敬礼で返した。

 「既に修復舞台を呼んでいる。早急に修復させよう。
  しかし、・・・・・・・・・・・・・・・。」

 陣内は雷太が出て行った入り口、壊れた鉄壁の方を見た。

 「・・・よくやってくれたものだ、龍 雷太。
  いずれにしろ、・・・・・・・・・潮時だな。」



 ここはクロの家。二人がいる部屋。

 クロは煙草の煙を吐いた。
 吸殻は既に山盛りだ。

 それを見て、デュークは微笑した。

 「・・・・・・で、なんなの?それ?」

 いつの間に持ってきたのか、クロの右手には真っ白な枕が抱かれている。

 「・・・・・・今に分かる。」



 シュッ・・・・・・



 と、クロの部屋に突然雷太が現れた。

 「げげっ!・・・・・・クロ・・・。」

 前にも書いたが、『ワープ』は大体の場所しか特定できない。
 本当なら雷太は、自分の家にワープしたかったらしい。

 「おかえり雷ぷ〜♪」

 「よう。」

 クロは一瞬、雷太の足に目を向けた。
 ・・・・・・予想通り、いや何故か知っていた。

 「その様子では、勝ったらしいな。あの『鉄人』に。」

 「ああ・・・・・・ごめん、クロ。・・・・・・俺――――――

 雷太の世界が歪む。
 次第にぼやける崩れゆく。

 クロは枕を投げる。

 その上に、雷太の頭は落下した。

 「・・・・・・すー・・・。」

 寝ている。当分起きそうにない。

 「・・・魔力の使いすぎだ。・・・・・・・・・全く・・・。」

 クロは己の頭を抑えた。
 デュークが笑う。

 「でも、良かったじゃない。帰ってきて。」

 「・・・・・・・・・まあな・・・。」

 クロは、新たな煙草に火をつけると、立ち上がり窓を開けた。

 急激に風が入ってくる。
 机にあった書類が、全て吹き飛んだ。



 キンッ



 窓の向こうは雲ひとつ無い青空。

 書類は、全て粉々に斬り刻まれた。

 空を見ながら、クロはつぶやく。

 「・・・・・・・・・始動か・・・。」



 「さて、取り合えず神谷大佐と秋葉軍曹は
  本部に来るといい。本格的に治療したほうが良いだろう。」

 「・・・・・・・・・・・・「はい。」」

 「私は先に行っておこう。
  まあ、私しか行けないのだが。」

 そう言うと、陣内は空間をつかみひねるように動かした。

 ガチャリ・・・

 空間が扉のように開き、開けられる。

 ちなみに、ここで有益な情報を。
 陣内 宇宙、彼は能力を『持っていない』。

 彼は扉に入ろうとしたが、立ち止まった。

 「そうだ・・・、神谷大佐、ヴィース中佐、秋葉軍曹。
  言い忘れていた。」

 「・・・・・・・・・・・・「・・・「はい、なんでしょうか。」」」

 健気にも敬礼を崩さずに、彼らは聞いた。

 「・・・お前達は減給だ。」

 「・・・・・・・・・・・・「・・・「・・・・・・ええ!!???」」」







第35話 “世界始動と探求者”



 世界は動く。

 それは罪なのか?


 人は争う殺しあう。

 それは罪なのか?


 人によって力才能は違う。

 それは罪なのか?


 人によって全ては違う。

 それは罪なのか?


 世界は全てにおいて歯車。

 それは罪なのか?


 全ては予定調和。

 それは罪なのか?


 何が罪で、何が罪でない?

 答えられるものはいない。


 命とは、全てなのだろうか?

 それは愚問だ。


 罪とは罪だからだ。




 では、命とは何だ?






 by.仮面の者



 体が動かない・・・。

 神谷は右拳を深く引いた。

 魔法だ・・・なんでもいい!

 声が出ない・・・!?

 「終わりだ・・・。」

 神谷が言う。

 「三大奥義・・・『獅子面空砲・絶牙』!!」



 「うわぁぁぁああ!!」

 雷太はベッドから跳ね起きた。

 「はあ・・・はあ・・・・・・あれ?」

 ここはいつもの雷太の家の二階。
 いつものはちまき、いつもの寝巻き、いつもの快眠帽子。

 「・・・そうか・・・勝ったんだ・・・・・・。」

 生活に支障はないが、まだ完全には回復していない。
 雷太は自分の右腕を見つめた。

 ♪ジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカ♪

 「うおおっ!!?」

 雷太の携帯が突然なった。
 曲は当然、『CLAIM OF SOUL』だ。

 雷太は心の中で毒づきながら出た。

 「・・・はい?」

 『俺だ。』

 「く、クロ!!?」

 雷太は心臓が跳ね上がった。
 目の前で気絶し、家で目覚めて数日。まだ会っていない。
 本来なら家に行き謝罪するべきなのだろうが、ぶっちゃけていうと怖い。
 その相手が突然電話をかけてきた。驚きびびるのも無理は無い。

 『回復したか?』

 クロはいつもの調子で聞いた。

 「え?・・・・・・あ、うん。大体なら。」

 『なら今すぐ来い。緊急事態だ。』

 雷太の返事を聞く間もなく、電話は切られた。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 行くしかない。
 雷太は心の中で毒づいた。



 ここはどこかの建物。
 外観から想像するに、IFPのものらしい。

 その中の一室に、二人の人物がいた。

 一人は赤髪で背が高く、目に濃い『くま』がある見るからにやる気のなさそうな大人の男。
 もう一人は、青髪で、背中にぴこぴこと小刻みに動く悪魔翼がついた少女。

 二人とも、そのやる気とは裏腹に軍服を着、
 ネクタイ、帽子、ブレザーまで旧上官制服を完備しているのだが・・・・・・。

 二人とも隣り合った大きさの違う机にあごを乗せ、椅子に座ったまま腕をだら〜っと下げている。

 「あ゙〜〜〜〜・・・っ・・・。」

 「・・・・・・たるっ・・・。」

 前者は男、後者は少女だ。

 どう見ても服装以外やる気がない。

 ちなみに、この部屋は特殊であり、
 あたりの壁や家具全てに、何故かこう書かれている。

 『防火すぅぱぁ(R−18)』

 そこへ兵の一人が歩いてやってきた。
 敬礼をし、部屋の中に入る。

 「失礼します、上からお手紙です。」

 男は手紙を受け取るが、だらけた姿勢は崩さない。

 「ああ・・・ご苦労。」

 「ごくろう〜・・・。」

 普通の人なら突っ込みそうだが、この兵は見慣れているらしい。

 「では、失礼しました。『秋葉中将』、『レーシィ中将』。」

 普通に敬礼をし、去っていった。
 部屋の扉を間違いなく閉めて。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 秋葉は手紙を読むにつれ、表情がこわばっていく。
 それに比例するように姿勢を上げ、今度は逆に椅子の背にもたれかかった。

 「・・・・・・・・・な〜・・・・・・に〜?」

 少女が聞いた。

 「・・・弟が・・・・・・やられたらしい。」

 少女は眉を上げた。

 「・・・大輔ちゃん?」

 「ああ・・・・・・・・・。」



 チリ・・・チリチリ・・・・・・



 ボオォォウウ!!!!



 男の体から、物凄い炎が噴き出した。
 部屋一面を炎はなめるどころか覆いつくす。

 この部屋が『防火すぅぱぁ(R−18)』でなければ一瞬で燃え尽きていた。
 弟の比ではない。

 「だめよ・・・だめ。・・・おこっちゃだめよ・・・。」

 少女が言った。

 あれだけの炎。少女にも火が。
 だが・・・・・・彼女には傷一つ付いていない。

 「ああ・・・大丈夫だ。
  よくもやってくれた、龍 雷太。俺の大事な弟を・・・。
  燃やしてやる・・・・・・、俺の『波動』の力で、燃やし尽くしてやる・・・。」

 「ん〜・・・・・・。」

 と、男はまるでスイッチを切ったように元の姿勢に戻った。

 「「・・・・・・・・・たるっ・・・。」」

 この二人は本当にやる気がない。



 ここは別のIFPの建物。

 その部屋の一室で、見るからに不機嫌そうな男がものを書いている。
 どうやら、報告書らしい。

 「ああめんどくせえクソが!今時報告書なんて書かなくてもいいだろうによ!
  そのアナログ精神!まったく尊敬するぜ腐れきったピザのようになあ!」

 男は、どうやら見かけどおりの人物らしい。

 その部屋の扉が、突然開かれた。

 「ソフェヴァラ少将!!」

 男は不機嫌に兵を睨む。

 「うるせえよ、殺すぞ!
  しかもてめえ敬礼忘れてんじゃねーか、なめてんのか?ああ!?」

 「す、すいません・・・!」

 兵は急いで敬礼した。
 最も、これで彼の機嫌が直るのであれば苦労はしない。

 と、兵は用件を思い出したらしく、また慌てた。

 「し、しかし大変なんです・・・・・・組織が・・・いや世界が・・・!!」

 「・・・・・・・・・あ!??」



 ここはまた別の建物。

 その部屋の一室で、二人の男が話している。

 「・・・・・・分かった、報告感謝する、『ディス』。
  ・・・・・・ただ、残りの『四大運命(フォー・カーズ)』には俺から伝えておこう。」

 ディスと呼ばれた男は不思議そうに聞いた。

 「・・・?それでいいのですカ?『ヴァレット』。」

 『ヴァレット』と呼ばれた男も返す。

 「ああ。その方が速い。
  それに、『アルス』、『ロイ』はともかく、『レイラ』は話しづらいだろう?」

 「・・・・・・・・・確かニ。」

 やがてディスは部屋を出て行き、部屋にはヴァレットだけになる。

 彼は静かにため息をつき、ワイングラスを口に運んだ。

 「・・・・・・馬鹿な男だ、氷上=P・クロ。
  弱小のくせにでしゃばるからそうなる。
  ・・・・・・そろそろ我らも動くべきか。
  俺たち、“超巨大組織”『アーヴィシヴル・ハザーズ』も。」

 ヴァレットはワインを飲み干した。

 カシャーンッ!

 ワイングラスはテーブルに落ち砕けた。

 ヴァレットの姿はどこにもない。・・・・・・消えた。



 ここはどこか。

 広大な草原を、二人の者が歩いている。

 一人は男。もう一人は仮面をし、白衣を着たもの。

 「・・・・・・聞いたか?」

 仮面の者が、低い声で男に聞いた。

 前を歩いていた男は振り向き、微笑う。

 「組織の事ですか?もちろん、拙者は聞きましたよ?」

 「・・・・・・・・・・・・。」

 「なに、気にする事は有りません。
  所詮は始まり、いずれ終わります。
  ・・・さあ、参りましょう。『アンセスタ』殿。」

 「・・・・・・・・・ああ。」

 二人は歩く。
 終焉へと。



 「・・・さて、とうとうお動きになられましたねえ・・・。」

 空を飛ぶ巨大な飛行船。
 その一室で男はつぶやいた。

 真っ白な服。青髪。
 相当に高い背。そして頭には余りにも長い白いシルクハット上の帽子。

 彼の名はシヴィウス。全てを持ちし者。

 「まあ、計画通りです。
  一瞬の曇りも無い。実に素晴らしい。
  どうです、読者さん?このまま終わりまで、お付き合いになられますか?
  全てはあなたの気分次第なのですがね。・・・フフフ・・・・・・。」

 シヴィウスは右人差し指をくるっと円を書くように動かした。

 飛行船が一瞬で消える。

 組織大戦当初から設立し、
 世界に辛くも影響を与え続けている。

 通称、『天空の支配者』。

 “謎の組織”『Sky Zenith』。



 「馬鹿な・・・・・・・・・。」

 ソフェヴァラはあっけに取られた。

 「・・・・・・世界中の・・・組織が・・・?」

 報告兵は慌てながらも敬礼を崩さずに続ける。

 「はい!
  『ブラックメン(Brrack Menf)』を始め、
  『天道−God Way−』、『G・U・N』、『メタルガーディアンズ』、
  『エンシエントレジェンズ』、『魔軍』、『鬼神(きじん)』、『機神(きのかみ)』、
  『天魔四天王』、『魔空文字軍』、『ネバーランド』、『八星(ユイットエトワール)』、
  『7EVENS HEAVEN(セヴンスヘヴン)』・・・・・・・・・。
  ・・・・・・全ての大きな組織が・・・・・・活動再開を表明しました・・・!!」

 ソフェヴァラは呆然とした。
 ペンのインクが、書きかけの報告書にしみていく。
 龍 雷太の事は聞いていたが、まさかこの様な事になるとは・・・。

 「・・・・・・・・・。・・・・・・!
  ちょっと待て・・・・・・。
  てめえ、さっき『全て』って言いやがったな・・・。・・・・・・・・・まさか!!?」

 「・・・・・・・・・はい・・・。」

 兵は静かに肯定した。

 それを聞き、ソフェヴァラは柄になくぞっとする。

 「・・・あの『五大組織』も動きました・・・。
  『天空の支配者:Sky Zenith』。
  『No.3の組織:アーヴィシヴル・ハザーズ』。
  『No.2の組織:PSY(サイ)』。
  そして・・・・・・・・・そして・・・。」

 兵は震える。ソフェヴァラも青くなる。

 「『世界最凶組織:D』。
  『世界最強組織:天空地海轄(てんくうちかいかつ)』まで!!」



 「嘘・・・だろ・・・・・・?」

 雷太はあぜんとした。

 「・・・・・・事実や。」

 そう言ったのは、一人の男。
 『タイガー・イエロー』の短髪。ラフな服装。
 クロぐらいの背。髪の色に似ている薄飴色の眼鏡。その向こうには虎のような目。
 世界を知る情報屋:虎眼 ギン。

 「あんさん・・・ほんま大変な事したなあ。」

 その部屋にいるのは4人。
 クロ、雷太、ヴァン、ギン。

 「まあ、事実だ。」

 クロは煙草を吸いながら言った。

 「ヴァン、お前は出したか?」

 「うん、もうとっくに。」

 ヴァンが明るく答えた。

 「いいか、雷太。理由はどうあれ、世界が動いた。
  これは戦争だ。そして絶好の好機でもある。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「我が『ブラックメン』もヴァンの『メタルガーディアンズ』も動く。
  『隊長達』も、既に連絡を取った。
  ・・・・・・『全員来い』ってな。」

 「・・・・・・!!」

 雷太は驚いた。しかし、同時に覚悟を決めた。

 「目指すは『世界の統轄者(レイン・ルーラー)』だ。」

 煙が舞う。クロは微笑った。

 「喧嘩売ってやろうじゃねえか、『世界』によ。」



 世界最強組織:天空地海轄の正式な表記。







 何も無い荒野。

 『決戦の地:イージス(AEGDZ)』。

 其処を歩くは仮面の者。

 彼は一体何処へ行くのか。

 其れは、無限への旅路。