第36話 “序章完全ダイジェスト”


 ※これは、某人の要望により序章の全てを2ページにまとめたものです。

  ぶっちゃけて言うとまったく変わっていません。

  ただし、労力は半端無いです。

  よって、ジオ計測でこのページ見た人が10人未満だったら二度とやりません。

  それでは、御楽しみを。






第1話 “龍 雷太登場”



 物語が始まる・・・。



 『鍵』で扉が開け放たれる。



 時が加速する。



 止まっていたもの達が動き出す。



 最後に笑うものはもしかしたら、



 もう決まっているのかもしれない。



 その先には、絶望と無しかないのかもしれない。



 しかし彼らは、歩みを止める事は無い。



 止める事は出来ない。



 始まりは突然訪れる。



 準備も覚悟も許されない。







 by.ジョー・ディヴィル





 遠い、遥かに遠い昔・・・宇宙が誕生し、やがて唯一の生命を育む星、

 太陽系第三惑星『地球』が誕生した。

 地球の生物は様々な進化を遂げ、やがて我々がよく知る動物、植物の他に『人間』、そして『魔族』が生まれた。

 『魔族』とは、基本的に我々にとっては空想の中の産物である者を指し、

 一口に『魔族』といっても、『エルフ』、『鬼』、『ドラゴン』など様々で、人間には無い力を持っているものも多い。

 人間と全く同じ姿をした『魔族』もいれば、まったくもって異形と言える姿をした『魔族』もいる。

 しかし、『人間』と『魔族』はお互いに特に強い差別意識も無く、殆ど平和に共存して来たのである。



 ・・・だがしかし――――――



 現在、世界は混乱を極めていた。

 ある時、その当時世界を統治していた『世界帝国』を滅ぼし、世界を我が物にしようというある組織が現れた。

 しかし、その野望は辛くも打ち破られた。

 ・・・・・・早っ!

 別に正義のヒーローが現れたわけではない。

 なんと、同じように世界を我が物にしようという組織が多数現れたのである。

 今まで政府の軍に押さえつけられ、身を潜めていた強者達が、一斉に動いたのだ。

 己が欲望の為に。

 その急激さと勢いの波に、それまで我が物顔に世界を統治し、腐敗しかけていた『世界帝国』はあっというまに飲み込まれた。

 史実上の『世界帝国』崩壊である。

 そして『世界帝国』を滅ぼした各々の組織達は、己が第二の『世界帝国』となる為、お互いに潰し潰され、争い続けた。

 そして、後に『組織大戦』と呼ばれるその争いが全く止まぬまま、現在に至る・・・・・・・・・。



 その世界が極めている今、ある一人の青年がいた。

 彼の名は『龍 雷太』、19歳。

 魔が巣食う洞窟で修行を始めてから3年程になる、元気な若者だ。

 彼は幼いときから、誰にも教わっていないのに『魔法』という不思議な力が使え、その力を武器にある組織に所属し、数多くの敵と戦ってきた。

 しかし、時と共に自分にはまだ力が足りない事を実感し、修行の為この魔の巣食う洞窟にこもったのである。



 やがて、その修行も終わりを告げようとしていた。

 「さて、行くかっ!」

 元気な声とともに、雷太は立ち上がり、洞窟の入り口へと歩き始めた。

 「3年で世界はどんなふうに変わったかなあ?」

 やがて、洞窟の外に出た。・・・少年小説だからって早っ!

 その雷太を陽光が明るく照らす。

 「まぶしっ。」

 雷太の顔は自然と笑顔になった。

 真っ暗闇の洞窟の中で、3年も魔法で作り出した光のみで過ごしてきた雷太にとって、 天然の光はとても喜ばしく感じられたようだ。

 雷太は大きく背伸びをした。

 「ん〜〜〜っ。3年ぶりの外か・・・なんかなつかしいような気も・・・・・・・・・ しないなあ、ここじゃあ・・・。」

 この洞窟の周りは荒野で、あるものといえば枯れ草や死骸(骨)ぐらいしかない。

 「・・・ま、もうここでやる事もないし、さっさと『ワープ』の魔法で俺の家がある『エクセス』へ帰るかな・・・。」

 そういうと雷太は目を閉じ、両手をパーの形に広げて、前へ突き出し集中し始めた。

 周りがいっそう静寂に包まれる。

 そして、『エクセス』の街を思い浮かべながら雷太は叫んだ。

 「移動魔法『空間歪曲転位(ワープ(warp))』」

  シュッ・・・

 雷太はその場所から一瞬で消えた。





 ここはジパング大陸、『陽気な街:エクセス』の大通り、『メリーストリート』だ。

 大通りと言うだけはあってかなり大きく、左右には店が立ち並び、平・祝日を問わず常ににぎわっている。

 ちなみに歩行者天国だ。

 今日も大勢の人であふれている。

 ・・・そのとき、

  シュッ・・・

 突然、通りのど真ん中に雷太が現れた。

 周囲の人々の動きが止まる。

 「・・・!・・・・・・げ・・・。」

 雷太は思わず声が出た。よりによってこんなところに出るとは、彼も思っていなかったらしい。

 皆、ぽかんと雷太を見ている。状況が飲み込めていないようだ。

 無理もない。普通ならば大騒ぎが起こるだろう。

 突然人が現れたのはまだ不思議で済ませるとしても、彼は有名な『組織所属者』。ある視点から見れば『悪』だ。



 ――――――が、



 「なんだ、雷太か。」

 雷太の周囲の人々の一人がぽつりとつぶやいた。

 「え!?雷太さん?」

 「へ〜、久しぶりじゃん!」

 「バカ副総長か。」

 なんと人々は、驚きの欠片も見せていない。

 それどころか、それを機に人々は堰を切ったように話し始めた。緊張の糸がほぐれたらしい。

 「ほら見ろよ。オレンジ色の髪に赤いバンダナ(長いはちまき)、
  それに背に差した銀色の大剣。ありゃどう見ても“強大組織”『ブラックメン』の龍 雷太だ。」

 「ホントだ〜。かっこい〜。」

 「ああ、修行を終えて帰ってきたんだ。(誰だ『バカ』っつったの!?)」

 雷太は人々の反応に笑顔で答えた。

 これぞ営業スマイル。お前はホストか。

 「・・・・・・・・・。(やかましい!ナレーターが話しかけるな!!)」

 「・・・あ、あの・・・サイン下さい!」

 「・・・!?・・・!うん、いいよ。」

 雷太はにこやかに言った。



 実は、世界を狙う組織といってもそう人々に嫌われているわけでもないのだ。
 むしろ好かれていると言った方が正しいだろう。
 確かにこの世界を奪ろうと争い続けている組織達だが、
 一応プライドというものはあるらしく、メンバーは組織や自分の敵以外には全く手を出さない。
 むしろ、自分達が拠点とする所の人々と気さくに話したり、普通に公的なものを利用したりと一般民間人と殆ど何も変わらない。
 そのくせ、腐っても組織なので、経済効果や犯罪抑止力はある。
 また、理由は様々だが、組織の幹部達を英雄(ヒーロー)などと尊敬する者もいる。
 今の時代、組織=悪ではなく、もはや組織=正義と言っても過言ではないのだ。

 また、エクセスの住民達は、雷太が魔法使いという事は百も承知なので、大抵のことでは驚かない。
 先程驚いていたのは、3年ぶりだからである。



 「はい、どうぞ。」

 「ありがとうございます〜。」

 「・・・しっかし、この街も変わらないなあ。3年たっても・・・・・・。・・・・・・さて、そろそろ――――――

 ピ――――――――!!

 突然、警笛のような音が鳴り響いた。(雷太が言ったのではない。)

 「ん!?(うるさいなー。)何だ?・・・・・・ってゲゲッ!あれはっ・・・!」

 「そこの組織『ブラックメン』所属者龍 雷太!おとなしくお縄につけ!!」

 そんな古くさいセリフをいい、雷太に向かってくるのは2人組の男だ。

 2人共上は白、下は黒の制服を着て頭に白いキャップを被っており、そのキャップには正面に『IFP』と書かれている。

 「・・・・・・うわ・・・、何てこった、『IFP(帝国正警察)』じゃねえか!!・・・面倒なやつらに見つかっちまった・・・・・・・・・。」

 どうやら、彼らは雷太の敵らしい。

 雷太は周囲を見回した。

 「・・・・・・。(くそ・・・、隠れる場所はねえし、魔法なんて使おうものなら周りの人を巻き込んじまう・・・!)・・・・・・・・・。」

 そう考えている間にも『IFP』の2人組は雷太に迫ってくる。

 「・・・・・・仕方ない・・・逃げろっ!」

 雷太は逃げ出した。



 前述で書いたように確かに昔『世界帝国』は滅びた。
 しかし、完全に滅びたわけではない。
 『世界帝国』が完全に滅びることで世界の治世や法律が乱れ、
 無駄な面倒事が発生することを恐れた各々の組織たちは全ての機関を潰し、『世界帝国』の発言力や行動力のみを奪ったのだ。
 これが史実の『世界帝国崩壊』である。
 そして力を失った帝国は現在『世界政府』と名を変え、現在も在るのである。
 ただ、実際にはある一つの機関だけは今も滅びずに残っているのだ。
 それこそが『IFP(帝国正警察)』である。
 この警察とは名ばかりの軍隊は、力を失った政府が止めるのも聞かず、『組織の完全壊滅』を謳っている。
 その力は強大な組織にも匹敵し(それ故にこの機関のみ滅びなかったのだが。)、今も日々活動し各組織を潰している。
 『組織を潰して世界に平和を!』
 が彼らのスローガンなので、組織たちにとってはやっかいな事この上ない。
 民衆にとっても同じで、英雄と警察、どちらを応援すればいいのか分からない。
 現在では『IFP』組織と同じと思っている人が少なくないのが現状だ。



 ――――― 30分後 ―――――



 「・・・ふうっ。まけたか?まったくしつこいやつらだったなー。」

 ここは、さっきの『メリーストリート』から少し離れた公園だ。結構広くて、今日はたまたま人がいない。

 「しっかし、まさかメリーストリートのど真ん中にでるとは・・・・・・・・・。
 いくら『ワープ』が、『出る場所が不安定である程度しか特定できない』からってそりゃねえだろ・・・。
 ・・・・・・ま、前よりはましか・・・・・・。」

 実は前に1回だけ焼却炉の中に出たことがある。あの時は怖すぎた。

 「さて、そろそろ行かないと・・・・・・。」

 雷太は歩き出した。

 「待てええい!!」

 「!・・・なっ!?」

 雷太が驚いて振り向くと、まいたはずの『IFP』の一人が立っていた。

 激しく肩で息をし、走った勢いでなくしたのか、帽子がない頭は金髪が汗に濡れている。

 「・・・・・・やっ・・・と・・・追いついた・・・・・・ぞ・・・。」

 息がきれぎれだ。見るのが痛い。

 「・・・うわ・・・。だ、大丈夫か・・・?」

 金髪の青年はゆっくりと深呼吸をした。

 「やかましいっ!悪党の情けなんざいるかあっ!」

 「悪党って・・・。今の時勢考えろよ。」

 「うるさいっ!悪は悪だ。それを撲滅するのが我々IFPだ!!・・・・・・さあ、おとなしくお縄につけ!」

 「・・・・・・断る。」

 「やはりそう言うか・・・・・・ならば!」

 IFPの青年は、走りやすくする為に背に掛けてあった刀に手をかける。

 「――――力ずくで成敗するまでだ!」

 そういって刀を抜き放った。日本刀だ。と、いっても血曇りも脂霞みもなく、刃は美しいままである。

 「・・・・・・・・・。」

 雷太は背の大剣にてをかけた。  



 ・・・・・・が、剣を抜くことなく、柄(手で握る部分の事)から手を離した。

 「・・・?・・・抜かないのか?」

 不思議に思ったIFPの青年が聞く。

 「ああ、剣じゃなくて、俺の一番得意な魔法で相手してやる。」

 「・・・・・・そうか。」

 そう言うとIFPの青年は構えた。

 まず左足を前に出して足のスタンスを縦に広げ、刀の柄を両手で持ち、それを頭の右横にもってきた。

 刃は上空を差し、切っ先はしっかりと雷太に向けられている。

 「IFP空軍部三等兵、ラドクリフ・ランバージャック・・・・・・・・・参る!」

 「・・・・・・・・・。(やっとこいつ名前出やがった・・・。名前分からない小説のキャラは読者の敵だぞある意味。)」

 そう思いながらも雷太は構えた。(殆ど、スタンスを広げて腰を落としただけだが。)

 とたんに場の空気が変わる。

 さっきまでのまぬけ面とは違い、今の雷太の表情は真剣そのものだ。

 「・・・・・・・・・行くぜ。」

 ラドクリフの頬を冷や汗が伝う。

 「・・・・・・。(・・・くっ・・・何て威圧感だ・・・。今までとはまるで別人。・・・・・・流石は“強大組織”『ブラックメン』副総長、
  そんじょそこらの悪党とはレベルも戦闘経験も違う・・・。だが、俺も負けるわけにはいかんのだ!正義の為に!!)」

 ラドクリフは刀を構えなおした。日本刀特有の乾いた金属音が響く。

 もはや風の音もしない。

 ――――――静寂。

 ・・・空気が・・・・・・張り詰めていく・・・・・・。



 ダッ!!!



 二人は同時に地を蹴った。



 流石に雷太の方がスピードは速い。

 「くっ・・・。」

 焦ったラドクリフは、走る勢いそのままに唐竹割り(刀を上から垂直に振り下ろす事)を繰り出した。

 その行動を読んでいたのか、雷太は左に移動し間一髪でかわす。

 オレンジ色の髪が1、2本地面にはらりと落ちた。

 「しまっ・・・!!」

 思わずそう叫んだラドクリフの目の前には、開かれた雷太の右手が既に突きつけられている。

 「くらえっ!」

 雷太の右手に魔力が集まる。



 ――――――魔法とは・・・・・・。
 どんな生物でも必ず体内にある様々なエネルギーを、『魔力』と呼ばれる全く別の力に変換し、
 その『魔力』を、使用したい魔法の名を呼ぶことによって更に変換することで、様々な力を使用できるというものである。
 と、言ってもそれが出来る者はそうなかなかいない。
 魔法が使えるものの事を魔法使いと呼ぶのではあるが、魔法使いの数を世界の人口に比べると圧倒的に少ないのが現状である。



 「炎魔法『ヤイバ』!」



 ボゥ!



 雷太の右手から直径30cm程の火の固まりが飛び出し、ラドクリフの顔を直撃した。

 「・・・・・・がっ・・・!!」

 火は小さく、しかももう消えたが、人間の体は頭部に突然熱が加わると意識を失うようになっている。

 ラドクリフは仰向けに倒れた。手を離れた刀が地面で金属的な音を立てる。

 「・・・ふう・・・勝った。」



 雷太はその場を立ち去ろうとした。

 ・・・が、――――――

 「・・・ガハツ・・・ゴホゴホッ・・・・・・。」

 ラドクリフが激しくせきこんだ。

 「・・・ゲッ・・・!こいつもう起きやがった!やばっ!」

 「・・・て、・・・てめえ・・・!・・・手加減しやがったな!?」

 「・・・(ギクッ)・・・。いや・・・してませんよ。」

 雷太は目をそらした。敬語といい、バレバレだ。

 「・・・ちっ・・・・・・お前は世界中の魔法使いの中でも相当な上位に入っている。
  ただの人間の俺を殺す事など、赤子の手を捻りまくるよりも簡単なはずだ。」

 「・・・・・・・・・。(なんつー嫌な例えだ・・・。)」

 「・・・・・・殺せ。・・・・・・悪に適わず滅ぶも、また“正義”だ。」

 ラドクリフは空を一点に見つめたまま、静かに言った。雷太は片眉を上げる。

 「・・・・・・やだね。だいたい俺、人殺した事ねーし。」

 「な・・・!?」

 驚きの余りか、ラドクリフは肘を支えに上体を起こした。

 「お前、それでも“強大組織”の副総長か!?」

 「まあな。・・・それに俺、戦う事自体があまり好きじゃないんだ。
  それとも何か?俺が人を傷つけるのを全くためらわない、戦好きの悪党だとでも?」

 「・・・・・・それが組織ってもんだろう。」

 「・・・・・・・・・。・・・ああ、そうだ。・・・・・・でも、例え人を殺さなくても、世界は奪れると思うぜ。」

 雷太はそう言いながら笑った。裏表のない笑みだ。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 ラドクリフは雷太から目をそらした。

 「・・・さっさと行け。・・・・・・次こそは、捕まえるからな・・・。」

 「・・・・・・・・・ああ。」

 そう言うと、雷太は歩き出した。

 「・・・さて、まずは『あいつ』のところへ行かなきゃな。」



 ・・・・・・ゴオオオオオオオオ・・・・・・。

 ここはエクセスの街の上空2000m。風が強く、普通の鳥や飛行機はここにはいられない。簡単に吹き飛ばされてしまう。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 そこに一人の人物がいる。この大風の中、髪さえ揺らがずに空中に立ち、下を見下ろしている。

 「・・・あれが・・・、龍 雷太・・・。」

 ズボンのポケットに両手を入れ、下の一点を見つめている。オレンジ色の髪だ。

 「・・・・・・・・・・・・『鍵』・・・・・・か・・・。」

 真っ白なホワイトシャツには何故かチューリップ形の名札が付いていて、それにはこう書かれている。

 『ジョー・ディヴィル』

 「・・・・・・全ては始まった。彼が動くことによって。」

 彼は更に続ける。

 「・・・これで全ての者が動く。
  ・・・・・・様々な組織の強者達、
  そして組織外の者達も・・・・・・。」

 ディヴィルは、ため息をつき空を仰いだ。天は雲一つない快晴だ。

 「・・・・・・・・・俺は・・・どうするかな・・・。」

 彼は静かに言った。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。
  移動魔法『空間歪曲転位(ワープ(warp))。』」

 音もなくディヴィルは一瞬で消えた。まるで、元から誰もいなかったようだ。



 この世界では、ただ強さだけがものを言う。
 強き者は先へと進み、弱き者はただ止まるしかない。



 「なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁ!!!」

 人気のない公園で、ラドクリフは自分の頭を触り叫んでいた。

 「や、奴の魔法で・・・・・・炎で髪がアフロになってしまったあぁぁぁあああああぁぁ!!」

 ・・・世にも珍しき金髪アフロ、今ここに誕生せり。

 「いや、何言ってんだコラ!・・・・・・・・・奴め・・・許さん!!」






第2話 “ユウ”


 ――――――前略――――――



 そういうわけで、この世界の地理上での分類方法は次の箇条書きのようになっております。



 ・大陸はそのまま『〜大陸』と呼ぶ。

 ・大陸の中はそれぞれ地理的に区分けされる。

 ・その区分けされた場所は、人口が多い順に『都市』、『街』、『町』、『村』と呼ばれる。

 ・それぞれにはそこを治める長がいる。

 ・基本的に地区同士の交流、人の行き来に全く制限は無い。



 このように、大陸と4つの名によって世界の地理は分けられています。

 また、それぞれには全て名前が付けられており、

 大陸以外の4つには『〜の町』といった具合にそこに合ったイメージが付けられています。



 例:ジパング大陸 陽気な街:エクセス

   ジュッペ〜ル大陸 炎の町:バースハース




 ――――――後略――――――







 『ジョー・ディヴィルの本:地理』の文中より一部抜粋





 雷太は歩いていた。

 ここはエクセスの郊外にある閑静な住宅街だ。

 所々に大きな家が立ち並んでいる。

 土地の価格も高く、いわゆるセレブ量産地域である。

 《量産型セレブ。》

 ・・・・・・・・・いや、なんかそれは違うような気がする・・・。

 「・・・?・・・・・・。(うっさいな・・・。)」

 雷太は歩きながらそう考えた。

 彼はいったいここに何をしに来たのだろうか?

 《・・・・・・空き巣です。》

 「ちゃうわ!あほか!!お前うっさいぞコラ!!」

 《へっへ〜んだ♪》

 彼の名はユウ。今回より起用されたナレーター2号だ。彼の言葉は《》の中で表記される。

 主にキャラいじり、突っ込みを主体とする。

 《よろしくお願いします♪》

 ちなみに余りにウザいため原作の90%の発言はカットされる予定だ。

 《うそ!!?》

 さて、ウザ太郎の紹介でそれてしまった話を戻すとしよう。

 《ウザ太郎!??》



 雷太は歩いていた。

 彼の左側には、5分ほど前からずっと同じ壁が続いている。

 それはまるで刑務所の壁のように高く、淡い灰色だが、上には立派な装飾が付いている。

 実はこれ、ただの壁ではない・・・・・・・・・塀なのだ。

 つまり、一つの家を仕切るためのものなのである。

 《マジかよっ!相当にでかい家だな!?》

 そうです。



 ――――――10分後――――――



 雷太はようやく、その家の門の前へたどり着いた。

 門の横には表札があり、名前が書かれている。

 『氷上=P・クロ』

 その名前の人物が、この異常に大きい家の持ち主らしい。

 《Pはパン○ースのPです。》

 あほか貴様は!!・・・・・・・・・Pは不明である。雷太ですら知らない。

 副総長ですら知らないのだから、彼の本名を知るものは殆どいない。



 本来なら真っ黒な、装飾が施された門が閉まっているべきなのかもしれないが、その門は堂々と開け放たれている。

 “入りたいなら勝手に入って来い。”が、彼の理論らしい。

 「相変わらず無用心だなぁクロは。
  ・・・・・・ってかマジでいつ見てもでかすぎだろこの家・・・。・・・・・・独身のくせに。」

 クロは独身だというどうでもいい情報は置いておいて、確かにこの家は大きすぎる。

 下手な町なら2つほどすっぽり入ってしまうだろう。

 何故意味もなくこのような大きい家に住むのか。

 それも今まで彼の口からは発せられた事がない。

 「あいつ、何だかんだいって彼女いないんだよな・・・・・・。・・・もてるくせに・・・・・・。」

 《・・・小猿とは大違いだ。》

 「・・・なっ・・・!・・・こ・・・・・・俺か!?俺の事なのか!?」

 《         》

 「シカトすんな!!!」

 とにかく、雷太は表札の下にある呼び鈴(インターホン)を鳴らした。

 ビ――――――

 金持ちの家の呼び鈴の音と言えば、だいたいこのようなものだろう。

 ちないに、埋め込み式マイクはあるが、カメラはない。

 しばらくして、マイクから応答があった。

 『は〜〜い?』

 女性の声だ。若い。

 「・・・・・・・・・???!??!?!!!!」

 雷太は瞠目した。



 ・・・・・・・・・。

 《おつかれ―――。》

 ああ、おつかれ。・・・・・・・・・煙草いるか?

 《・・・・・・チョコじゃん・・・・・・。今はいらないや。》

 そうか・・・・・・・・・。

 《・・・・・・・・・。》

 ・・・お前クビ。

 《うそ!!???》

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・冗談だ。

 《そ、そう。(ずいぶん考えたな・・・・・・。マジだったの!?)》






第3話 “運命−恋−”


 運命――――――



 あなたは、運命というものを信じるか?
 この問いに、大抵の人はとっさには答えられない。
 また、答えによっても様々で、信じている人もいれば、信じていない人もいるし。
 中には自分に都合の良い運命だけを肯定したり、運命にすべてを捧げている人もいる。
 正に十人十色。これだけ答えが分かれる質問もまた珍しい。

 私は、運命肯定派である。
 それは何であれ、全ての運命は絡み合い、交差している。
 もちろん交差しているからには、どの道へも行く事ができ、それ次第で未来は変わる。
 私はそう信じたい。

 また、運命にはそれこそ様々な種類がある。
 その中で最もポピュラーなのは『出会い』と『別れ』であろうか。
 人は出会いと別れを繰り返す生き物ではあるが、
 その中にどう考えても運命としか思えないようなものもあるかもしれない。

 しかし一つだけ言っておくが、運命とは自分で切り開くものである。
 つまり、自らの行動によって捻じ曲げたり、全く別のものに変える事が出来る。
 運命に流される者は、ただの弱者である。

 もう一度、

 『運命は変えられる。』

 私はそう信じたい。







 by.ジョー・ディヴィル





 雷太はびびっていた。まさか女性の声がするとは思わなかったらしい。

 「・・・え?あ、いや・・・何でもないです。」

 彼は驚きの余り、ついこう言ってしまった。

 『・・・?そうですか?・・・では、さようなら。』

 「あ、さようなら。」

 雷太は礼儀正しく頭を下げた。・・・・・・辺りには誰もいない。カメラもない。

 《これが電話などの恐ろしいところだ!皆、気をつけよう。》

 通信は切られた。雷太は頭を抱える。

 「・・・・・・・・・。(なぜ女性の声がするんだ?・・・・・・しかも若い・・・。・・・もしや家を・・・。
  ・・・・・・・・・・・・いや待て、俺はこんなバカでかい家をまちがえるほどやばくないぞ・・・・・・。)」

 《お前はやばい!》

 「やかましいわ!・・・・・・。
  (しかし、家は合ってるとして・・・・・・!まてよ、クロもまだ若いよな・・・。って事はもしやクロのやつ、とうとう結・・・。)
  いや、待て俺。そんなのはバナナが世界を滅ぼすよりもありえねーぜ。」

 雷太はもっと考えた。

 「・・・・・・。(まてよ・・・。もしやさっきの声は幻聴では・・・?
  つまりクロの声聴くのあまりにも久しぶりなんで高く聞こえたとか・・・・・・。
  ・・・そうだ、きっとそうだ!・・・・・・何しろ、3年も洞窟にいたもんな、俺!)」

 《・・・・・・・・・・・・。(憐れみの目。)》

 「ってかナレーター様言ってたじゃん!?前回、“クロは独身だというどうでもいい情報は置いておいて”ってさー!!」

 知るか。

 「・・・くっ・・・・・・・・・。
  考えた結果、やっぱりクロに会って直接聞いた方が早いな。(もう1回呼び鈴鳴らすの嫌だし。)
  ・・・・・・よし、勝手に入ろう。」

 雷太は、元から開け放たれている門から中に入った。



 門から中へ入った雷太は、改めて庭を見回した。

 「うわぁ・・・。何この土地の無駄使い・・・。」

 巨大な庭には門から家まで延びる長い一本道があり、それ以外の殆どの場所は短く、丁寧に刈り込まれた黄緑色の若芝が生えている。

 また、庭のところどころには、噴水やプールなどのいわゆる『セレブ装備』がたくさんある。

 配置もよく、景観を崩していないので、これほど美しい庭もめったには見られないだろう。

 「・・・くそ・・・どんだけ金かけてんだこの家は・・・。・・・俺もこんな広い家が欲しいぜ・・・・・・。」

 雷太は歩き出した。



 ―――――――10分後―――――――



 雷太は玄関に着いた。

 「・・・やっと着いた。・・・・・・さて。」

 彼は玄関のドアを引いた。



 ガッ・・・・・・



 「ありゃ?」

 開かない。鍵が閉まっている。

 「???・・・クロって玄関に鍵をかけるようなやつだったっけ?・・・・・・ますますおかしい・・・。
  ・・・・・・あっ!っていうかこの状況じゃあもう1回呼び鈴押さなきゃならねーじゃねーか!!
  ・・・・・・・・・。(本当に女の人だったらどうしよう・・・・・・。・・・シクシク・・・・・・。)」

 雷太は指先を震わせながら、玄関の呼び鈴を押した。

 ビ――――――

 ・・・・・・タタタタタタタタ

 人が玄関へ走ってきた。



 「は〜〜い。」

 やはり、女性の声だ。

 「イヤ、ソンナワケナイゼ、オレ。

  今日は多分耳が腐ってるんだ。クロの家に女性がいるなんてありえないんだ。そうだろ?そうだろ!?俺!!?

 雷太は意味もなく自分をマインドコントロールまでし始めた。あほかこいつは。

 「・・・あっ!・・・すいません、ちょっと待って下さい。・・・・・・スカートが引っかかちゃって・・・。」

 「(ガーン!!!・・・僕の耳、腐ってませんでした―――!!)
  そうかい、クロは結婚したのかい。おめでとうクロ。ちくしょうめ。」

 《雷太は錯乱しています。エサを与えないで下さい。》

 「・・・・・・・・・ま、まあとにかく、どんな女性か確かめ――――――



 ガチャリ



 玄関のドアが開いた。

 「すいません。ところで、どなた――――――

 彼女の声はそこで途切れた。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 きれいな青髪をツインテールにし、雷太よりやや白みがある肌、
 それに青いワンピースと白いエプロンを着ている女の子である。

 彼らは初対面のはずだ。



 二人は向き合ったまま動かない。

 「・・・・・・。(・・・・・・・・・・・・。)」

 お互いを、少し驚いたような目で見つめ合っている。



 それはまるで・・・・・・時が止まったように――――――

 ――――――運命の出会いのように。



 ここはある場所の書斎だ。

 そこにはある人物が、窓際にある椅子に座り、煙草を吸っている。

 彼が肘を置いている机には、書類が山積みだ。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 彼は煙草を灰皿に押し付け、新たな煙草に火をつけた。

 「・・・・・・・・・・・・来たか・・・。」

 静かにつぶやくと、彼は立ち上がった。

 机に置いてあった日本刀二本をつかむ。

 「・・・・・・久し振りだ。出迎えてやろう。」

 彼はゆっくりと歩き出した。

 部屋の電気が消える。






第4話 “氷雨=シースフィールド”


 ――――――前略――――――



 さて、この世界が世界、時代が時代である。

 この本を読んでいるものの中には、『賞金稼ぎ』または『組織所属者』になりたいと思っているものがいるだろう。

 もしくは、一人で『世界の統轄者(レイン・ルーラー)』になるという者もいるかもしれない。

 悪い事は言わない、止めておいた方がいい。

 この世界には余りにも多数の強者が存在する。

 夢屋=ジャスティス、右左 ぴょん太郎、冬馬 帯刀、アルタガイア、
 斯波 蔵之助、流水 武彦、白峰 虎介、氷室 秋水、アンセスタ、そして氷鬼ティノス。

 組織に属していないものでもこのように多くの強者がいるのだ。

 しかも彼らはほんの一部の者である。

 悪い事は言わない。

 己が最強と堂々と言える者でなければ、どちらの道も進めは出来ない。




 ――――――後略――――――







 『ジョー・ディヴィルの本:高位賞金首羅列の書』の文中より一部抜粋





 今にも玄関のドアが開かれようとしている・・・・・・。



 ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・



 「・・・・・・?(・・・何だ?・・・心臓の鼓動が激しい・・・。・・・・・・いったい・・・?)」



 ドアが開かれ、目の前に青髪の女性が現れた。



 とたんに不思議な感覚に襲われる。
 強い光を急に直視したような、それでいて相手ははっきりと見えている。
 周りの音は全く聞こえない。
 まるで、世界に彼らだけしかいなくなったようだ・・・・・・。
 一秒が無限にも感じられる。



 ただ、2人だけがいる。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 玄関のドアノブに手をかけた・・・・・・。



 トクン・・・トクン・・・トクン・・・



 「・・・・・・?(・・・何かしら?・・・心臓が高鳴っている・・・。・・・・・・いったい・・・?)」



 ドアが開くと、目の前にオレンジ色の髪の男性が現れた。



 とたんに不思議な感覚に襲われる。
 強い光を急に直視したような、それでいて相手ははっきりと見えている。
 周りの音は全く聞こえない。
 まるで、世界に彼らだけしかいなくなったようだ・・・・・・。
 一秒が無限にも感じられる。



 ただ、2人だけがいる。



 二人は見つめ合っている。

 「・・・・・・。(・・・・・・かわいい・・・。)」

 「・・・・・・。(・・・・・・この人・・・。)」

 両の頬に紅が差す。



 ふいに世界に音が戻った。

 周りは何もなかったように、小鳥がさえずっている。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・!」

 彼女は、なにか突然気が付いたらしく、胸の前で両手の平をパンッと合わせた。

 「あっ!もしかして、龍 雷太さんですか?」

 「・・・!えっ!?・・・あ、・・・そ、そうだけど?」

 「やっぱり・・・・・・。はじめまして。私、ここで家政婦をやらせていただいている『氷雨』と申します。」

 「あ・・・はじめまして。(・・・・・・家政婦さん!?)」

 雷太は予想外の展開に驚いている。

 「・・・・・・家政婦って・・・メイドさんの事?」

 「はい。」

 氷雨は全く気にする様子もなく答え、更に続けた。

 「部屋でクロさんがお待ちです。どうぞお入り下さい。」



 雷太は氷雨の後に続いて、クロの家の中を歩いていた。

 「ねえ、氷雨さんはどのくらい前からここで働いているの?」

 雷太の緊張はだいぶほぐれたようだ。

 歩みを止めずに氷雨は答える。

 「・・・もう少しでちょうど3年になります。」

 「へぇ。じゃあ俺が修業に行ったすぐ後に来たんだ?」

 「はい、そうです。」

 雷太は少し考えた。

 「・・・とうとうクロはメイドさんを雇ったのか・・・。何人ぐらいいるのかな?この家に。」

 「?わたし1人ですよ。」

 氷雨は不思議そうに答えた。

 「・・・・・・!!!?ええっ!!このバカでかい家を!?・・・・・・あの、お仕事の内容は・・・?」

 「掃除に選択、料理にお庭の手入れ・・・この家の殆ど全ての事をやらせていただいてます。」

 「ま・・・マジで?(そんな事人間に可能なのか???)」

 雷太が驚くのも無理はない。この大きすぎる家には、軽く考えても100人ほどの人材が必要なはずだ。
 しかも、氷雨の仕事は完璧らしく、廊下には塵一つ無いし、庭も美しい。

 「・・・・・・・・・。(すげえな・・・。ってかやっぱ人間どころか魔族でも無理だろ・・・・・・。
  ・・・・・・となると・・・・・・やっぱ『能力』かな・・・・・・・?)」

 彼らの間に暫しの沈黙が舞い降りた。その間も雷太は考えている。

 「・・・。(それにしても氷雨さんに会った時の不思議な感覚はなんだったんだろう・・・。
  ・・・分からないな・・・。・・・・・・あ!でも昔同じような感覚に襲われた事があったような・・・。
  ・・・・・・あれは確か・・・・・・、『秋水さん』の時だっけ・・・・・・?
  ・・・そういえばさっきから気になっているんだけど・・・・・・・・・・・・。)」

 ・・・・・・と、雷太が考えまくって読者に迷惑かけている間にも彼らは結構な距離を歩いている。

 雷太は一瞬考えを放棄して聞いた。

 「・・・ひ、氷雨さん・・・。・・・いったいどこに向かってるの?・・・結構歩いてるけど。」

 氷雨は明るく答える。

 「書斎No.3です。大丈夫ですよ、あと30分くらいで着きますから。」

 「・・・さ、30分・・・・・・。」

 雷太はげんなりした。 約30分後、彼らはついに書斎No.3にたどり着いた。

 《・・・・・・ほんとに30分かかってる・・・。》

 「・・・・・・・・・・・・。」

 雷太はさっきから黙ったままだ。いつになく顔は真面目である。

 氷雨は雷太に向き直った。

 「ここが書斎No.3です。・・・どうぞお入り下さい。」

 「・・・うん、ありがとう・・・。」

 しかし、雷太は一度扉の取っ手に手をかけるも、それを離した。

 「?・・・どうしたんですか?」

 氷雨が不思議そうに聞く。

 雷太は後ろを向き、氷雨を正面に見た。

 「・・・・・・氷雨さん。・・・・・・俺達、前に会った事ないかな?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 しばらくの間沈黙が続く。

 やがて、氷雨はにっこりと笑った。

 「・・・・・・いいえ。」

 「ありませんよ。・・・・・・一度も。」

 「そ、そう・・・。・・・そうだよね。あはは、何言ってるんだろ俺。ごめん変な事言って。」

 「いえいえ、では、私はここで失礼しますね。」

 氷雨は一礼して去っていった。それを雷太は黙って見つめる。

 「・・・・・・・・・。」

 《・・・・・・縄文式なんぱか・・・。》

 「いや、うっさいなー!なんぱちゃうわ!!」

 雷太は見えなかった。・・・・・・いや、見せてもらえなかった。
 足早に去っていく氷雨の表情を、そしてユウに突っ込むおかげで見逃した廊下上の雫を。
 雷太は見る事ができなかった。



 やがて、氷雨の姿が見えなくなると、雷太はまた書斎No.3の扉の取っ手に手をかけた。

 きれいな装飾が施された、白い両開きの扉だ。

 彼は扉を開いた。



 氷雨は廊下を歩いていた。

 その目には涙があふれ、頬を伝い落ち、床を濡らしている。

 「・・・・・・・・・・・・アーク・・・。」

 彼女は何かをつぶやいた。

 人の名前のようだ。

 しかし、それは誰にも聞こえなかった。






第5話 “氷上=P・クロ”


 待った。

 本当だ。

 待ちくたびれちまった。

 何年待ったかもう覚えてやしない。

 それぐらい待った。

 全く、

 俺が待つのは嫌いだって事を知っているくせに。

 ・・・・・・まあいい。

 時は来た。

 戦が始まる。

 行くとするか。







 by.氷上=P・クロ





 部屋の中は真っ暗だった。

 「あれ?」

 それも何も見えないほどだ。

 「・・・おかしいなぁ。氷雨さんはこの部屋にクロがいるって言ってたのに・・・。」

 雷太は部屋の中に入った。

 部屋の中を歩きながら、電気のスイッチを探す。

 「え〜っと、電気電気。」



 スッ・・・



 突然、雷太の喉(のど)もとの目と鼻の先に、一本の刀が現れた。

 刃は彼に向けられている。

 「・・・!うおぉっ!!?」

 雷太は慌てて後ろにスウェー(上体反らし)し、避けた。

 「ほう、よく避けたな。」

 冷静な声とともに、部屋の電気が付けられた。

 そこには刀を水平にかざした人物がいた。



 彼の名は『氷上=P・クロ』。
 年齢不詳だが見た目には20代前半の黒髪の男で、
 白いホワイトシャツと黒いスラックスを着、黒いネクタイを締めている。
 常に冷静沈着な剣の達人で、“強大組織”『ブラックメン』の総長だ。



 「ク、クロ!危ねえじゃねえか!」

 雷太が必死に抗議する――――――

 「そうか?」

 ――――――も、軽く流された。

 「まあ、これくらい避けられないとこの世界では生きていけないからな。」

 「ぐ・・・・・・。」

 雷太はぐうの音も出ない。事実、クロの言う事は間違いないからだ。



 クロは刀を鞘に納めた。

 2本ある日本刀のうち、1本は白塗り、もう1本は黒塗りの鞘だ。

 そしてクロは椅子に座った。

 彼の机には、色々な書類がきれいに高く積まれている。

 「・・・で、どうだったこの3年は?少しは強くなったか?・・・・・・『第一級魔導士』。」

 雷太は明るく答える。

 「ああ、ここ3年修業しまくったからな。『零魔導士』の座は近いぜ!!」

 「そうか。」

 「ああ、でも流石に3年の間で色々な事があったぜ。」

 「・・・まあ待て、それは酒の肴に聞こう。」

 クロは微笑して言った。

 「それにお前は、3年の感想を言うために、真っ先にここに来たわけじゃないだろ?」

 雷太も笑った。

 「やっぱばれてたか、流石クロ。
  ・・・実はそうなんだ。俺が自分の家より先にここに来たのは――――――

 「ここ3年の世界情勢を知りたいから。」

 クロと雷太は同時に言った。

 「ああ、そうだ。」

 クロは一瞬目を伏せた。

 「・・・ここ3年の世界情勢か・・・。・・・まあ確かに何も無い事はないんだが・・・・・・。

  ・・・まず言える事は、我が組織『ブラックメン』はここ3年間全く活動していない。」

 「・・・・・・・・・・・・は?」



 ・・・・・・・・・・・・。

 《おつかれー。》

 ・・・ああ、お疲れ。・・・・・・酒飲むか?

 《・・・・・・チューハイじゃん・・・。今はいらないや。》

 ・・・そうか・・・・・・。

 《・・・・・・ところでさ・・・。》

 ・・・・・・何だ・・・・・?

 《氷雨さんとクロさんの名前かぶってね?》

 ・・・・・・・・・(パキーン♪)・・・・・・。

 《いくらクロさんの原作の名前がやばいからってあれは・・・・・・。・・・!うわ!!・・・ぎゃあああああ!!!》

 メキッ・・・グシャグシャグシャ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・皆殿、来週もよろしくお願い致します・・・・・・。

 《――√レv――――――――――》






第6話 “停滞期(アクムレーション)”


 ・・・・・・停滞期。



 それは突然訪れた。



 全ての組織が動かない。



 動けば、動いた組織から消される。



 彼らは沈黙している。



 地に伏せた虎のように。



 少しでも隙ができれば、



 目にも止まらず牙をむく。







 by.ジョー・ディヴィル





 「組織が活動してない!?・・・・・・どういうことだよ?」

 雷太は驚きの余り聞いた。3年前、彼が旅立つときには絶好調活動中だった。

 その様な事をいきなり言われても、信じる事は出来ない。

 クロは落ち着いて言った。

 「・・・正確に言うとな、今現在『停滞期』なんだ。」

 「・・・『停滞期?』」

 雷太は聞いた。そんな言葉聞いたことも無い。

 「・・・まあ聞け。・・・今から3年前、・・・お前が修業に行った後だな。
  『ある組織』が世界中の弱小組織を徹底的に潰しまくった。
  故に規模の大きい組織ばかりが残り、正に一触即発の事態になってしまった・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・。」

 「・・・そんな中で考えもなしに動くわけにもいかないだろう。」

 「なんで?」

 「この緊張状態だと、動いたものから先に一斉攻撃を受ける。
  流石に複数の組織から攻撃されると事だ。
  また、それがないにしてもどうしても大きい組織同士がぶつかるとそれ相応の被害が生じる。
  仕方ないのかもしれないが、これから世界を狙うに当たって、それは出来るだけ避けたい。
  こんなところか。結局動けないんだ。問題が多すぎてな。」

 「・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は黙ったままだ。

 「・・・どうした?」

 「・・・・・・クロらしくねえな・・・。」

 雷太はつぶやいた。聞いたクロが眉を上げる。

 「確かにそりゃあ、その状況じゃあ動けないのは分かるけど・・・・・・。
  動けないから動かないなんて、クロらしくねえよ。」

 クロは微笑した。

 「・・・・・・・・・・・・まったく・・・、お前は『昔』からちっとも変わってないな・・・。」

 「・・・・・・・・・。」

 「・・・安心しろ。ちゃんと策は練っているんだ。
  もしこのままこんな下らない状況が続けば・・・・・・、無理やりぶち壊してやるまでだ。」

 クロは微笑っている。凄みのある微笑だ。

 雷太は気圧されるとともに安心した。クロがそこまで言うなら、問題は無いに違いない。

 「そ、そうか。それならいいんだ。」



 「まあ、ここ3年の世界情勢といっても今話せるのはこれぐらいしかないな。
  あと何か分からない事があったら、いつでもいいから適当に質問すれば良い。」

 「あ、それなら1つだけ今聞きたいことがあるんだけど。」

 「何だ?」

 「懸賞金どうなった!?額変わったか?」

 雷太は身を乗り出して聞いた。どうやらそうとう気になるらしい。

 ちなみに、この世界の大抵の組織所属者、そして悪人には懸賞金が掛けられている。

 《要するに、そいつぶっ殺すか捕まえればもらえる金って事です。》

 「・・・ああ、それなら既にプリントアウトしておいた。まあ、見ておけ。」

 クロは机の中から一枚の紙を取り出した。

 《A4です。》

 どうでもいい。

 雷太はその場で見た。



 ・氷上=P・クロ・・・・・・・・・4000万R

 ・ヴァン・V・A・・・・・・・・・・・4000万R



 「クロとヴァンさんは変わってないな・・・。」

 取り合えず今のところはヴァンの事は流してほしい。

 《・・・・・・・・・・・・。(適当だな。)》



 ・龍 雷太・・・・・・・・・・・・・300万R



 「ぐはっ・・・!お、俺も変わってねえ・・・。」

 「当たり前だろ。お前全く何もやってねえじゃねえか。」

 クロが呆れたように見る。

 ちなみに一応書いておくが、この世界の通貨単位は『R(ルク)』である。
 1R=0.9998円だ。

 雷太は最後の一人を見た。



 ・乾 新太郎・・・・・・・・・・・1250万R



 「なにいいいぃぃぃぃ!!し、新太郎が1250万〜〜〜!??」

 《乾 新太郎は龍 雷太の親友である。》

 「うるせえっ!あんな奴親友じゃねえっ!
  ・・・・・・なぜだクロっ!?あいつ俺と同じ300万だったじゃん!?」

 クロは冷静に答える。

 「ああ、それなら仕方ないだろう。あいつは個人で色々やっていたからな。」

 「・・・・・・個人???」



 「組織単位では駄目でも個人活動は大丈夫なんだよ。
  特にあいつははりきっていたからな。・・・・・・俺も少しはやってたんだぜ。」

 「・・・くっ・・・あの野朗・・・。・・・・・・!・・・クロも?」

 「ああ、・・・・・・千人ぐらい斬ったな。」

 「おいっ!!」

 《・・・・・・3年で千人・・・・・・・・・。》

 「1年333人斬りペースかよ!?
  一日一斬・・・・・・。・・・いくらなんでもやりすぎだろ!?」

 「心配すんな。殆ど果たし状を受けただけだ。」

 「こ、断ればいいじゃん・・・。」

 「俺はそういうのは受ける主義だ。
  ・・・さて、もう懸賞金関係の話はいいだろ。・・・・・・他に何か聞きたい事はあるか?」

 雷太は考えた。

 「いや、・・・もうないかな。」

 「そうか・・・なら氷雨を呼ぶから応接間No.7に行け。
  ヴァンと新太郎がいるはずだ。」

 「えっ!?来てるの?」

 「ああ、呼んでおいた。」

 「へぇ〜〜。ヴァンさんと・・・・・・しんたろうくんねえ・・・・・・。(ふふふ・・・。)」

 雷太はすごく悪い顔になった。

 《旦那、元からですぜ。》

 「やかましいっ!」

 クロは無視して机の端上にあるボタンを押した。



 ブー



 《3分後、ラーメン完成!》 注:意味不明。

 3分後、氷雨が来た。

 「呼びました?」

 雷太は思わず目をそらした。

 「・・・・・・。(やっぱりかわいい・・・。)」

 「ああ、こいつを応接間No.7まで連れて行ってくれ。」

 「はい、分かりました。」

 「?・・・クロは?」

 雷太が聞いた。

 「俺もすぐ行く。先に行っておくといい。」

 「じゃあ、行きましょうか雷太さん。」

 「!あっ、は、はいっ!」

 雷太の顔が紅潮する。

 それをクロは見逃さなかった。

 「・・・・・・。(・・・・・・ほう・・・。)」

 やがて2人は部屋を出て行った。



 クロは短くなった煙草を灰皿に押しつけ、新しい煙草に火をつけた。

 彼はヘビースモーカーだ。

 彼の家では、一部屋に3台は超高性能空気清浄機が置いてある。

 彼は、椅子にもたれて煙草を深々と吸った。

 「・・・・・・しかし・・・・・・あいつの言ってた『好きな人』っていうのが氷雨とはな・・・。
  ・・・・・・・・・・・・これも、宿命ってやつか・・・・・・。」

 彼は、机の上で足を組み、左手で煙草を持っている。

 机上の書類が汚れようが崩れようが気にしない。

 そのようなものはすぐに直せる。

 二度と直せないものは幾度と無く失ってきた。

 「・・・・・・安心しろよ雷太・・・。・・・俺も・・・いい加減、待つのには飽きたんでな・・・。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それによ・・・・・・。
  もういいだろ?・・・ちゃんと、『約束』通りお前の時代まで、・・・・・・待っててやったんだぜ・・・。」






第7話 “再会−ヴァン&新太郎−”


 くるくるくるくる。



 それは回る。



 それは歯車。



 何が原因で動いているのか?



 誰が動かしているのか。



 それは誰にも分からない。



 分かるはずもない。



 何故ならそれは、



 存在すらしていない、『無』の一部なんだから。



 故に彼、ジョー・ディヴィルでさえ知らない。



 彼は既に一度、巻き込まれたというのに。



 それは歯車。破滅への運命の。



 それは回る。



 くるくるくるくる。







 by.ユウ





 氷雨と雷太は、応接間No.7に着いた。

 「ここです。もうお二人とも来ていらっしゃいますよ。」

 「へぇ〜。(・・・キラーン・・・ふっふっふ・・・。)」

 氷雨はドアを開けた。

 応接間No.7は広い。少なくとも50畳分の広さはあるだろう。

 その中のソファーの1つに、2人の男が座っている。

 2人とも金髪だが、背丈が全く違う。

 その2人の内、背丈の低い方が、雷太達に気付いたらしく――――――

 「・・・・・・・・・!!!」

 ――――――驚きの余り立ち上がった。

 雷太も足を止める。

 2人は驚きの顔で見つめ合っている。

 彼らは同時に言った。

 「し・・・んたろう・・・?」

 「ら・・・いた・・・?」

 親友の3年ぶりの再会である。

 2人は同時に駆け出した。

 「しんたろ〜〜〜う。
  人体魔法『力上乗せ(パワー・ドープ(power dope))』。」

 一瞬、雷太の右腕が赤く光った。

 「ら〜いた〜〜。」

 新太郎は右腕に力をこめ、拳を硬く握る。



 2人は、今にも抱き合うように、ゆっくりとまるでメルヘンチックに近づいた。

 「・・・・・・死ねコラァッ!!!!」



 ドグシャッ



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 お互いの顔に、きれいにクロスカウンターが入った。



 「う・・・腕を上げたな・・・新太郎・・・。」

 「・・・お前こそな・・・・・・雷太・・・。」

 2人はうつぶせにドサッと倒れた。

 「・・・でもいつか殺す。」

 2人は同時に言った。



 彼の名は『乾 新太郎』。
 雷太と同じ19歳で、生まれた時からずっと一緒にいる幼なじみだ。
 身長170.5cmの武闘家で、結構強いらしく、
 雷太と同じ組織『ブラックメン』の副総長の座についている。
 どう見ても雷太と彼は親友なのだが、当の本人達は、人前ではそれを否定している。



 ふいに部屋のドアが開いた。

 「・・・・・・早速やりやがったか・・・。」

 入ってきたのはクロだ。

 「・・・あ、クロ!」

 雷太は飛び起きた。口から血が容赦なく出ている。

 「クロさん・・・・・・早かったですね。」

 こちらは同じように口を紅く染めた新太郎だ。

 「ああ、・・・・・・床の血は拭いておけよお前ら。・・・・・・氷雨は手伝わなくていいからな。」

 「はい。」

 3人は同時に言った。

 雷太と新太郎は立ち上がった。ある程度はもう回復したようだ。

 「ら〜いたっ。」

 ふいに、雷太の後ろから声がした。
 彼の後ろには先ほどの背の高い男が立っている。

 「!・・・ああ、ヴァンさんも久し振ぶふぉあっ!!?」

 雷太が後ろを向いた途端に、背の高い男に激しく抱きつかれた。

 「雷ぷ〜、会いたかったよ〜!」

 「・・・・・・ぶはっ!・・・ヴァンさんも相変わらずで・・・・・・?・・・。
  ・・・!?・・・ギャ――!痛い痛いヴァンさん!きつく抱きしめすぎ〜!!」

 「ずっと待たせた罰〜〜。」



 彼の名は『ヴァン・V・A』。
 金髪の、見た目は20代の男で、左腕全体に何故か包帯を巻いている。
 身長196cm、クロの友人の武闘家で新太郎の師でもあり、相当に強い。
 ブラックメンには属していないが、普通に組織単位の行動に参加してくれている。
 ・・・ただ・・・・・・彼の心は未だに少年らしく、年齢に似合わない行動をとることが多い。
 つい今の行動然りである。



 「・・・あいたたた・・・。やっと解かれた・・・。」

 新太郎が雷太に駆け寄った。

 「大丈夫か?300万の雷太。」

 「ああ、なんとか・・・・・・・・・はい?」

 「本当か?300万Rの雷太。」

 「・・・なっ・・・・・・・・・!」

 「どうした?俺の4分の一以下の雷太君。(にやにや)」

 「ぐっ・・・・・・こ、この野朗・・・・・・・・・!」

 雷太は拳を握った。

 それを見て、クロが冷静に言う。

 「人の家で喧嘩するな。」

 「・・・くっ・・・・・・。(後で殺す!!!)」

 「はい♪(受けて立つぞコラ!!)」

 クロは新しい煙草に火をつけた。

 「・・・まあ、せっかく帰って来たんだ、今日はゆっくりしていけ。夕飯ぐらい用意してやる。」

 「ああ、サンキュー。」

 その後、雷太達は大いに食べ、飲み、騒ぎ、楽しみまくった。



 その帰り道。

 「・・・うう〜。・・・気持ち悪い〜〜・・・。」

 雷太は新太郎に訴えかけるように言った。

 「まったく・・・飲みすぎなんだよ。酒弱えくせによー。」

 「・・・う・・・うるせ〜・・・・・・。」

 新太郎は雷太に肩を貸して歩いている。

 「・・・・・・!!う・・・。・・・すまん、ちょっと待ってくれ・・・・・・・・・やばい・・・。」

 「まったく・・・。」

 新太郎は笑った。

 「・・・いつまでも待ってやるよ・・・。・・・なんせこちとら、3年も待ってたんだぜ。」

 「・・・・・・悪いな。」

 「いいってことよ・・・。その代わり、お前今度付き合えよ。
  3年でエクセスも結構変わったんだぜ。」

 「ああ・・・・・・。2人で行くか!」

 「おう!」



 夜が、ふけていく・・・。



 2人は笑っていた。

 「・・・・・・・・・!!!!う!!・・・。」

 「おい、どうしたしゃがみこんで?・・・・・・!っておいっ!止めろよこんな道中で・・・。
  ・・・・・・!!!うわっ!こっち向くな!!・・・・・・ギャ――――――!!!」



  ・・・・・・夜が・・・ふけていく・・・。






第8話 “訪問−キング−”


 雷太が帰ってきてから3日後の朝8時57分、彼はまだ寝ていた。

 ちなみに雷太はなんとマイホーム持ちである。

 しかも、キャッシュ払いなのでローンさえ残っていない。

 《生意気だな―――!》



 やがて時刻は9時になった。

 ・・・・・・カチッ・・・ペペペペペペペペペペペペペペペペペペペ!

 雷太の目覚まし時計が激しく鳴った。

 「・・・う、う〜ん・・・。」

 雷太がベッドの中でもぞもぞ動きながら唸る。

 時計は更に鳴り続けている。

 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!!!

 雷太は力強く目覚ましのボタンを叩いた。

 ペペペペペペペペペペペペペグエツ!!

 同時にグチャッという効果音がしたが、いつもの事なので雷太は気にしていない。

 《・・・・・・なんつー趣味悪い目覚まし時計だ・・・。》

 雷太は起き上がった。被っていた星柄の帽子が頭からずり落ちる。

 「・・・・・・あ゙〜〜ねむっ・・・。・・・・・・今まで洞窟の中で適当に寝起きしてたからなぁ・・・。
  ・・・・・・朝9時に起きるのがこんなにつらいとは・・・・・・。」

 と、ぶつくさ言いながらも雷太は着替え、一旦部屋を出た。

 そして洗顔をすませ部屋に戻ってくると、生まれてから19年間ずっと愛用している、
 赤色で非常に長いはちまきを外すことなく締めなおし、背に大剣『シルヴァトゥース』を差した。
 この銀色で両刃の剣はクロから貰ったもので、有名な刀匠のものらしく、少々重いが斬れ味は抜群だ。

 「さ〜て、朝飯でも作るか・・・・・・・・・・・・ってか飯の作り方忘れてた・・・。
  ・・・・・・なんせ3年もまともなもの食ってなかったからな〜。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、ピザを頼もう。」

 雷太は携帯電話でピザ屋に電話をかけた。





 「・・・・・・あ、すいませんドミノピザさんですか。
  バナナピザのLサイズ2つお願いします。
  ん?・・・お飲み物?・・・え〜っと、・・・じゃあバナナミルクセーキで。あ、あとバナナアイス付けて下さい。
  名前は龍 雷太。住所は作者がめんどいって言うので言いません。・・・じゃ、お願いします。」

 《めんどいって・・・・・・お前・・・・・・。》



 30分後、玄関のチャイムが鳴った。

 《・・・・・・なんで届くんだよ・・・。》

 「は〜い。」

 玄関を開けるとそこには、ピザの箱を片手に制服を着た青年が立っていた。

 「こんにちは、ドミノピザです。ご注文の品4点お持ちしました。4000Rになります。」

 「あ、はい4000Rね。・・・・・・はい。」

 「ありがとうございました。・・・・・・あと・・・あの・・・・・・。」

 青年は少し言いにくそうに口ごもった。

 「ん?何?」

 「あの・・・『ブラックメン』副総長の龍 雷太さんですよね!?サイン下さい!!」

 「え?・・・ああサインね、いいよ。(俺も有名になったもんだ・・・。(感涙))」

 「・・・・・・。(・・・う、うわ〜、この人泣きながらサイン書いてる・・・・・・。)」

 「・・・(サラサラ)・・・え〜っと名前は・・・キング君ね。・・・かっこいい名前だね〜。」

 彼は驚愕した。

 「ええっ!なんで僕の名前分かったんですか!?・・・もしかして・・・・・・魔法?」

 「いや・・・・・・その・・・ネームプレート・・・。」

 「あ・・・そうですか。(な〜んだ。)・・・・・・それじゃあ、ありがとうございました。」

 キングは礼をして去っていった。



 ・・・少しして・・・。



 雷太は食卓を整えた。

 木製のテーブルの上には、熱々のピザなど、先程キングが持ってきたものが並んでいる。

 「・・・さて、じゃあ食うか!
  ・・・・・・いただきま〜――――――



 ♪ピーンポーン♪



 突然、玄関のチャイムが鳴った。

 「!?はがっ!?・・・熱っ!」

 動きを急に止めたピザを持つ雷太の手に、ピザからはみ出たチーズが付いた。そりゃ熱い。

 《あ〜、これよくあるんだよね〜。》

 「・・・ったく、誰だよ?・・・・・・は〜い。」

 雷太はピザを置いて、玄関へと歩いて行った。



 ・・・ブロロロロロロロロロロロ・・・。

 ここはエクセスの車専用道路。そこを、一台のバイクが車を追い越しながら進んでいる。

 「・・・・・・久し振りだなあ・・・・・・。」  ピザ屋のバイクに乗りながらキングはつぶやいた。

 「何も変わってないな・・・・・・。」

 彼の目から流れ出た雫が風圧に負け、空中へ美しく飛散する。

 「・・・・・・また会おう、龍 雷太。」

 彼はスピードを上げた。






第9話 “訪問−氷雨−”


 「は〜い?」

 雷太が玄関を開けると――――――

 「おはようございます。雷太さん。」

 ――――――そこには氷雨が立っていた。

 「!!??氷雨さん!?お、おはようございます!
  ・・・・・・・・・っていうか・・・・・・どうしたんです?こんな朝っぱらから?」

 「あのですね・・・・・・。」



 ――――――同日、AM7時10分――――――

 氷雨はクロの部屋にいた。

 「・・・ごはんですか?雷太さんに?」

 「ああ。」

 椅子に座り、机の上の書類を書きながらクロは言った。

 「なんでです?」

 「・・・・・・あいつは3年も洞窟の中で生活していた。恐らく、ろくなものを食っていなかっただろう。
  故にめしの作り方さえも忘れている。
  と、いうわけで今日だけでもいいから差し入れしてやってくれないか。」

 そう言っている間にもペンは書類の上を走っていて、左手に持った煙草から出た煙は、瞬時に超高性能空気清浄機に吸い込まれていく。

 ちなみに彼が書いているのは『組織再始動』へ向けての書類だ。
 ただ、敵を倒すだけでは世界を奪れるわけがない。
 出来るだけ世界と世間の理解を示し、世界と世間の公認の下で戦闘し『統べる者』とならなければ意味は無いのだ。
 3年の組織大戦停滞で動けないものを動けるようにする。それを彼はしようとしている。
 ペンは剣よりも強しだ。

 「わかりました。・・・お優しいんですねクロさん。」

 「そうでもないと思うがな。」

 クロは平然と答えた。

 「・・・・・・ま、あいつとは長い付き合いなんでな。」



 ――――――現在――――――

 「・・・と、いうわけです。」

 「へ〜、ありがとうございます!うわ〜うれしいな〜。
  ほんとにめしの作り方忘れて困ってたんですよ〜。」

 「喜んでいただけて此方も嬉しいです。
  ・・・・・・よければいい家政婦さんを紹介しましょうか?」

 雷太は少し考えた。

 「・・・・・・そうですね・・・。・・・じゃあ、お願いします。」

 《なんつーセレブな会話だ。読者への嫌味か?》





 「わかりました。・・・・・・あと、あの、最後に聞きたい事があるんですけど・・・・・・。」

 「?なんですか?」

 雷太が不思議そうに聞いた。

 「・・・そんなに長いお付き合いなんですか?なんかいいですよね、そういうの。」

 氷雨はにっこり笑って言った。

 「・・・・・・(かわいい・・・。)・・・。
  ・・・!・・・ああ、それなんですけどね〜。ちょっとおかしいんですよ・・・・・・。
  俺、15の時初めてクロに会ったからまだ4年なんです。・・・・・・・・・これって長いですかね?」

 「・・・確かに・・・・・・短いですね・・・。」

 「ですよね・・・。・・・・・・クロのやつ働きすぎでボケたのかな?」

 2人は首をかしげた。

 「・・・・・・・・・ま、まあ、それは後でクロさんに聞いておきますね。
  ・・・・・・では、私は仕事がありますので失礼します。」

 「あ、ありがとうございました。」



 雷太は再び食卓を整えた。

 「さて、食うか、氷雨さんの手料理。」

 雷太は重箱をカパッと開けた。

 「うわ〜マジきれいに盛り付けてある。食べるのもったいないくらいだ・・・。
  ・・・・・・・・・よし、ピザは後で食おう。たぶん腐らんだろうな。」



 30分後、雷太は完食した。

 「・・・う、うまかった・・・。(感涙)・・・・・・我が人生に悔い無し。」



 30分後、雷太はテーブルを後にした。

 《30分も感動に浸ってたの!??》

 その通り。

 雷太は自分の部屋に戻ると、いつもの大きめでラフな上着を羽織り、大剣『シルヴァトゥース』を背に差し直した。

 「・・・・・・さてと、行くかっ!」

 どうやら、今日は行くところがあるらしい。

 彼は自分の家を後にした。



 雷太は『メリーストリート』を歩いていた。

 ちなみになぜかサングラスをしている。

 ・・・・・・本人は変装をしているつもりらしいが・・・・・・。

 「あ、雷太さんだ。」

 通行人の一人が、うっかり口に出した。

 とたんに周りの通行人が彼に向かう。

 「・・・・・・!(馬鹿野朗!!あれでも本人は変装してるつもりなんだよ!)」

 「・・・・・・。(構わずに置いてやれよ。・・・・・・ってかあれ変装か?)」

 「・・・・・・。(す、すまん・・・。・・・・・・サングラスかけただけだよな・・・。)」

 「・・・・・・!(とりあえず、騙されている振りしようぜ!!)」



 ――――――バレバレだった。

 《・・・ハハハ。みんな、やさしいなあ。(寒哀泣)》



 やがて雷太は、ある店の前で立ち止まった。

 「・・・・・・ここだ・・・。」

 いつになく雷太は緊張している。

 雷太は、生唾を飲み込んだ。

 《汚なっ!!》

 「やかましい!!・・・・・・行くぜっ!」

 雷太は店の中へと入った。

 《果たしてここはいったいどこなのかー!?・・・・・・続く!!》



 氷雨がクロの部屋に入ってきた。ちなみにクロはまだ書類を書いていて、部屋のあちこちに書類の山がある。

 「・・・・・・あの、クロさん・・・。」

 「・・・・・・・・・どうした?」

 「・・・ちょっと聞きたい事があるんですが・・・・・・。」

 「なんだ?」

 クロは顔を上げた。流石にペンは止まらないが、目はしっかりと氷雨に向けられている。

 「・・・少し・・・聞きにくいんですけど・・・。」

 「・・・・・・なんでも言ってみろ。答えてやるから。」

 氷雨は顔を赤らめた。

 「・・・・・・あの、クロさん・・・・・・ボケたんですか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 《ええ――――!?そっちを聞くの――――――!??》






第10話 “訪問−ラドクリフ−”


 《果たしてここはいったい・・・・・・!》

 ・・・・・・・・・ここは・・・。

 《・・・・・・・・・・・・。(ドキドキ。)》

 ・・・・・・『某超有名ハンバーガーショップ』だ。

 《ズコ―――ッ!(転倒)》

 ・・・・・・古いな。

 《いや、『某超有名ハンバーガーショップ』かよ!》

 そうです。ちなみに『某超有名ハンバーガーショップ』とは、ハンバーガーを主体としたファーストフード店で、全世界に支店がある有名な店だ。

 《いや、いらないからそんな説明。みんな分かるから!!》

 黙れ若輩者。

 《ぎゃあああああああ!!!!》

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 《・・・・・・つかなにこれ・・・?・・・こんな『今回の一枚』みたいな始まり方良いのか?・・・・・・また読者さんに怒られる・・・・・・。》

 俺は作者じゃないから知らん。

 《――――√レ―――――――――――》

 ちなみに今から始まりますので。





 雷太は店の中に入った。

 「こんちわ〜っす!」

 店員が一斉に雷太を見た。ちなみに偶然客はいない。

 「!雷太君じゃないか!」

 さえない風貌の、眼鏡をかけた人物が声をかけた。

 「あ、どうも石田さん。お久し振りです。」



 彼の名は『石田 優一』(いしだ ゆういち)。
 40歳の男で髪は暗い青。
 知る人ぞ知る、『某超有名ハンバーガーショップ エクセス支店』の店長だ。
 ・・・・・・・・・武器は眼鏡。



 「約束通り、帰ってきました。」

 「うん。・・・・・・それで、どうする?また働く?」

 「はい、またよろしくお願いします!」

 新事実が発覚した。なんと雷太は昔、ここで働いていたのだ。・・・・・・しかもバイトじゃなくて正店員。

 《なんで――――!?組織者じゃん!金持ちだろ!?》

 ・・・・・・それは永遠の謎だ。

 「・・・・・・そういうと思って――――――

 石田は奥から何かを取ってきた。

 ――――――ちゃんと取っておいたよ。」

 雷太に、きれいにアイロンがかけられた制服(エプロンっぽいの+帽子)が渡された。
 胸の所には『龍 雷太』と糸で刺繍がしてある。3年前に使っていた物だ。

 「あ、ありがとうございます!(感動)」



 雷太は店員休憩室へやって来た。勤務は30分後からだ。

 雷太がぼ〜・・・っとしていると、突然誰かが入ってきた。

 「雷太、久し振り。」

 入って来たのは、青髪に赤い瞳を持つ青年だ。

 「!!『瞬』じゃねえかっ!久しぶりだな!」

 「ああ、3年振りか・・・。」



 彼の名は『由ヶ原 瞬』(ゆいがはら しゅん)。
 雷太と同じぐらいの背の男で、年は18歳。
 髪は落ち着いた青なのだが、まるでその色を反映するように彼は冷静沈着だ。
 雷太と殆ど同期に入ったので、そのせいもあってか仲の良い友人である。



 2人はテーブル越しに向かい合って椅子に座った。

 「・・・なにか変わった事があったか?」

 雷太が聞いた。

 「・・・・・・特に無いな・・・。強いて言えば『優子ちゃん』がここで働き始めたぐらいだ。」

 「へ〜。あの優子ちゃんが?」



 ちなみに『優子ちゃん』というのは、石田 優一の娘で本名『石田 優子』。16歳。
 ウェーブのかかった髪をツインテールにしてリボンで留めているかわいい女の子だ。



 「ああ、今ではこの店の看板娘になってるぜ。・・・・・・あ、でも今日は来てないな、休みだ。」

 「へ〜。・・・ときに『燃』(ねん)はどうした?姿が見えねえけど・・・・・・。」

 『燃』とは、瞬の双子の弟だ。

 「・・・あいつか・・・。はぁ・・・。・・・・・・また遅刻だ。」

 瞬はため息をつきながら言った。

 「・・・マジかよ。3年前も毎日してなかったか?」

 「・・・ああ。今日もちゃんと起こしたんだがな・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・!・・・・・・噂をしたら来たらしいな。」

 「・・・オオオオオオオオオオオオ!!」

 叫び声が近づいて来たかと思うと、休憩室のドアがバン!と激しく開いた。

 「たは――――!!遅れちまったぜぇい!!!」

 入って来たのは赤髪に青い瞳を持つ青年だ。



 彼の名は『由ヶ原 燃』(ゆいがはら ねん)。
 瞬とは双子の兄弟なのだが、これ程似ていない双子も珍しい。
 見た目には髪の色以外全く同じなのだが、性格がまるっきり正反対なのだ。
 一方は冷静、一方は熱血。見ているだけでもこんがらがってくる。



 「遅えよ。何時だと思ってんだ。」

 瞬が問いただした。

 燃は時計を見る。

 「・・・11時45分だ!!」

 「んな事言ってんじゃねえよ。まったく・・・毎回毎回遅れやがって・・・。」

 「うるせえな!!瞬はいちいち時間にうるせえんだよ!!」

 「なんだと・・・。誰が毎日起こしてやってると思ってるんだ。」

 「ハッ!!頼んでねえよ!!」

 「・・・・・・闘るのか?」

 「ああ!!闘ってやるよ!!!」

 二人は同時に立ち上がった。勢い余った椅子が真後ろに激しく倒れる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。(うわ〜・・・・・・。)」

 雷太は座ったまま二人を交互に見ている。

 正に一触即発だ。

 ・・・とはいえ、さすがに店内では暴れられない。・・・・・・よって・・・口喧嘩だ!

 最初に口を開いたのは瞬だ。

 「いちいちしゃべるたびに燃えてるんじゃねえよ。周りが迷惑すんだろうが。」

 「あ゙!!瞬だって冷静すぎて周りに迷惑かけてんじゃねーか!!」

 「燃よりはましだ。燃だって接客の時、客に引かれてるじゃねえか。」

 「はぁ!!?瞬も十分俺以上に客に引かれてんじゃねーか!!」

 「・・・・・・・・・なんだと。」

 「なんだよ!!!」

 二人は睨み合っている。どうでもいいがお前ら読者の印象最悪だと思うぞ。いきなり喧嘩するし。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・!!!」

 雷太はといえば、もう無視して静かにバナナミルクセーキを飲んでいる。どうやらこいつらの喧嘩はいつものことらしい。
 それでも二人は睨み合ったまま動かない。

 《瞬てめえなんだかんだ言ってクロとキャラ被ってんだよ!
  それに燃もいちいち!マークがわざとらしいんだよ!》

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・!!・・・・・・!」

 二人は目をそらした。落ち込みながら静かに椅子を戻し座った。

 Yuu Win!



 「ったく・・・・・・、せっかく雷太も帰って来たってのに・・・・・・。」

 瞬は片手で頭を抱えながら言った。

 「・・・ん!!?雷太・・・!!?・・・・・・・・・!!!雷太ああああああああぁぁぁ!!!!」

 「!!はい――――!!?」

 雷太は驚いて返事をした。

 「いたのかお前!!!?」

 「いたよ!!」

 「燃気付いてなかったのか・・・・・・最初から雷太いたぜ。」

 「なに!!そんな前から!!?お、俺としたことが久し振りの再開に何たる醜態を!!!読者の評価もがた落ちだぜ!!!」

 燃は頭を抱えた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 瞬と雷太は違う思いで頭を抱えた。



 そろそろ勤務時間が迫ってきた。

 瞬が口を開く。

 「・・・・・・・・・さて、そろそろ時間だ。行くか。」

 「ああ!」

 「おお!!燃えるぜ!!!」

 「いや、燃えるな燃えるな。」

 二人が同時に突っ込む。



 やがて、雷太たちが定位置に着くとすぐに客が来た。

 「いらっしゃいま――――――

 「らっしゃい!!!」

 「・・・!!???」

 客は驚いて足を止めた。無理も無いだろう。こんな元気な挨拶は期待していない。

 そこを瞬が応対する。

 「どうも馬鹿がご迷惑をかけました。申し訳ありません。
  お客様こちらでお召し上がりですか?・・・・・・・・・でしたらこちらの席へどうぞ。」

 「・・・・・・・・・???・・・・・・?」

 常連はともかく、初めて来た客は最初絶対これに戸惑う。
 全く同じ顔に、それでいて正反対の性格に応対されるのだ。



 少しして、また客がやってきた。今日は客の入りがまばらなようだ。

 いつものように雷太が最初に声をかける。

 「いらっしゃいませ!・・・・・・っていいっ!??」

 入って来たのは何と・・・。

 「・・・?・・・・・・!!貴様!こんな所にいたのか!!」

 客は突然勢いよく背の日本刀を抜き放った。

 「うわっ!またかよっ!?」

 雷太も慌てて背のシルヴァトゥースを抜く。

 そう、彼(客)は・・・・・・・・・ラドクリフ・ランバージャックだ。



 ちなみに、この世界は武器の携帯に関する規定が全く無い。
 犯罪行為は許されないが、携帯や正当防衛は全く構わない。
 現に雷太は仕事中にもかかわらずいつも通りシルヴァトゥースを背に差しているし、瞬と燃も両刃の剣を腰に差している。
 石田 優一も・・・・・・・・・眼鏡を装着中だ。



 「・・・まあ落ち着けよ、2人共。」

 右手を挙げて瞬が制止した。
 とはいえ、左手は油断なく腰の剣の柄にかかっている。

 「あんた、見たところIFPらしいがここで戦っちゃまずくないか?
  ・・・・・・・・・それに、『IFP規約第32条』に違反すると思うが?」

 「・・・・・・・・・・・・、“IFPに属する者はその敵対する者が悪行を行っていない限り、捕縛または危害を加えてはならない。”か・・・・・・。

  ・・・・・・そうだな、規則は守る為にあるものだ。・・・命拾いしたな。」

 ラドクリフは背の鞘に刀を納めた。

 《つまり、現行犯以外逮捕、戦闘禁止って事さね。》

 その通り、甘いようだが、敵(組織)の強さと世論を考えるとこれが最善なのだ。

 「・・・悪いな。」

 雷太は瞬に礼を言った。

 「いいよ。流石に店の中で暴れられちゃ困るんでな。
  ・・・・・・その代わり、お前が接客しろよ。」

 「えっ!?何で!?」

 「知り合いなんだろ?少なくとも。」

 「う・・・・・・、わかったよ。」

 ラドクリフは既に席に着いている。

 雷太は複雑な気分で聞いた。

 「あ、あの・・・・・・ご注文は?」

 「・・・・・・コーヒー2つ。」

 「2つ?まだ誰か来るのか?」

 「・・・ついでだ。お前も付き合え。」

 「!ええ〜〜〜!!」



 2人は向かい合って座った。
 それぞれの前には、湯気を立てるコーヒーが置かれている。

 「・・・で、話ってなんだよ。」

 雷太が切り出した。

 「・・・この前の事だ。」

 コーヒーに砂糖を1本入れながら、ラドクリフは言った。

 「この前?」

 「ああ。・・・・・・まったく、ろくでもない魔法をかましてくれやがって・・・。」

 「ろくでもないって・・・・・・。仕方ないだろ、あの場合は。」

 「・・・とはいえな・・・・・・。お前、俺が金髪アフロになってたのを知っていただろ?」

 ラドクリフは聞きながらも砂糖をもう一本入れた。

 「・・・・・・う・・・。」

 雷太はたじろぐ。確かに、あれは見事なアフロだった。

 「あれから大変だったんだぞ。」

 「・・・・・・愚痴かよ。」

 「ああそうだ。仲間からは笑われるし、直すのに金がかかったしな・・・。
  ・・・・・・・・・中でも最悪だったのが・・・。」

 「・・・最悪が?なんだ?彼女にでも振られたか?」

 ラドクリフは砂糖をもう一本入れた。

 「いや、・・・・・・上(かみ)さんが無反応だった事だ。」

 「・・・上さん?・・・・・・!!!お前、結婚してんのか!!?」

 「?・・・そうだが・・・。・・・・・・それがどうした?」

 彼は砂糖をもう2本追加した。

 「いや、お前何歳だよ?」

 「・・・・・・?・・・19だ。」

 砂糖を2本追加しながら、彼は言った。

 「俺とタメかよっ!!早婚だな!」

 「・・・・・・いや、俺の出身の村では結婚も離婚も完全に自由だからな・・・。そう早婚でもないぞ。」

 「・・・・・・・・・・・・。あ、あの・・・、結婚何年目ですか?」

 更に砂糖を2本入れたラドクリフに雷太が聞いた。

 「・・・・・・。式を挙げたのは去年なんだが・・・・・・。
  生まれてからずっと一緒にいたからな・・・。・・・・・・正確には19年だ。」

 「・・・そ、そうか・・・・・・・・・。」

 「・・・これが写真だ。燃やすなよ。」

 「・・・燃やすかよ。」

 砂糖をまた2本入れながら、ラドクリフは写真を取り出した。
 写真には、ラドクリフと、女性が一人写っている。



 「へぇ〜、かわいいじゃん。」

 雷太から、軽薄な言葉が飛び出した。

 「まあな。俺が言うのもなんだが、よくできた女だ。
  ただ、さっきも言った通り、落ち着きすぎているのが玉に瑕なんだがな・・・・・・。」

 ラドクリフは砂糖をもう3本追加した。

 「へぇ〜〜。・・・・・・・・・・・・ん?」

 雷太は写真の隅に何か書かれてあるのに気が付いた。女性の筆跡だ。

 「・・・ん?・・・『霜刃▽雲母』?何じゃこりゃ?」

 ちなみに『▽』はハートマークだ。

 「ああ、『雲母』(きらら)っていうのは上さんの名前だ。
  本名、『結城=キティ=雲母』(ゆうき=キティ=きらら)。・・・・・・だから『雲母』だ。」

 「ふ〜ん・・・。じゃあ、この『霜刃』ってのは?」

 「?俺に決まっているだろう。」

 「えっ!?だってお前、『ラドクリフ・ランバージャック』って名前じゃ・・・?」

 砂糖を3本入れながら彼は答える。

 「ああ、俺の本名は『ラドクリフ=霜刃=ランバージャック』だ。そういうわけだ。」

 「へぇ〜。なるほどな。」

 「大体から、初対面でしかも自分が認めていない相手に本名を教えるわけが無いだろう。」

 「・・・・・・・・・ってことは、今は認めているってことだな?」

 二人は相手をしかと見つめている。

 「そうだな・・・。そう思ってもいい。
  次出会った時が、お前が俺に捕まるときだ。」

 「・・・・・・・・・・・・。」

 空気がぴりぴりする。・・・・・・が、二人は笑っている。
 ここで争ってもお互いに何のメリットも無いことは先程確認済みだ。
 やがて二人は目をそらした。

 「・・・・・・・・・そういえば、今日は非番か?制服着てねーけど。」

 最初に口を開いたのはまたも雷太だ。

 ラドクリフが砂糖を2本追加しながら答える。

 「いや、制服とキャップは廃止になったんだ。」

 「?何でだ?」

 「・・・・・・下部から制服がダサいと訴えがあったんだ・・・。・・・俺はそうは思わないんだが・・・。
  ・・・それを上が認めちまってな・・・・・・。・・・ま、そんなわけで今はこれだ。」

 彼は横の椅子に掛けてある、白い羽織り式の上着を指し示した。

 「これを上から羽織さえすればIFPとしての活動が自由に出来る。
  隠密行動もやりやすいし、便利にはなったわけだな・・・」

 「ふ〜ん・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 少しの間、沈黙が訪れた。

 その間に、ラドクリフは砂糖を22本入れた。

 「・・・あ・・・あの・・・・・・。」

 雷太はたまらず沈黙を破った。

 「・・・・・・・・・何だ?」

 「・・・さっきから一体何本砂糖入れりゃ気が済むんだ?・・・・・・ってか入れすぎだろ!」

 「悪いか?俺は甘党なんだ。」

 「いや、もはやそのレベルじゃねーよ。・・・・・・限度があるぞ・・・。」

 《だいたいからどうやってそんなに溶けたんだよ。物理的にそんなに溶けないだろ。》

 ラドクリフはユウを無視した。

 「おい、燃。」

 「!?何だ!!」

 呼ばれて、燃がテーブルへやってきた。・・・・・・・・・超速ダッシュで。
 ほこりは立たないが、客がびっくりするので止めろ。燃えすぎ。

 「・・・いつものやつを頼む。」

 「んん!!合点承知!!」

 燃はダッシュで奥へと入っていった。

 不思議に思った雷太は聞く。

 「・・・?いつもの?(ってかこいつ常連だったのか!?)」



 少したって、燃は砂糖のs袋5つと漏斗(じょうご)を持ってきた。

 雷太は引くとともに驚愕する。

 「・・・!!?・・・お、おい・・・まさか・・・・・・。」

 ラドクリフは砂糖をコーヒーに全部入れた。

 《・・・なんで溶けるんだよ・・・。・・・物理法則を無視してるぞ・・・・・・。》

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は引くばかりだ。もしこの小説で『(汗)』という言葉が使用可能だったならば4つは付いているだろう。

 今や、かつてコーヒーと呼ばれていた物はスライムのようにドロドロと流動し、すっかり冷めているのに物理法則を越えたせいかボコボコと泡立っている。

 《魔法で作る毒薬よりも恐いな。ある意味。》

 「・・・・・・・・・・・・ああ。」

 ラドクリフは無視してコーヒー?を少しかじった。

 《かじった!?》

 「・・・・・・まだ苦いな・・・。」

 「ええ〜〜〜〜〜!!!」

 間違いなくこいつは糖尿病の一等賞だ。少なくても近い内に確実になる『糖尿病エリートコース』に違いない。

 雷太は更に引いた。



 ♪正義とは、己の信念を突き進む事である!!♪



 「!うわっ!!な、何だ?」

 ラドクリフの携帯電話が突然鳴った。

 「携帯かよ!・・・・・・なんて嫌な着声なんだ・・・・・・。」

 「IFPのホームページで無料配信中だ。他にもバリエーションがある。」

 「いらねえよ。・・・・・・ってか早く取れ!妙な声がエンドレスに鳴り続けてるぞ!!」

 「・・・・・・・・・まったく・・・。
  ・・・はい、ラドクリフですが・・・。・・・・・・何ですか、閣下?」

 「・・・・・・。(閣下?IFPのお偉いさんか?)」

 「・・・済みません・・・・・・ポンさん。・・・で、どうしたんですか?」

 「・・・・・・!?(ポンさん!!?)」

 「・・・え?・・・・・・はぁ・・・。・・・?・・・・・・・・・・・・・・・!!」

 ラドクリフは急いで時計を見た。

 「!!す、済みません!すぐ行きます!」

 彼は右手でコートをつかみ、慌てて席を立った。

 「?どうした?」

 雷太が聞く。

 「・・・閣下との約束を忘れていた。悪いが去らせてもらう。」

 「あ、ああ・・・いいけど・・・・・・。」

 ラドクリフはカップに大半残っていたかつてコーヒーだったものを一気に飲み干した。

 「!ぐはぁっ!!・・・・・・に、苦い!」

 「いやいやいや、ありえないから。」

 「ぐ・・・・・・。さ、去らば・・・。」

 ふらふらよろけながら、彼は出て行った。

 一連の様子を見ていた瞬が聞く。

 「・・・結局何しに来たんだ、あいつは?」

 雷太は答えた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・さあ・・・・・・。」



 「おい雷太、そのラドクリフのカップ片しといてくれ。」

 奥から瞬が言った。

 「ああ、わかった。」

 雷太はカップを手に取った。
 ・・・・・・が、それは見るも無残にぐずぐずと音を立て崩れ落ちた。・・・・・・溶けている。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ・・・・・・突然、カップの残骸から薄紫色の煙が出始めた。

 「!?・・・・・・?ぐあ・・・な、なんか・・・苦し・・・・・・。」

 「おい!!それ、毒ガスじゃねえのか!!?」

 燃が激しく指摘した。

 「!?!!ギャ――――――!!」

 火災警報器が鳴る。






第11話 “訪問−新太郎−”


 同日午後9時、雷太は自分の家にいた。

 既にシャワーを浴び寝巻き姿だ。

 「まったく・・・。今日はひどい目にあったぜ・・・。」

 ひどいめというのは、ラドクリフの毒ガス事件の事だ。

 やがて雷太は自分の部屋を出た。

 「・・・・・・飯食お。」

 雷太は階段を下りる。



 ♪ピーンポーン♪



 突然、玄関のチャイムが鳴った。

 「ん?誰だ?」



 ♪ピンポン♪



 ちなみに彼の家のチャイムは押すと♪ピン♪、離すと♪ポン♪と鳴る仕組みになっている。

 「はいはい。今出ますよ・・・・・・。」



 ♪ピンポンピンポンピピピピンポ―――ンピピピピピピピピピピピピピピピピ(一秒)ンポン
   ピ―――――――――――――――――――――――――――・・・・・・ ・ ・ ・                  ポン♪



 「!だ〜〜〜っ!くそっ!」

 雷太は勢いよく玄関を開けた。

 「うるせえよっ!!」

 しかし、言われた本人は何処吹く風で、詫びるどころか笑っている。

 「よう、雷太。」

 「新太郎か・・・。何の用だ?」

 「何の用だ?はないだろ。・・・・・・まあ入れろよ。これ、結構重いんだ。」

 新太郎は背に大きな荷物を背負っている。

 「・・・わかった・・・、入れよ。」



 2人は大きな部屋で向かい合ってソファーに座った。

 まず雷太が口を開いた。

 「・・・で、何の用だこんな夜中に?ってか何だそれ?」

 「ふふふ、この袋の中にはお前が泣いて喜ぶ物が入っているのだ。(にやにや)」

 「・・・・・・・・・は?」

 新太郎はにやけながら続ける。自らじらしている割には、早く見せたくてたまらないらしい。

 「この中の者を1つでも見た時、お前は狂喜し、俺に敬語を使うようになるだろう。(にやにや)」

 「・・・・・・・・・・・・はぁ?(あほかこいつは?)」

 「ふふふふふふ。(にやにや)」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。(いかれたか?魔法でもかましたら正気に戻るのか?)」

 「さて、・・・・・・。」

 新太郎は袋の中をごそごそと探った。

 「・・・・・・ん〜、まずはこんなもんかな・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(いっそのこと大魔法で頭ふっ飛ばした方が地球環境にも良いか?)」

 「・・・ジャーン!どうだ!」

 新太郎は袋の中から真っ白なタオルを取り出した。
 真っ白な生地に、ワンポイントでこう文字が入っている。



 『C・O・S』



 かなりシンプルなデザインだ。

 「いや、どうだ!って・・・こんなタオル・・・・・・・・・・・・ん?
  ・・・・・・んん!?・・・・・・・・・こ、これは!!・・・お、おい新太郎!」

 新太郎はにやりと笑った。

 「気付いたか?」

 「こ、これ・・・・・・、『CLAIM OF SOUL』じゃねえか!!」



 『CLAIM OF SOUL』(クライン・オブ・ソウル)
 それは、世界で最も人気のあるバンドの名だ。
 その人気ぶりは計り知れなく、結成してから今までちょうど100年間、衰える事は無い。
 ここでは詳しくは書かないが、数々の記録的な現象を引き起こしている。
 今書いたとおり結成より100年であり、しかもその間メンバーは一人も変わっていないため、
 当然、『新々 進之真』(しんしんしんのしん)という妙な名前の男をリーダーとする計6人の男女は全員魔族である。
 余りにも偉大な記録を持ち、人々の生活の一部となっているバンドなので、その存在感は一組織にも匹敵し、
 新々 進之真の発言力に至っては、『魔道の支配者』ジョー・ディヴィル並みとも言われている。

 ちなみに、雷太は物心がついたときから彼らが好きで、多くのライブに行き、CDはもちろん、グッズも相当持っている。
 知識も半端ではない。・・・・・・つまり・・・。

 《マニアだ!》

 そう、むしろ超マニアといっても過言ではない。・・・・・・新太郎も同様だ。



 「そうだ!・・・・・・それに!」

 新太郎は袋を一気にひっくり返した。『CLAIM OF SOUL』のグッズがごろごろ出てくる。

 「し、新太郎さ――――――ん!!」

 「ん?どうしたのかね雷太君。」

 「こ、これはまさか・・・。」

 「ふふふ、そうだ、お前がいなかった3年の間に発売された『C・O・S』のグッズだ!
  あと、少しだが俺達が生まれる前に発売されたやつも入手した。」

 「ま、まさか・・・これを・・・・・・。」

 「ああ、君にやるよ雷太君!2個ずつ買ったからな。」

 「し、新太郎さ―――――――――ん!!ありがとうございます!!」

 「いやいや、いいのだよ。」

 新太郎の予言は当たったようだ。

 雷太は手が震えている。
 元より超マニアに取って3年もの隔絶は非常に痛い。
 苦虫を噛み潰す思いであきらめたものが今、目の前に並んでいる事が信じられないらしい。

 新太郎はまだ笑っている。どうやら彼の感動攻撃はまだ尽きていないらしい。

 「・・・・・・しかしな雷太、お前は一つ見逃しているようだ。」

 「なに!?・・・まさか、まだあるのか!!?」

 「・・・・・・・・・これだ!」

 新太郎は自分のポケットから2枚の紙を取り出した。

 「!!!!こ、これは!!」

 どうやら、『C・O・S』のLIVEチケットらしい。

 「・・・・・・!!・・・!・・・!!!・ ・ ・ ・・・・・・・・・………!!!!・・  ・    ・・       ・    。」

 雷太は後ろにふら〜っと倒れかかった。

 「お、おい!」

 新太郎は慌てて雷太をつかみ起こした。

 「・・・・・・!はっ!・・・危ねえ、嬉し死にするところだった・・・ってか取れたのかLIVEチケット!?」

 「ああ、1週間後のLIVEだ!場所はエクセス会館(ホール)。
  ・・・・・・1ヶ月並んだんだぜ。」

 「一人で!?」

 《突っ込むところはそこか。》

 どうやら、1ヶ月でも長いほうではないらしい。ちなみに売ろうとすると異常な高値で売れる。

 「ああ、でもそのおかげで・・・・・・見ろ!座席番号A−1と2だ。」

 「マジかよっ!!?すげえなお前っ!」

 「ふふっ、まあね☆・・・・・・まあとにかく、1週間後最前列で応援しまくろうぜ!!」

 「おう!!」

 二人は拳を握り、意気投合した。



 1週間後、最前列で熱狂的に騒ぐ二人を中継TVで見て、クロが頭を抱えるのはまた別の話である。



 新太郎は帰っていき、雷太もようやく熱が冷めたらしい。

 機を待ったように、雷太の腹がなった。

 「さて、飯食うか。」

 雷太はふと立ち止まった。

 「・・・・・・!!ゲッ!しまった!今日買い物してねえよ!」

 雷太は考えた。

 「・・・コンビニ今から行くのめんどいし・・・・・・・・・。
  ・・・あっ、そうだ!確かピザがあったはずだ!」

 確かに、9話で冷蔵庫に入れたはずだ。

 雷太は冷蔵庫を開けた。

 「いや〜、取っておいてよかっ――――――」



 ×(ブブ〜)・・・・・・ピザは腐っていた。(RPG風。)



 ・   ・   ・  。



 「・・・・・・・・・なぜに!!!?」






第12話 “最重要任務”


 『――――――と、いうわけで午後1時に来てくれ。』

 「わかった。・・・・・・飯は?」

 『ああ、それなら家で食べるといい。氷雨に2人分頼む。』

 「わかった。(・・・・・・氷雨さんの手料理・・・。(温泉))・・・・・・じゃあ、1時な。」



 「・・・と、いう事だ氷雨。」

 携帯を切ってから、クロはたまたま同じ部屋にいた氷雨に言った。

 「はい。1時に昼食ですね?」

 「・・・いや、・・・1時半にしておいてくれ。」

 「え?今電話で雷太さんには1時と・・・。」

 「・・・・・・それはそうなんだが・・・。」

 クロは煙草を吸いながら顔をしかめた。どうやら、雷太には何かあるらしい。

 「まあ、あいつが来れば分かる・・・・・・。」

 「?・・・・・・はい。・・・?」



 「・・・めんどくさいなあ・・・・・・。」

 携帯を切ってから、雷太は愚痴を言った。

 「・・・・・・っていうか何で1時なんだよ・・・?今午前10時だぞ。(汗)・・・・・・朝飯は食ったけどよ・・・。」



 ・・・・・・そして午後1時15分、雷太は道を走っていた。

 「やっ・・・・・・べえええええぇぇぇぇ!!既に遅刻だ〜〜!!・・・・・・・・・こ、殺される!!」

 午後1時25分、雷太はやっとクロの家の門前に着いた。

 予想通り、氷雨が待っている。

 「お早うございます、雷太さん。・・・・・・・・・大丈夫ですか?(汗)」

 流石の雷太も、少々息が切れたようだ。

 「・・・だ・・・・・・大丈夫・・・・・・。・・・ごめん氷雨さん、待たせちゃって・・・。」

 「いえ、いいんです。殆ど待ってませんから。(クロさんが言ってたのはこういうことね。)」

 「・・・・・・・・・・・・は?」



 雷太は氷雨の後に続いて、クロの家の中を歩いていた。

 「・・・・・・。(俺がクロの家で食うとなると・・・・・・やっぱりあそこか・・・?)」

 雷太が想像しているのは、いつも皆で食事する時に使用する部屋だ。

 彼がそう考えていると、だんだんその部屋が見えてきた。

 扉に付いている、部屋の名前が記してあるプレートには、こう記されている。

 『食堂No.3』

 「・・・!(あっ!やっぱりここ――――――

 ・・・・・・が、氷雨は部屋の前で突然右に曲がった。

 「えっ!?ここじゃないの!?」

 氷雨が少し目を丸くして振り返る。

 「はい。今日はいつものここじゃないそうなんです。
  ・・・・・・なんでも今日は、『食堂No.10』だそうですよ。」



 ・・・聞いた事がある・・・。
 確か、クロが大事な話を、―――食事と同時に―――する時に使用する部屋のはずだ。
 そこでは、一切の私情抜きに重要な話がされる。
 それは、1つ1つが組織の命運に関わるといわれ、その内容を他人に話す事は当然禁じられる。
 ヴァンさんが入るのは何回か見たことがあるが、俺や新太郎は入ったことが無い。



 「・・・・・・。(・・・もしかしたら、・・・・・・重要な『任務』かもしれない・・・。)」

 雷太は気を引き締めた。



 やがて、ある扉の前にたどり着いた。

 「ここです。すぐに昼食をお持ちしますので、先に入っていて下さい。」

 そう言って氷雨は去っていった。

 雷太は扉を見た。真っ黒で重量感のある扉だ。

 彼は扉を開いた。

 今度はちゃんと電気がついている。

 少し広めの部屋の真ん中にテーブルが置いてあり、それを差し向かいにして椅子が二つ置いてある。

 そのうちの1つに、クロが座っていた。

 「・・・・・・よく来たな、雷太。」

 彼は立ち上がらずに言った。



 「まあ座れ。」

 クロは片手でもう一方の椅子を指し示しながら、新しい煙草に火を点けた。

 遅刻の事はお咎め無しだ。雰囲気によると、大事の前の小事らしい。

 「ああ。」

 雷太は座った。

 「・・・・・・すぐに氷雨が飯を持ってくる。話はその後だ。」

 雷太は考えた。

 「・・・・・・・・・。(なんか今日のクロはいつもと雰囲気違うな・・・。
  ・・・なんていうか、いつもより・・・・・・さらに暗い。・・・・・・そんなに重要な話なのか?)」

 彼は更に気を引き締めた。

 しばらくの静寂が訪れる。クロは落ち着いて煙草を吸っているいるが、雷太はどうも落ち着かない。

 と、突然クロが吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると同時に、氷雨が部屋の扉を開け料理を運んできた。

 流石の彼も、食事をする時には吸わないようだ。

 今日の昼食は洋風らしい。

 自家製の、焼きたてのロールパン2つにきれいなレモンイエローのオムレツ、
 瑞々しいグリーンサラダ、そしてケチャップやマーガリンなどの様々な調味料。
 更にクロにはブラックコーヒー、雷太にはバナナミルクセーキが添えてある。

 「・・・・・・。(うまそうだな。さすが氷雨さん!)」

 料理を並べると氷雨は、一礼して下がっていった。

 クロは椅子を引く。

 「相変わらず美味そうだ・・・。・・・・・・さて・・・。」

 「・・・!!(来たか!?)!」

 雷太はどんな重要な話でも驚かないように、―――もちろん組織解雇などは別だが―――心の中で身構えた。

 「まあ食え、味は勝手に保障する。」

 「・・・!えっ!?」

 雷太は驚いて声を上げた。心の構えのベクトルが違う。
 まさか話より先に食べるとは思っていなかったようだ。

 それをクロは見逃さない。

 「・・・・・・。・・・俺は飯を食いながら話す為にここを指定したんだ。
  ・・・・・・でなければここは使わん。他の部屋で事足りる。
  ・・・まあ食え、流石に出来立ての方が美味い。」

 「あ、ああ・・・・・・。」

 雷太はフォークとナイフを手に取った。・・・・・・だが、一向に手が進まない。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロは微笑した。

 「さっきから緊張しているな、見え見えだ。・・・・・・が、まあそう焦るな。
  確かに重要な用件だが、お前になら安心して任せられる。・・・・・・そう、俺は思っているんだがな、副総長。」

 雷太は、クロの微笑とその言葉に安心した。これまでの緊張が嘘のように解ける。

 「・・・・・・ああ!」

 彼らは料理に手をつけた。



 雷太はきれいな色のオムレツに最初に手をつけた。

 真ん中にナイフで切れ込みを入れると、あとは自然にすぅっと裂け、中に包まれていた挽肉の肉汁があふれ皿を満たす。

 他の料理も実にうまくできている。

 「・・・美味いな。(し・・・幸せ・・・・・・。(幸泣))」

 「ああ、氷雨は料理が上手いからな。」

 「・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 静かに食が進む。余りにも静かなので、雷太のナイフとフォークが食器をこする金属音が響くように感じられる。

 やがて、3分の2ほど食べ終わったところで、ついにクロが口を開いた。

 「・・・・・・・・・・・・さて、そろそろ話そうと思うが・・・・・・いいか?」

 「ああ・・・・・・・・・『任務』か?」

 「そうだ。帰って早々悪いがな。」

 雷太は真面目な顔になった。いつものあほ面ではなく、組織の副総長としての顔だ。

 「・・・・・・重要か?」

 「・・・・・・・・・・・・重要だ。」

 クロは真面目そのものだ。

 更に雷太は聞く。

 「・・・失敗の代償は?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロはしばらく黙った。

 本来、任務が大きいほど、重要なほど、失敗の代償は大きくなる。

 が、彼の口から出た言葉は意外なものだった。

 「別に、失敗しても何も無い。」

 「・・・・・・は?」

 余りに意外な答えに、雷太は聞き返す。

 「・・・・・・・・・失敗しても何も無い。
  俺はお前を罰したりはしないし、俺もお前も誰もかもが、その時は何の被害も直接は受けない。
  ・・・・・・・・・ただ・・・・・・。」

 「ただ・・・?」

 「・・・ただ、失敗したとなると、・・・・・・下手をしたら・・・、・・・・・・・・・いずれは世界が滅ぶ。」

 「なっ!!?・・・・・・世界が!?」

 「ああ・・・・・・理由は聞くな。・・・・・・・・・やれるか?」

 雷太は先程のクロの言葉を思い出した。

 ――――――お前になら安心して任せられる。そう、俺は思っているんだがな――――――

 「・・・・・・・・・ああ。」

 「・・・・・・いい返事だ。」

 「・・・内容は?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロはナイフとフォークを皿に置き、微笑した。

 「・・・・・・お前、『ジョー・ディヴィル』って知ってるか?」






第13話 “ジョー・ディヴィル”




 『ジョー・ディヴィル』。



 彼は、世界最高レベルの魔導士。



 彼は、俺が目標とする『2人』の魔導士の内の一人。



 俺はいずれ、彼を越えてみせる。







 by.龍 雷太





 「『ジョー・ディヴィル』?」

 雷太は聞き返した。

 「ああ。」

 「・・・・・・当然だ。知らないほうがおかしい。」

 「・・・・・・・・・まあ、それはそうだな。」



 『ジョー・ディヴィル』。
 彼は世界最高レベルの魔導士だ。
 彼自身は公言していないが、もしかしたら世界最強の魔導士かもしれない。
 魔導士階級の中でも彼しか持たない最高の称号、『魔道の支配者』の位に在り、
 全ての魔法を極めたとされている彼は、全世界の魔導士の尊敬を集め、目標とされている。
 しかし、何とも不思議な事に、実は今まで彼に会った事のある者は誰もいないのだ。
 故に、彼の本名、年齢、容姿、居場所。全てにおいて謎なのである。
 もしかしたら、『彼』ではなく『彼女』の可能性もある。
 様々な予測がされ、探そうとする人が絶えないが、彼の手がかりすら掴めないのである。



 「・・・で、そのジョー・ディヴィルがどうした?・・・・・・まさか捜せってんじゃないだろうな?」

 クロは微笑して言う。

 「まさか。いくらなんでもそんな無茶は言わないさ。」

 「じゃあ何だ?」

 「・・・・・・・・・。もう一つ聞くが、じゃあもちろん『ジョー・ディヴィルの本』は知っているよな?」



 「『ジョー・ディヴィルの本』?」

 雷太はまた聞き返した。

 「ああ。」

 「・・・・・・当然だ。ってか持っていないやつがこの世にいるのか?」

 「・・・・・・・・・まあ、それはそうだな。」



 『ジョー・ディヴィル』。
 確かに、彼には誰も会ったことがない。
 ではなぜ、彼が存在している事が分かっているのか?
 それを証明する唯一つの物が、『ジョー・ディヴィルの本』である。
 前振りをわざわざ読んで頂いている読者様には分かるだろうが、様々な種類があり、
 全ての記述において、正しい事が明記されている。
 いつから発刊されたのかは確認されていないが、そのジャンルは
 殆ど全ての事柄を網羅しており、人々にとって教科書のような存在となっている。
 一般的なタイトル、例えば『料理』や『勉学』等の本については量産済みで何処の書店でも手に入るが、
 『高等魔法』や『暗殺術』等の危険が伴うものは、簡単には手に入らないようになっている。
 そんなこともあり、今や彼の本を持っていない者は殆どいない。
 故に、彼の名を知らないものはいないのである。



 「じゃあ、そのジョーディヴィルの本がどこから発刊されているかは知っているか?」

 「IFPだ。ジョー・ディヴィルから一方的に送ってきて、それをそのまま発刊しているらしいな。」

 「・・・・・・一般的にはそう知られているけどな、実はその間にもう一人いるんだ。」

 「えっ!?そうなの?」

 雷太は驚愕の余り、すっとんきょうな声を上げた。
 同じ魔導士として尊敬する身、彼については結構博識のつもりだったらしい。

 クロは動じず答える。

 「ああ。・・・正確には、ジョー・ディヴィルから『ある男』に原稿などの材料がが送られ、
  その男からIFPにまた送られる過程を経て、ようやく日の目を見るんだ。」

 「へぇ〜。そうだったのか。」

 「・・・・・・ああ。・・・で、今回の任務なんだが、その『ある男』をここにつれて来て欲しい。」



 「?ここへ?」

 雷太は聞いた。人を連れてくる任務だとは予想していなかったようだ。

 「ああ。その男の名は『デューク』。
  本名、『デューク・ウォルフガング・ジャーメイン・ハンター』。・・・・・・まあ、こんな奴だ。」

 そう言うと、クロは写真を投げてよこした。

 「・・・・・・。(なっげえ名前だな。)」

 そう思いながら、雷太は写真を受け取った。

 写真には、長い緑髪で眼鏡をかけ、白衣を着た科学者風の小柄な人物が写っている。

 「・・・・・・一応俺の友人だ。お前が行く事は既に連絡してある。」

 「場所は?」

 「・・・・・・『ジェライス山』の山頂だ。」

 「ゲッ!・・・な、『ナレクト大陸』の北端じゃねえか・・・。
  あそこって人住んでたのか?っていうか何十万kmあると思ってんだよ・・・。(汗)」

 「安心しろ、行きも帰りもちゃんと手はずは整えてある。
  交通手段においては、お前が心配する事は何も無い。」

 「そ、そうか。・・・それならいいんだ。」

 「・・・・・・今も言った通り、一応連絡はしておいたが、念の為に合言葉を教えておく。疑われたら言え。」

 「?双方で決めておいたのか?」

 「・・・・・・いや。」

 「だめじゃん!」

 雷太は突っ込んだ。確かに、一方的に決めたのでは意味は無いはずだが・・・。

 「大丈夫だ。この言葉なら、一方的でも絶対分かる。」

 「へぇ〜。どんな言葉だ?」

 「・・・・・・・・・『JYCD→0=PEACE』。」

 「・・・・・・は?」

 「よく聞いておけよ。『JYCD→0=PEACE(ジッド・ゼロ・ピース)』だ。」

 「・・・なにそれ?」

 雷太は聞いた。分からないのも無理は無い。全くの意味不明だ。

 「まあ、気にするな。『デューク』に言えばそれで分かるんだ。」

 「そ、そうか・・・・・・。」

 「ああ。・・・・・・明日、メンバーを集めて少々話をしたり、任務を与えるつもりだ。
  お前の任務が一番重要なので1日早く言っておいた。出発は3日後だ。」

 「・・・・・・わかった。」

 雷太の顔には自信がうかがえる。
 飯を食べながら話をする事で、必要以上に気負わせないと言うクロの目論見は成功したようだ。

 やがて、昼食は終わり、2人は解散した。



 帰り道、雷太は歩いていた。

 ・・・・・・が、突然立ち止まった。

 「・・・そういえば・・・・・・『デューク』って人を連れて来る事と『世界が滅ぶ』事・・・・・・。
  ・・・・・・・・・一体何の関係があるんだ?」






 ・・・それは、・・・・・・余りにも悲しい事実・・・。






第14話 “再会−ウォルフ&シーバス−”




 拝啓、龍 雷太殿。

 だんだんと暖かくなり、陽炎の出始める季節ですね。

 日頃どのようにお過ごしでしょうか?

 さて、いきなりですが本題と参らせて頂きます。

 もしかしたら御存知かもしれませんが、私は今、『世界有名人物全表』というものを作っております。

 つきましては、それに貴公も載せさせて頂きたいと思いますので、その可否を頂きたいのです。

 もし可ならば、この往復魔法葉書をそのまま送り返して下さい。

 書いて欲しくない事項があるならば、それを明記して下さい。

 否ならば、その葉書は燃してしまって構いません。

 では、宜しくお願いします。





                                                         敬具







 『ジョー・ディヴィルより龍 雷太へ送られた手紙』より全文抜粋





 爽やかな朝だ。

 雲一つない快晴の空は朝焼けに染まり、上空には『シラケ鳥』が鳴きながら飛んでいる。

 他には何も音がしない。

 ・・・・・・爽やかな・・・朝だ。



 「ぃやっっった〜〜〜!!!!!」



 突然何者かの大きな声が響き渡った。

 その驚きと不快さに、周りの生物は全て逃げ出す。

 ・・・・・・最低の・・・朝だ。



 「やったぜ!俺またジョー・ディヴィルの本に載るのか!」

 叫んだのはまだパジャマ姿で郵便を取りに来たこの馬鹿だ。

 《・・・・・・戯けが!》

 しかし戯けは無視しやがった。

 「いや〜、今日はいい朝だなあ。」

 《・・・・・・・・・・・・。》

 やがて雷太は二階に行き、着替えてまた一階へ戻ってきた。

 「さ〜て、朝めしでも作るか♪」

 《・・・・・・こいつ、完全に任務の事忘れてないか・・・?》



 ♪ピーンポーン♪



 「ん?誰だ?こんな朝っぱらから。」

 雷太は玄関へと歩いて行き、扉を開けた。

 「は〜い。」

 「雷太さあああぁぁぁん!!!」

 玄関を開けた途端に何者かが抱きついてきたので、雷太は思わず尻餅をついた。

 「・・・いたた・・・・・・。」

 よく見てみると、抱きついているのは金髪の男で、涙と鼻水を流し、更に無精ひげを生やしている。

 「・・・・・・。(・・・・・・誰だ?)」



 雷太がそう思っていると、金髪の男の後ろ―――雷太の目の前―――に、また人が現れた。・・・・・・女性だ。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 きれいな銀髪に魔法使いが好んで被るとんがり帽子を、
 先をひしゃげさせた状態で被り黒いローブを着て、木でできた杖を持っている。

 「・・・・・・!」

 雷太は、その顔に見覚えがあった。

 「・・・お前、『シーバス』か?」

 「・・・ええ、お久し振りです。」

 女性は落ち着いた声で答えた。

 「って事はこの鼻水まみれの男・・・・・・まさか、『ウォルフ』か!?」

 男は顔を上げた。

 「雷太さぁ〜ん、会いたかったスよ〜。」

 「うわっ!頬ずりすんな!無精ひげが痛え!」

 「・・・・・・・・・・・・。」



 彼の名は『ウォルフ・ハイドレート』。
 雷太より少し背が高く年は24歳。
 髪は金髪で雷太よりやや筋骨たくましく見える。
 『魔法都市』出身の魔導士で、これでもなんと世界に10名しかいない、『第一級魔導士』の1人だ。
 得意魔法は水魔法。



 「うう〜〜〜〜。」

 「鼻水つけんな!ってか泣くな!」

 「・・・・・・・・・・・・。」

 ちなみにさっきからの「・・・・・・・・・・・・。」はシーバスだ。彼女は落ち着いていて、必要以外あまり話さない。

 「雷太さぁ〜ん。」

 「『雷太さぁ〜ん』じゃねえ!お前俺より年上だろうが!」

 考えてもみてほしい。
 突然抱きつかれたうえ、涙と鼻水まみれの顔をくっつけられ頬ずりされているのだ。
 ・・・・・・・・・年上の男に。

 《・・・・・・・・・引くな。》

 ・・・・・・・・・ああ、引くよ。



 「・・・・・・・・・・・・。」

 雷太とウォルフが夫婦問答(笑)をしていると、突然シーバスが杖を上げた。

 「・・・雷魔法『百万火電(メガスパーク(mega spark))』。」

 「ぎゃっ・・・・・・!!」

 一瞬、辺りが全く見えなくなる程強烈な光が走った。

 ウォルフがスローモーションのように、ゆっくりと雷太の家の芝生の上に倒れる。

 「・・・・・・(ぱちくり)・・・おおーい!なにやってんだ〜!!」

 「・・・話が進まないわ。」

 「いや、だからって・・・・・・ねぇ。(汗)」

 雷太は目をそらした。辺りには何か肉が焦げるような匂いが漂っている。

 「大丈夫です。彼も一応魔導士の端くれ。これくらいじゃ死にません。
  ・・・・・・・・・・・・後遺症は残るかもしれないけど。(ぼそっ)」

 「・・・・・・。(おいおい・・・。)(汗)」

 「とにかく、私たちは用があって来ました。家に入れてくれませんか?」

 「はい・・・・・・、わかりました。」

 平然としたシーバスと青い顔の雷太は、真っ黒焦げになった肉塊を抱えて家に入った。






第15話 “3人の第一級魔導士”




 (前略)・・・さて、今現在魔法が使える全ての者を『魔法使い』と呼ぶのですが、

 実際にはその『魔法使い』にも、使える魔法の強さなどに応じた階級というものがあり、

 一応階級が高いほど魔法の能力が高いようになっています。

 では、その階級をご紹介しましょう。

魔道の支配者(マスター・ウィザード)
零魔導士
第一級魔導士
第二級魔導士
第三級魔導士
第四級魔法使い
(数字が加算されるだけなので省略。)
第十級魔法使い
魔法使い




 ・上に行くほど階級が高い。


 ・階級を得るには、『魔法協会』が年2回行う『魔法検定試験』を受け合格する必要がある。
  『魔法検定試験』は魔法さえ使えれば誰でも無料で受けられるが、合格率は異常に低く、
  ただでさえ少ない魔法使いの殆どが、『魔法使い』の階級であるのが現状である。


 ・『魔道の支配者(マスター・ウィザード)』とは全ての魔法を使いこなせる者の事であり、
  現在では『ジョー・ディヴィル』、つまり私しか登録されていない。
  ・・・・・・・・・・・・・・・が、もしかしたら他にもいるかもしれない。可能性はある。







 『ジョー・ディヴィルの本:魔法概要』より所々抜粋(図表含む)





 『ナレーター様、ユウ、シーバス』の―――前回のお話(超短)―――

 昔々、ある所に『ウォルフ』がいました。

 《かわいそうなウォルフは興奮するあまり雷に打たれ真っ黒焦――――――

 「・・・いいえ、生焼けよ・・・。」

 《・・・・・・・・・・・・いえ・・・・・・。(汗)》



 「すみません、お風呂までかりちゃって。」

 「いや、いいよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ここは1階のリビングだ。
 中心にある四角テーブルに、雷太と2人が向かい合う形で椅子に座っている。

 煤を落とす為に雷太の家の風呂を借りたので、ウォルフの頭からは湯気が立っている。
 乱れていた髪も整え、髭も剃ったようだ。

 「いや、・・・しかしびっくりしたぜ・・・。いきなり抱きついて来るんだもんな・・・・・・。」

 「びっくりしたのはこっちですよ!」

 ウォルフは机を叩いた。また雷太はびっくりする。

 「!?・・・えっ?」

 「3年前突然、『修業に行く』って言って出て行ったっきり戻ってこなかったじゃないですか!」

 「う・・・・・・。」

 「しかも連絡を1回もよこさないし!!」

 「うう・・・。(お前は母親か!?)」

 「寂しかったっスよ〜。」

 そう言うウォルフの目には、また涙が溢れてきている。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・・・・。(汗)」



 「ずっと・・・・・・待ってたのに・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・。(汗)(・・・どうでもいいけど、こいつこのままだと読者にホモだと思われるぞ・・・。(汗))」

 「・・・ずっと・・・ずっと・・・ずっと・・・・・・。」

 ウォルフの声が次第に小さく、そして低くなっていく。

 「・・・・・・?・・・・・・!(まさか!?)」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「・・・・・・雷太さあああぁぁぁん!!!」

 ウォルフはテーブル越しにいる雷太に向かってジャンプしようと構えた。

 「うわっ!?また――――――

 「・・・雷魔法『稲妻の先端(ライトア・ティプス(lightning tips))』。」

 「ぎゃっ・・・・・・!!」

 またもや、辺りが全く見えなくなるほど強烈な光が走った。

 勢いを殺されたウォルフが、スローモーションのように、ゆっくりとテーブルの上に倒れる。

 「・・・・・・(ぱちくり)・・・おおーい!ってまたかよ!!・・・・・・・・・い、椅子が・・・。(汗)」

 ウォルフが座っていた椅子はものの見事に丸焦げだ。

 「・・・話が進まないわ。」

 「いや、だからって・・・・・・ねえ。(汗)・・・・・・・・・しかも全く同じ展開・・・。」

 シーバスは落ち着いて答える。

 「・・・大丈夫です。1回目は生焼け、そして今回は丸焦げ。れっきとした違いがあります。
  読者は次、彼が炭になるのを期待しているはずです。」

 「いや、してないよ!もう飽きてるよ繰り返しに!・・・・・・・・・炭って・・・・・・。」



 彼女の名は『シーバス・サザーランド』。
 雷太より少し背が高く年は24歳。
 きれいな銀髪に魔法使いが好んで被るとんがり帽子を、
 先をひしゃげさせた状態で被り黒いローブを着て、木でできた杖を持っている。
 『魔法都市』出身の魔導士で、彼女も世界に10名しかいない、『第一級魔導士』の1人だ。
 得意魔法は雷魔法。



 「それに、読者にホモだと思われるくらいなら、まだ印象が薄いうちに消してあげるのも情けです。」

 「・・・・・・。(こ、怖え〜〜〜!!)」



 暫くして、3人はテーブルに着いた。
 また風呂に入ったウォルフとシーバスと雷太。
 再度仕切りなおしだ。

 まずは雷太が口を開いた。

 「・・・・・・で、結局お前ら何しに来たんだ?」

 「いや〜、それがですね・・・。」

 ウォルフが笑いながらも、言いにくそうに答える。

 「実は・・・・・・。」

 「待って。」

 とっさにシーバスがウォルフを止めた。

 「雷太さん、朝御飯食べました?」

 「・・・・・・・・・は?」

 突然何を言い出すのか。雷太は唖然とした。

 「・・・・・・い、いや食べてないけど。」

 「それならば、私が作りましょう。キッチン借りますね。」

 「・・・・・・僕は?」

 ウォルフが聞いた。

 「あなたは雷太さんに説明していればいいわ。私は別にする事が無いしね。」

 「・・・・・・・・・。(暇なんだな・・・。)」

 雷太の了解も得ずに、シーバスはキッチンへと入っていった。
 喜ぶべき事かもしれないが、彼らは3年前と全く変わっていないようだ。

 とりあえず雷太は気を取り直し、再びウォルフに聞いた。

 「・・・・・・で、結局お前ら何しに来たんだよ?」

 「実は・・・・・・・・・。」

 ウォルフはまた口ごもり下を向いた。どうやら、相当言い難い事らしい。

 やがて、彼は勢い良く顔を上げた。意を決したらしい。

 「雷太さん・・・・・・僕達と一緒に来ていただけませんか?・・・・・・『魔法都市:ルーン・シエイア』へ。」



 「・・・・・・またいきなりだな・・・。」

 雷太は言った。ウォルフが目に見えて焦る。

 「済みません、本当は事前から頼んでおくべきなのでしょうが・・・・・・。」

 「雷太さん、火を使わせてもらいますね。」

 キッチンの方から声がした。

 「ああ、いいよどうぞ。・・・・・・大体から俺は組織者だしな・・・。」

 これはまずい。ウォルフが焦って言う。

 「いや、それは余り関係ないかと・・・。雷太さんは人気ありますし・・・・・・。」

 「・・・炎魔法『撫で火(ファイア・ストロク(fire stroke))』。」」

 「しかし、俺たちは世界を・・・・・・!?・・・おおーい!なにやってんだー!!」

 「・・・え?これ、魔法点火式じゃないんですか?」

 「あほか!!そんなのあるの『魔法都市』だけじゃん!ガスだよ普通の!」

 キッチンコンロはメラメラと燃え上がっている。

 「わー!!やべえ!・・・・・・!そうだ、水魔――――――



 ドカ―――ン!!!






第16話 “合意−必須の理由−”


 「断る。」

 「なっ・・・・・・!?」

 ウォルフは驚愕した。予測はしていたが本当に断るとは・・・。

 「・・・まずかったですか?」

 シーバスが聞いた。雷太は少々慌てて答える。

 「いや、おいしかったよ、ありがとう!・・・・・・ってかそれは関係ないだろ。」

 「じゃあ、なんでですか?」

 ウォルフが聞いた。少々の間の後、雷太が答える。

 「・・・・・・さっき行った通り、俺は組織者だ。世界を奪ろうとしているものの一人。
  ・・・まあ、それがいいにしても・・・・・・、今ちょうど任務受けたところなんだよ・・・。・・・内容は教えられないがな。」

 「ま、まさか・・・『魔法都市』壊滅計画!??」

 「違う。(汗)・・・統べようとしてるのに壊してどうすんだよ・・・。
  大体お前らこそ、なんでそうまでして俺を連れて行きたいんだ?」

 「・・・それはですね・・・。」

 珍しくシーバスが口を開いた。
 ウォルフのフォロー・・・・・・いや、ここは恐らくウォルフに任せていては一向に埒があかないと判断したのだろう。

 「・・・現在、魔法都市は目立つ強力な魔導士が少なく、活気が無い状態なんです。
  雷太さん・・・、我らが第一級魔導士のリーダーが都市を訪れる事によって、一時的にでも活気を取り戻すでしょう。
  ・・・・・・・・・・・・・・・それに・・・・・・。」

 「・・・・・・それに?」  ウォルフとシーバス、二人の顔に汗が流れた。

 「・・・・・・例の封印が・・・・・・・・・解けかかっています・・・。」

 「!!・・・・・・・・・『C・Kの封印』か・・・・・・。・・・・・・そいつはまずいな・・・。
  ・・・・・・早急に魔力を注がないと・・・・・・。」

 どうやら、話から察するに、『魔法都市』では『何か』が魔法の力によって封印されているらしい。
 その封印が壊れると相当まずいようだ。

 「・・・だから雷太さんに来て欲しいんです。少しでも封印に使う魔力を上げたいので。」

 「・・・・・・・・・・・・。」



 雷太は考えた。

 「・・・・・・・・・・・・解けるまでどのくらいだ?」

 「・・・約、1ヶ月といったところです。」

 シーバスが冷静に答える。

 「・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は再び考える。本当なら行きたくないのだが、どうやらそうもいかないらしい。

 「・・・・・・・・・わかった、行くよ。」

 「本当ですか!?」

 ウォルフが嬉しそうに言った。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 シーバスも珍しく、ほっとした表情を見せる。

 「ただし!行くのは任務が終わった後だ。
  どうしても外せない任務なんでな。・・・・・・それでいいだろ?」

 「はい!ありがとうございます!」

 「・・・ありがとうございます。」

 「いや、いいけど・・・・・・。・・・・・・!」

 雷太は部屋の壁掛け時計を見た。時刻は既に、午前11時を指している。



 「さて・・・、話もまとまったし、そろそろ俺もクロのところに行かなきゃな。
  お前らはどうするんだ?まさか俺が任務から帰るまでここにいるのか?」

 首を振って、ウォルフが否定する。

 「いえいえまさか。まだ早いんで、少しエクセスの街を見物してから帰ります。
  僕もシーバスも、ちゃんと教職の有給は取ってますし。」

 何を隠そう、これでも彼らはれっきとした教師なのだ。
 ウォルフの性格で教師が務まるのか疑いたくはなるが、職場では意外と優秀らしい。

 「・・・じゃあ、そろそろおいとましますね。」

 「ああ。」

 「かならず来て下さいよ雷太さぁん・・・。」

 そう言うウォルフは寂しそうだ。雷太は正直引く。

 「あ、ああ・・・、1ヶ月以内には必ず行くよ・・・。」

 「・・・では、失礼しました。」

 「さよなら雷太さぁん!」

 シーバスと涙目のウォルフは去って行った。

 一気に家が静かになる。

 「・・・・・・さて、俺も行くか。・・・なんたって今日は――――――

 雷太は心を引き締めた。

 ――――――任務言い渡しの日だ。」



 午前12時半、雷太は走っていた。

 「うっ・・・・・・おおおおおおぉぉぉぉ!!既に遅刻だ〜〜!!・・・・・・・・・こ、殺される!!」

 《どっかで見たぞこのシーン・・・。・・・・・・ってか何故にあれから一時間半も・・・・・・?》

 ・・・・・・それは謎だ。






第17話 “おんぼろ飛行機で行こう〜なんとか飛行編〜”


 がたがたがたがた・・・。

 揺れている。

 荷馬車ではない。

 《子牛もいない。》

 中にいる雷太は一人、青い顔をしてつぶやいた。

 「・・・・・・なぜ・・・こんなことに・・・?」



 二日前、ウォルフ達と別れた雷太はクロに言われたとおり、その日の会合に出席した。(遅刻したが。)
 そこでもう一度正式に任務が各々に言い渡され、
 隠密的な行動を取るよう諭さると同時に、再び雷太の任務の重要性が強調された。
 (新太郎は自分でなく雷太である事に不満なようだったが、あとでクロになだめられたらしい。)
 そのときもクロはこの前と同じ、この言葉を言った。
 『手はずは整えてある。交通手段においては、お前が心配する事は何も無い。』



 「・・・・・・そう・・・確かに言ったんだよ・・・・・・。・・・なのに・・・。」

 雷太は周りを見回した。

 「なんなんだよこれは!!!?」



 雷太が今乗っている小型飛行機。
 それは見た目も中もボロボロだ。
 どう見ても木で出来ている上、大部分に釘が使われており、中にさえ機械類は見当たらず、軋む床は今にも抜けそうだ。
 雷太が座っている椅子も木でできていて、当然客室乗務員などはいやしない。

 今日、クロが指定した場所に行くとこれがあった。
 『乗れ。』という一言とクロの名前が書かれた紙があった為乗ったところ、
 勝手に発進しこのざまだ。



 《・・・・・・・・・でもオート操縦は付いてるんだな・・・。》

 常にがたがた揺れており、いつ空中分解してもおかしくないような気がする。

 「こ、怖えぇ・・・。・・・・・・・・・!?・・・。」

 雷太は席を立った。どうやら、用を足したくなったらしい。



 「・・・っつーかこのオンボロにトイレとかあるのか?」

 ぶつぶつ言いながら雷太が後ろの木で出来た扉を開けると、右に『WC』と書かれた扉があるのが目に入った。

 「おっ!こんなオンボロでも一応あることはある――――――

 扉を開けた雷太の言葉は途中で途切れた。

 穴が開いている。

 分かる人には分かるだろう。ある意味爆撃だ。

 激しく穴を出入りする風が、雷太の髪を書き上げた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は無言で扉を閉めた。

 《我慢は体に悪いぞ。》

 「あんなところで出来るか!地上の人がかわいそすぎるだろ!!」

 《いや、風でむしろ昇天するかもよ。》

 「黙れ。」

 雷太は諦めて元の場所に戻ってきた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 椅子が崩れている。

 「・・・・・・・・・・・・帰ったら絶対にクロに文句言ってやる。」

 生きて帰れたらの話ではあるが。

 「・・・・・・・・・。・・・・・・氷雨さん・・・、俺はピンチです・・・。」

 雷太は床にあぐらをかき、財布から氷雨の写真を取り出した。

 《盗撮は犯罪です。》

 「ちげーよ!!ちゃんと了承もらって撮ったわ!!あほかお前!
  ったく・・・。・・・・・・・・・・・・。」

 雷太は暫く考えた。
 初めて氷雨にあった日のあの感覚。彼はそれを人生で二度経験した。
 一度目は幼少のころ故郷で。そして二度目は氷雨と。
 果たしてあの感覚はなんなのか?
 そして氷雨は雷太の事ををどう思っているのか?
 それは未だに分からない。
 雷太はため息を着いた。

 《・・・・・・恋に悩める男か・・・。・・・キモい。》

 「・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・!??」

 ふいに床の揺れが激しくなった。



 「まさか・・・!?落ちるのかマジで!!?」

 本当に何時落ちてもおかしくは無い。雷太は念のためすぐに魔法が使えるよう、魔力を操作した。

 ・・・そのとき――――――



 バリィッ!!



 激しい音と共に何かがボロボロの床を突き破って現れた。

 「うおおっ!!・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 雷太は身構えをひょうしぬけた声と共に崩す。

 現れたのはどう見てもテレビだ。多数の配線が床に繋がっている。

 思わずテレビを無視して抜けた床下を覗き込むと、機械がびっしりしいてある。

 どうやら、ボロなのは外装と内装だけのようだ。

 と、テレビが砂嵐状態になった。雷太はテレビに注目する。

 『雷太か?俺だ。』

 テレビに映ったのはクロだ。雷太は様々な感情が交じり、言葉が考えるよりも先に堰をきったようにあふれ出た。

 「クロ!?いたのか!あ、テレビか。ってかなんだよこのボロ飛行機!?
  ってか何故か中は機械まみれじゃねーか!どういうことだ!?ってかここどこだ!??・・・・・・。」

 しかし、モニターのクロは雷太の言う事を一切無視して言った。

 『いいか、これは録画された映像だ。お前の問いには一切答える事ができない。』

 雷太は事実を知り、少し赤面する。慌てすぎた。

 『これから俺がわざわざこんな見かけボロの飛行機でお前を行かせた計画を説明する。心して聞け。』

 雷太は画面に集中した。



 ―――――― 一方その頃。



 クロはいつもの書斎にこもり、いつものように書類を書いていた。

 彼が書く書類は一体どれほどの量なのか・・・・・・。

 少なくとも、一般人ならば既に音を上げている量のはずだ。

 世界を動かす為の書類だとしても、果たして何が彼をそこまでさせるのか。

 それを知る者はいるのだろうか・・・。



 ヴ―――ン!!



 彼の携帯のバイブレーションが作動した。着信有りだ。

 彼はすぐさま携帯に出る。



 「俺だ。」

 電話の向こうからは、陽気そうな関西弁が聞こえてくる。

 「クロちゃんお久しやな〜♪」

 クロは携帯を切った。すぐさま、何事も無かったかのように再び書類に手をつける。

 再び携帯のバイブレーションが作動した。クロは同じように取る。

 「俺だ。」

 「すまんすまん、そんなに怒らんとって〜な。」

 「『ちゃん』付けとは余裕だな、よっぽど斬られたいらしい・・・。・・・・・・何だ?」

 「だからすまんて!わいや!『情報屋ギン』や!!」

 「そんなことは分かっている。だから『何だ?』ともう聞いているんだ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 電話の向こうの相手は閉口したようだ。

 ちなみにクロがこう無愛想なのはいつもの事である。



 どうやら、電話を掛けてきた相手はクロの知り合いの『情報屋』らしい。
 今の混乱する世の中情報が命。
 如何に敵や世界の情報を知るかによって自分の立場や優位が全く違ってくる。
 そのため、他の組織同様、クロも複数の情報屋を専属で雇っているようだ。



 「全く・・・。相変わらずやな、友達なくすで。」

 「お前に言われる筋合いは無い。・・・・・・・・・で、何だ?」

 相手は一寸息を置いた後、がらりと空気を変え冷静に話し始めた。流石はプロと言ったところか。

 クロも反応し真面目な対応を取る。

 「あんさん、今組織でこっそり動いとる言うたな?」

 「ああ、言った。今ちょうど数人動かしたところだ。」

 「少し・・・・・・まずいかも知れんで・・・。」

 「・・・・・・どういうことだ。」

 「実はな・・・、さっき入った情報なんやけど・・・・・・。」






第18話 “おんぼろ飛行機で行こう〜墜落編〜”


 テレビの中のクロは話し始めた。雷太は集中して聞く。

 『本来、この計画は非常に危険なものだった。
  元より世界でも有名なお前を『人の迎え』なんかに使うんだ。
  情報が漏れれば大抵の組織、そしてIFPに警戒、妨害される事は間違いない。』

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 それはそうだ。実は雷太は結構有名人である。

 《生意気な事に。実に悲しきかな。》

 「・・・・・・・・・。(てめえ!)」

 『そして情報は漏れるものだ。いかに漏らすまいとしてもな。
  故に今回は虚偽の情報を、見破られない程度にわざわざ小規模で事前に流しておいた。
  『龍 雷太は立派な一人用飛行機で、今日ではなく明日にジュッペ〜ル大陸に行く。』とな。
  これだけでも十分な対策にはなった。』

 雷太は感心した。確かに、嘘の情報を流すのは得策だ。
 ただ、余り大げさに流したのでは瞬時に怪しいとばれる。
 故にクロは相手が血眼になって欲し、それでようやく得られるほど狭い規模で、情報を流したのだ。

 「・・・・・・でも、そこまでしなくても・・・俺じゃなければいいんじゃ・・・?」

 ちなみにこのテレビは録画で雷太とは応対できない。

 《テレビに質問した雷太が痛い子なだけです。・・・・・・ぷっ。》

 しかし、クロはその質問を想定していたらしく、直ぐに言葉を続けた。

 『もちろん、お前を選んだのには理由がある。
  お前でないと出来ない事があってな。その為だ。』

 「?なんだそれは?」

 クロは当然だが、無視して続ける。

 『そしてそれはデュークのところへ付いてから奴にでも聞け。』

 「ちぇっ。クロめ、テレビでもケチなやつだな。」

 『黙れ。ケチじゃなくて時間が無いんだ。』

 「!!???」

 雷太は引いた。これ本当に録画か?普通に返答したような気が・・・・・・。
 しかし、画面は間違いなく録画のものだ。



 『説明を続けるぞ。
  先程言ったように虚偽の報告を流し、お前にはこの見かけボロの少々大きな飛行機でデュークのいるナレクト大陸へ飛んでもらっている。
  いくら頭がキレる奴でも。全く違う方向に、そして明日ではなく今日、このようなボロ飛行機に
  お前が乗っているとは考えないだろう。
  余りにもボロ故に疑われる可能性もあるが、その為に飛行機の機底には民間専用のマークを入れている。』

 雷太は更に感心した。

 「なるほど・・・・・・、疑えても蓋を開けるまでは分からないんだな・・・。」

 『ちなみにこの飛行機は既にナレクトに入って結構立つ。』

 「ふ〜ん・・・、意外と早いな・・・。」

 『そしてもうじき墜落する。』

 「ふ〜ん、なるほど・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!!!??」

 雷太は思わず立ち上がった。

 「なんだよそれ!?聞いてないぞ!ボロは見かけだけじゃあないのか!?」

 『落ち着け。実はこの飛行機は煙を出し、がたがた揺れながら飛行している。
  一般市民が恐怖のあまりIFPに通報しない程度にな。
  そんな飛行機がしっかりと、短時間で往復をするのはおかしいだろう。』

 雷太はもの凄く焦る。なにしろ普通墜落したら・・・・・・。

 「そ、それはそうだけどよ・・・!!」

 画面のクロは続ける。

 ちなみに何度も言うがこれは録画の映像だ。クロが雷太の言動を予想して撮ったに過ぎない。

 『故に、ある場所に墜落させる。デュークには既に連絡済みだ。
  帰りの方法も既に伝えてある。安心しろ。』

 「できるか!!普通飛行機墜落したら死ぬんだぞ!!?」

 『残り10秒。』

 「うおいっ!カウント短かっ!!」



 ―――――― 一方その頃。



 クロと例の『情報屋ギン』は話の真っ最中だ。

 「実はな・・・、さっき入った情報なんやけど・・・・・・。」

 ギンは言いにくそうだ。まずい情報らしい。

 こいつがこういうときは本当にろくな情報が無い。クロは静かに言葉の続きを待った。

 「IFPが・・・・・・動き出しとるで。」

 「・・・・・・・・・情報が漏れたのか?」

 「いや、ちゃう(違う)。時の一致は偶然や。ただ、彼らももうちまちました行動に限界なのかも知れんな。
  はりきって悪人を成敗、だ捕しとるわ。」

 「それならば問題ないだろう俺達には関係ない。」

 「・・・・・・ところが、そういうわけにもいかんのやな。」

 「・・・・・・・・・どういうことだ?」

 クロは煙草を深く吸った。落ち着くにはこれに限る。

 「今回動いたのな・・・、ずいぶんとお偉いさんなんや・・・。」

 「なんだ?ついに『軍曹』がうごいたか?」

 ギンはすぐさま否定する。

 「ちゃう。」

 「じゃあ、『曹長』か?」

 「ちゃう。」

 クロの煙草の減りが早くなる。ついに、彼のペンを走らせていた左手が止まった。

 「まさか・・・・・・・・・、『将校』が・・・?」

 「ちゃう。」

 クロはまだ吸える煙草を灰皿に押し付け、新しいものを取り出した。

 「もったいぶるな・・・。・・・・・・・・・誰なんだ?動いたのは?」

 「わいもあんさんも、こいつにだけは動いて欲しくなかったんやけどな・・・。
  相当たちが悪い奴や・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・誰だ?」

 ギンは一息ついて答えた。

 「・・・・・・・・・・・・『鉄人』や。」

 「・・・・・・!!・・・・・・・・・・・・・・・。」

 まだ火をつけていない煙草が、クロの手からすべり落ちた。

 「・・・・・・・・・馬鹿な・・・・・・『大佐』だと!??」



 ―――――― 場はまた変わり、飛行機の中。



 テレビの中のクロはカウントを続ける。

 『残り3秒。』

 「やべえ!あと3秒かよ!!」

 雷太は焦る。下手をすればあと3秒でおだぶつだ。

 《じゃあな雷太。結構楽しかったぜ!!》

 「あほか!?なんだその嬉しそうな声は!!?・・・・・・あ゙〜ちくしょう!!
  防御魔法『激柔(クレイジー・パフ(crazy puff))』!!」



 ズド―――ン!!!



 おんぼろ飛行機はある山の山頂へ墜落した。

 激しい衝撃に負け、機体がグシャグシャになり地をすべる。

 やがて、50メートルほど滑り、飛行機は止まった。

 もう二度と飛べそうに無い。

 衝撃と熱で溶けた雪解け水が、山頂より下へ流れる。

 再び、音の無い、雪が降るだけの世界となった。

 雷太は・・・・・・・・・影も形も見えない。

 《!?・・・・・・マジ死んだ!??》

 白の世界。オレンジは目立つはずなのだが――――――






第19話 “おんぼろ飛行機で行こう〜爆発編〜”




 (前略)・・・さて、世界全ての組織を潰し、平和を取り戻そうとしているIFPですが、

 軍隊なので当然『実務能力』、『強さ』に応じた階級というものがあり、

 一応階級が高いほどそれらの力が高いようになっています。

 では、その階級をご紹介しましょう。

元帥
大将
中将
少将
大佐
中佐
少佐
大尉
中尉
少尉
見習士官(少尉候補生)
准将校
准尉
曹長
軍曹
伍長
伍長勤務上等兵
上等兵
一等兵
二等兵
三等兵(新兵)




 ・上に行くほど階級が高く、基本的に強い。


 ・上の階級に加え、それぞれ『陸軍部』、『海軍部』、『空軍部』それぞれの部に一人ずつとなる。


 ・階級は、その功績やその者の心、強さなどを総合して審査され上がってゆく。
  当然、上がらない者もいる。


 ・基本的に現在は停滞期の為、『曹長』以上は動いていない。
  自分らが動いたおかげでの停滞期解除、組織大戦復活は防ぎたいからだ。
  しかし、正義の心は絶やしていない。






 『ジョー・ディヴィルの本:IFP』より所々抜粋(図表含む)





 ここはジェライス山。
 ナレクト大陸の北端に位置する山だ。
 標高は軽く一万を越え、一年中雪が降るその頂上はまるで斬られたように真っ平。
 生物は棲んでいるが、人間は住んでいないとされている。

 その山に、先程小規模だが衝撃が走った。雷太の乗った飛行機が墜落したのだ。

 飛行機はその後動きを止めたが、雷太は未だに出てこない。

 《やつは星になったのさ。現実を受け止めようぜ。(ガッツポーズ)》

 とそのとき、空から何かがゆっくり降ってきた。雪ではない、茶色だし大きすぎる。
 その物質は、静かにパフッと雪原に着地すると、やがて形が崩れだした。

 「あ゙――!!死ぬかと思った!」

 中から現れたのは雷太だ。
 彼を覆っていたふわふわの物質は、ゆっくりと形と性質を変え、いつも雷太が着ている茶色のラフな上着に戻った。

 防御魔法『激柔(クレイジー・パフ(crazy puff))』。

 どうやら、指定した物質を非常に軽く、そして柔らかくする魔法らしい。
 その軽さのおかげで、衝突時飛行機から空中に投げ出されたのだ。

 《・・・・・・・・・ちっ!》

 「『ちっ!』じゃねーだろ。・・・・・・・・・しかしここは・・・。」

 雷太は辺りを見回した。
 後ろは崖、それ以外は完全に白の世界だ。今も雪が降っている。

 「ここがジェライス山か?・・・・・・初めて来たけど。
  ・・・・・・・・・・・・・・・寒っ!」

 当然だ。標高一万m以上のうえ雪まで降っている。寒くなければ異常だ。

 「うう、これはまずい・・・・・・、
  大気魔法『暖気定域(ヒート・アトモス(heat atomosphere))』。」

 雷太の身の回りに、目に見えない暖気の幕が張られた。そこだけ雪が解ける。

 「はぁ〜。あったけ〜♪」

 《こいつはこれがあるからな・・・。・・・・・・この卑怯者が・・・。》

 と、そのとき――――――

 『ザ、ザザ――!・・・ちなみにここがジェライス山だ。』

 雷太は振り向いた。なんと録画テレビがまだ付いている。
 頑丈と言うか、運が良いというか・・・。
 配線がぐちゃぐちゃになった分、時折砂嵐が入るようではあるが。

 雷太はテレビに近づいた。



 『このまま真っすぐ直進すれば、いずれはデュークの家に着く。・・・・・・ザザ――――!!』

 雷太は後ろを振り向いた。しかし、向こうは雪霞のおかげで全く見えない。

 「まあ、行けば分かるか・・・。
  ・・・・・・ってかこの録画いつまで・・・?」

 『ザ―!・・・一応行っておくが、この飛行機からはすぐに離れた方がいい。』

 「?・・・なんで・・・・・・・・・。・・・・・・げっ!まさか!?」

 雷太は慌てて飛行機の後部を見た。
 橙色の液体燃料が、機体からドクドクと流れ出ている。

 《・・・お約束だな・・・。》

 「・・・・・・・・・!!!」

 雷太は青い顔をして、声も発さずに駆け出した。



 ドォン!!



 雷太のその行動を待ったかのように燃料は爆発し、飛行機は吹っ飛んで地上へと落ちていった。

 辺りには少量の火の粉と、機体の破片がぱらぱらと降り注ぐ。

 「あっっっぶね〜!!」

 なんとか危機を奪した雷太の足元に、テレビがころころと転がってきた。
 まだなんとか付いている。

 『・・・・・・・・・・・・予想外のザ―・・・事態だ。』

 「嘘付け!そこまで録画してるって事は予想済みだろ!」

 『ザ、ザザ――!ザ――――・・・・・・・・・・・・プツン。』

 配線を失ったテレビは完全な砂嵐となり、やがて消えた。

 雷太は立ち上がる・・・。

 「とにかく、まっすぐ進めばいいんだな・・・。」

 彼は雪霞の濃いほうへ向かって歩き出した。



 ―――――― 一方その頃。



 相変わらず、クロとギンは話し中だ。

 「・・・・・・・・・馬鹿な・・・・・・『大佐』だと!??」

 クロは思わず机を平手で叩き立ち上がった。

 「そうや・・・・・・。通称『鉄人』。あの『IFP空軍部大佐』が動いたんや。」

 クロはとりあえず座った。煙草を手に取るがくわえるだけで火をつけない。珍しく動揺している。

 「あの『正義の塊』か・・・。迷惑な事だな・・・。」

 「せやな。わいら情報屋も大変なんやで、動きにくくてかなわんわ。」

 クロは煙草に火をつけた。深く吸う。

 「・・・・・・・・・・・・。行動内容は何だ?」

 「ん〜、まあようわからんけど、各基地の見回りらしいで。・・・・・・組織の直接討伐とかやないみたいやな。
  情報によると、今日はチャンポンチャン大陸の『IFP空軍部第5支部基地』に向かうらしいわ。
  やからたぶん会わへんとは思うけど・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・もし会ったら大変な事になるで・・・。
  やから一応忠告がてらに電話したんや。」

 実際、これは大問題だ。
 これまで各組織と同じように殆ど個人や警察単位で動いていたIFPが、突然組織で動き出した。
 しかも、動いたのはいきなり大物だ。

 「そうか・・・・・・・・・・・・。」

 ギンは一拍置いて静かに聴いた。

 「一つ聞くわ。・・・・・・あんさんが今日使いに出した組織のメンバーの中で、
  もし、あいつ・・・『鉄人』に会ってしまって戦った場合・・・・・・。
  勝てるのはおるんか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 クロは長く黙り考えた。

 ギンは静かに待つ。

 クロの頭には雷太、新太郎、ヴァンの顔が浮かぶ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 やがて、ギンは言った。

 「あかん質問やったみたいやな、すまん。情報は以上や。
  じゃあ、切るで。会わへんといいな。」

 「・・・・・・・・・ああ。」

 クロは携帯を切った。
 新たな煙草に火を付け、書類を再び書き始める。
 少したってその手が止まった。

 「・・・・・・いるか・・・?」

 彼は静かにつぶやいた。

 今の状況では決して会うことは無い。
 しかし、もし会えば終わりだ。



 ―――――― 場は再び変わりここは雪霞の中。



 雷太は歩いていた。

 「・・・ま、まだ付かないのか・・・?
  よく見えなかったけど、この山頂滅茶苦茶広いな・・・。」

 とはいえ、そろそろのはずなのだが・・・。



 ―――――― 一方その頃。



 ここはどこだろう?
 どこかは分からないが巨大な城がある。
 その大きな門は閉ざされていて、その門の前には一人のものが居た。
 どうやら、高山雪うさぎと遊んでいるようだ。
 しかし雪は少しも積もっておらず、降ってさえもいない。・・・・・・雪がない。



 ♪ピ――――――ピピ――――――ピピ――――・・・・・・♪



 突然、妙な音が鳴り出した。どうやら警報のようだ。

 しかし、そのものにしか聞こえないような音であり、耳が良いはずのうさぎですら反応を示さない。

 そのものは顔を上げ立ち上がった。

 うさぎが不思議そうに彼を見る。

 「・・・・・・・・・・・・・・侵入者・・・?」

 そのものは歩き出した。